第32話



「はあっ!? 緋郷!? どういうこと!?」


「うるさいよ、サンタ。もう少し声を抑えて、話してくれないかな」


「そうですよお。耳がキーンとなりますう」


 何故かこの場で驚いているのは、僕だけだった。

 顔を上げて勢いのままに聞くと、二人にうるさいと言われてしまう。

 大きな声を出したのは僕だが、そうなるのも仕方が無いだろう。


「ご、ごめん。でもどういうこと? 次に死ぬのは犯人だって」


 僕は次に殺されるのが誰か、という話をしているのだろ思っていた。

 しかし、犯人が死ぬとなれば話は違ってくる。


「そういえば、緋郷、今まで誰が死ぬかとは言っていたけど、誰が殺されるかとは言っていなかった」


「そうだよ? 今更気がついたの?」


 当たり前のように言っているけど、今回騙されたのは僕だけではない。

 槻木さんは知らないが、鷹辻さんは完全に勘違いていたはずだ。

 あんな純粋な人と同じだと思うと、胸がくすぐったいような気持ちになる。


「いや。気がつくわけないよね! 今まで殺人が起きていたんだから、死ぬ=殺されるって思っても、不思議な話じゃないよ!」


「そう言われてもね。俺はあくまで、殺されたなんていう前提で話はしていなかったからな」


 今回は勝手に思い違いをした僕が悪いが、それでも緋郷も分かりづらかったことは確かだ。

 普通だったら、僕のように勘違いする。


「お兄ちゃんは、きちんと人の話を聞いた方がいいですよお」


「湖織には、一番言われたくない言葉だね。もちろん緋郷にも。……分かった。次に死ぬのは犯人としよう、その根拠はどこにあるの?」


 鳳さん、飛知和さんと、立て続けに二人を殺した犯人が、もう満足したということなのか。

 それか、来栖さんや賀喜さん辺りに、復讐で殺されるということか。


「根拠って言われてもね。何となくの勘だけど。もう誰かが殺されることは、無い気がするんだよね」


「それは分かりますう。誰かが殺されるのは、悲しいことですからねえ」


 今湊さんにまで同意されると、未だに分かっていない僕が馬鹿みたいに思えてしまう。

 犯人が満足したなんて、どこに読み取れる要素があっただろう。


「満足した犯人がさ、人を二人殺しておいて、この島から出た後に普通に生活できると思う? それが出来るのは、よほどの異常者だけだよ」


「そうですよねえ」


 その異常者の中に、二人は含まれているだろうか。絶対に含まれている。


 緋郷は前々から思っていたけど、完全犯罪を成立させられそうだし、今湊さんは笑いながら人を殺すことが出来そうだ。

 今まで人を殺していないのは、そのタイミングじゃなかっただけ。そう言われても納得ができてしまう。そんな雰囲気を持っていた。


「罪の意識のある犯人がさ、最後にすることなんて決まりきっているだろう?」


「もしかして、死ぬのは……」


「そうそう。自殺するかもってことだね」


「そんなっ……!」


 緋郷が冗談や嘘を言っているようには、全く見えない。

 こういう時の推理は、確実に当たる。


「それじゃあ、早く犯人を見つけて保護をしなくちゃ!」


 こうして、のんびりと世間話をしている場合じゃない。

 僕は机を叩き立ち上がった。


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」


「落ち着いていられないよ! こうしている間にも、犯人は自殺しようとしているかもしれないんだよ? 緋郷は誰が犯人なのか、もう目星はついているの?」


 誰が犯人なのか分かっているとしたら、その人を保護すればいい。

 なんでこんな簡単なことにも気づかないのか、胸ぐらをつかんで問いつめたい。


「んー、ついているようなついていないような、微妙なところ。でも、何の対策も取っていないわけじゃないよ。サンタも知っているでしょ」


「知っているって……ああ、夕食のこと?」


「夕食? 何か楽しいことでもするんですかあ?」


 夕食という言葉に、今湊さんが食いつく。

 どれだけ、食い気がまさっているのだと、尊敬してしまった。三秒だけ。


「楽しいことっていうか。今夜はみんなで大広間で過ごそうという話が出ていて、強制参加をさせるために、りんなお嬢様に緋郷が頼んだんです」


「ああ。そうやって、迷惑をかけたんですねえ。どんな姑息な手を使ったんだかあ」


 姑息な手を使ったのは、その頼み事ではないのだが、わざわざ言う話でもないか。

 一人、鼻息荒く納得している今湊さんは、人差し指を緋郷に向けた。


「人を指さしちゃいけないって、教わらなかったみたいだね」


「残念なことにい。教えてくれる人はいませんでしたねえ。むしろ、どうでもいい相手には向けていいと言われていますう」


「それは中々、教育熱心な人だ」


「えへへえ。そうですよねえ」


 いや、絶対に違う。

 僕は今日何度目かの、心の中でのツッコミをした。

 このまま二人を放っておけば、面倒なところまでいきそうだ。


「私楽しみですう。みんなで夜を過ごすなんてえ。何年ぶりでしょうかあ」


 テンションを上げている今湊さんは、とても嬉しいのだろう。

 手を上下に動かして、よく分からないが喜びを表現している。

 そんな今湊さんを見ながら、緋郷が一言。


「まだ、答えを教えてもらっていないよね」


 そうだ。

 すっかり忘れていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る