第40話
りんなお嬢様に、言うことを聞かせた来栖さん。
勝利に酔いしれているかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
「私としては、どこの誰かも教えてほしいところですがね」
まだ納得していないとしても、これ以上聞き出すつもりは無いようで、とても安心した。
緋郷の時以上に、冷や冷やとしてしまった。
来栖さん、本当に一皮も二皮も剝けた。
その変化が、彼にこれからどんな影響を与えるのかは、今はまだ分からない。
「しかし、まあいいです。一番大事なことは聞けましたから。思っていた通り、この島で死んでいる人は存在していました。これが意味することは、幽霊が出てもおかしくはないということなんです。私は、二人を殺したのは幽霊だと、断言いたします」
これで話は終わったとばかりに、来栖さんは口を閉ざした。
何も解決していないし、誰も納得していないが、藪をつついて蛇を出したくはないので、誰も何も言わなかった。
ふと、賀喜さんはこの状況をどう思っているのか、それが気になった。
きっと恋人関係である来栖さんが、急におかしなことを言い出して、百年の恋も冷めてしまったのではないか。
心配と好奇心から、賀喜さんを見ると、僕の心配は無用だと察した。
賀喜さんは、うっとりとした表情で、来栖さんを見ていた。
その顔からは、負の感情は一切見られない。
恋は盲目、それか元々彼女もそっち側だったのかもしれない。
どちらにせよ、お似合いのようで何よりだ。
長かった来栖さんの番が終わったはいいけど、りんなお嬢様は、次に誰が話すのかと聞かない。
これは、完全に疲れている。
その気持ちは痛いほど分かるので、ここで小休憩を挟むことに、自然となった。
気を遣った冬香さんが、全員の前にお茶を置いてくれた。
僕はありがたく手に取り、湯呑みを傾ける。
「やっぱり、温かいお茶はいいですよねえ」
こういう時は、日本人に生まれて良かったと、単純に思う。
そう思うのは僕だけではなく、全員がお茶を飲んで、表情を緩めていた。
この一時があれば、先程までのとんでもない空気なんて、過去のものだと割り切れてくる。
頭の痛みも和らいだので、リラックス効果抜群だ。
柔らかいものへと変わった空気のおかげか、お茶を飲み終えると、すぐにりんなお嬢様が口を開いた。
「先程は少し取り乱してしまいましたわ。それでは話の続きを……次は誰にしますの?」
大爆発を落として、全てを焼け野原にした来栖さんの後。
誰も話をしたくないと思っていたのだけど。
「はいはーい。次はあ、私が話をしますう」
さすが今湊さん。
こんな状況の中で、率先して手をあげるなんて。
僕だったら、到底無理だ。
今残っているメンバーだと、めちゃめちゃになった空気を戻してくれるか、さらに違ったものに変えられるか、それが期待できるのは彼女だけである。
「あら、あなたなの。それじゃあ、お話してくださるかしら」
そして、今湊さんはりんなお嬢様のお気に入りなので、彼女の精神を回復する役割も担っていた。
「それじゃあ、話をしますねえ。私はあ、犯人は衝動的ではなくてえ、ある程度計画性を持って殺人を起こしたと思いますう」
「それはどうして?」
「衝動的に犯行をしていたらあ、こんなにも人数がいるんですからあ、誰かしらに見られると思うんですよねえ。一回目ならまだしもお、二回も殺人をしているんですからあ」
「それもそうかもしれないわね」
思ったよりも、普通の話が始まった。
その方が見ていて安心出来るから、そのまま進めて欲しい。
「それにい、誰でもよかったのならあ、もっと殺しやすい人なんて誰でもいたと思うんですよお。色々なところに行っていた私とかあ、毎朝同じ時間に起きて散歩をしていた、お兄ちゃんとかあ」
ここで、また会話の中で僕が登場する。
そろそろ僕以外の人を混ぜてあげてほしいが、他の人は誰も加わりたいとは思っていないのかもしれない。
聞き手に徹するのは、この場においては楽でいい。
「わざわざ見つかるかもしれないリスクを冒してまで、二人を殺したのは理由があると言いたいわけですわね」
「そうですねえ。女性だから狙った、と言う人もいるかもしれないですけどお、それならやっぱり私かあ、槻木さんかあ、お兄ちゃんの方がやりやすいと思いますよねえ」
どうやら僕は今湊さんや、見た目は小学生の槻木さんと、同列でか弱いのだと思われているみたいだ。
まあ、反論は特に無い。
そういうのは全部、緋郷に任せてしまっている。
「確かに。特別二人が狙いやすいということはありませんわね」
「それに犯人はあ、三日で色々と調査をしていたんじゃないでしょうかあ。多分誰がどのように動いて、誰が仲が良くて、何時に寝ることが多くて、この屋敷は何時頃に施錠されるのかとかあ。調べ終わるのに三日かかってえ、それで準備が起きたから実行をしたんだとお、私は思っていますう」
いつの間にか、今湊さんの言葉に耳を傾けていた。
今までで一番きちんとした話が、一番きちんとしていなさそうだった彼女から聞けている。
何をしているのか分からない彼女が、調査をしていたことに、僕は驚いていた。
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