第33話




「えー、答えですかあ?」


「そうだよ。俺はもう答えたからね。次は誰が死ぬのか、ってさ。人に聞く前にまず自分が答えろって言ったんだから、君も答えてくれるよね」


「面倒ですねえ。でも、言ったことは、きちんと守らないといけませんしい。私、嘘はつかないタイプですからあ」


「そう。それなら早く」


「もう、急かす男は嫌われますよお。はあああ」


 今湊さんは、大げさな身振りで両手を上げて、やれやれといったような表情を浮かべた。

 まるで、聞き分けの悪い子を相手にしているようだった。


「そうですねえ。次に死ぬ人ですかあ。うーん。そうですねえ……」


 そこから腕を組んで、うーんと唸る。

 大げさなぐらいに、体を左右に揺らして考え出す。


「えー。私の考えを話すんですかあ。何だか恥ずかしいですねえ。えへへえ」


 わざとなのか、答えを焦らしている。

 しかし、さすがに焦らしていても何にもならないと思ったのか、顔を緩ませて笑った。


「私はですねえ、次に死ぬ人はいないと思いますよお」


「いない? 何で?」


「何でって、それはですねえ。りんなお嬢様が、バーンと頑張ってくれるからですよお。それはもう凄いですよお。バーンとして、ドーンとして、ビビビーってしたら、あっという間に誰も死ななくて済みますう!」


 ほとんど擬音だったけど、言いたいことは分かる。

 りんなお嬢様は、そういう風にお金の力で解決するのを、何よりも得意としていそうだ。

 あながち、今湊さんの言い分も的を射ていると思う。


「でも彼女だって万能じゃないだろう? 隙があるだろうから、死なせる可能性だってある」


 先ほど自分が言ったことを忘れてしまったのか、それともムキになっているのか、そんなことを言う。

 しかし今湊さんは、全く動じていない。


「大丈夫ですよお。りんなお嬢様は、凄いですからあ」


「随分と、彼女のことを買っているんだね」


「そりゃあ、もう。なんせ万里小路家の一人娘ですからねえ。酸いも甘いも噛み分けられますしい、色々な修羅場もくぐりぬけてきたことでしょう。私達、一般市民とは人生のステージは違う存在ですよお」


「まあ、確かに。凄すぎて嫉妬の対象にもされないだろうね。むしろ同情の感情を向けられそうだ。きっと自由が無かったはず、そんな見当違いなことを思われてね」


「鋭いですねえ。そんな人間ばかりですよお。ろくな人達じゃないですう。そう、冬香さんが言っていましたねえ」


 滞在して五日目。

 絶対的な信頼を、今湊さんはりんなお嬢様に対して持っているようだ。

 まあ、僕も食えない人だとは思っているけど、それ以上に凄い人だというのはひしひしと感じている。


 今はこの島にいるからいいが、もしも外に出て手腕を発揮すれば世界を変えることなど簡単に出来る。

 財力も能力も持っていて、本気を出せば何でも思い通り。

 本当は、この島にくすぶっていることがおかしいのだ。


「君がそう言うのなら、確かに大丈夫なのかもね」


 緋郷も今湊さんの熱意に負けてか、自分の意見を翻した。

 これは珍しいことなので、顔には出さなかったけど、内心では驚く。


「それじゃあ、これ以上人が死なないとして、明日ぐらいには犯人を見つけなきゃね」


「同感だけど、何で明日?」


 一応、元々の滞在期間は、明後日までである。

 しかし、何故明日。


「えー。だってさあ、明日捕まえれば、明後日はゆっくり休めるだろ。サンタだって疲れただろうしさ」


「緋郷……」


「まあ、もう手遅れだろうけどね。きっと明日は、筋肉痛だよ」


「確かにそうですねえ。明日は動くのも無理なんじゃないですかあ」


「今湊さん……」


 二人は、同情や優しさの感情を向けているわけではない。

 それは、表情を見れば分かる。

 笑いを隠し切れないといった様子で、二人はニマニマとしていた。


 僕は怒りを必死に抑えて、そして緋郷の頭を殴り、今湊さんの頭は強めに撫でておいた。そのせいで、彼女の髪型は台風でも過ぎていったようになった。


「うう。お兄ちゃん、酷いですう」


「サンタ。最近、乱暴になったんじゃないの」


「何のこと? ただ思うように、行動しているだけだけど」


「絶対、この島に毒されているよね。別にいいけどさ」


 少しの報復で気は晴れたので、僕は笑ったことは許すことにする。


「それで? これから、どうするつもりなの? 明日には、犯人を捕まえるってことは、明日までに犯人を見つけるってことでしょう。まだ誰だかは、きちんと分かっていないんだから、早く見つけなきゃ。そのためには、まず動く必要がある。そこらへん、どう考えているの?」


 緋郷は考えなしだから、そこらへんを上手く調整出来なさそうだ。

 緋郷や今湊さんに、明日の筋肉痛が確定だと言われたけど、やることは多いはず。

 その辺り早めに言ってくれないと、僕だってやれることが少なくなる。


「そうだなあ。それは、夜に話をしてから考えたいんだけど。それじゃあ駄目かな?」


 そう言われてしまえば、僕が何も言えない。

 全ての物事を考えているのは緋郷で、僕はただ指示に従っているだけ。


「分かった。でも、どうするか決まったら、すぐに教えてね」


「オッケー」


「私も手伝いますよお」


 良い返事を聞きながら、僕はきっと言葉通りにしてくれないんだろうなと、ため息を吐いた。

 まあ、もう慣れたものだけど。



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