第26話




「次に死ぬのは俺か。面白いね。いい答え、とは言わないけど」


「ごめんね。いい答えじゃないのは、怒らせちゃったからかな? 自分が殺されるっていうのは、確かに嫌な気分になるからね」


「それは別に構わないよ。僕が死ぬ可能性が零だというのは、僕とサンタにしか分からないことだからね。そんなことを言ったら、君だって死ぬかもしれない。そういうものだろう?」


 次に死ぬのは自分だと言われたのに、緋郷はなんてことないように笑う。

 槻木さんも怒らないのを分かっていて、こんな風にはっきりと言ったのだろう。

 本当に緋郷が殺されるかどうか、そう思っていたのかは別として。


「それで、皆が死なないために、今夜は大広間で過ごすの? 僕は楽しそうだから賛成だよ!」


 たまに思う。

 この島に来ている人は怯えている時もあるけど、基本的に明るい。

 槻木さんの様子は、まるで修学旅行を楽しみにしているみたいだった。

 こうやって明るくふるまわないと、精神的に参ってしまうのか。


「でも、他の人は賛成してくれるかな? 遊馬さんとか、来栖さんとか、賀喜さんとか。皆で一緒に過ごすのは、嫌って言いそうだよね」


 まあ、確かに。

 この島の誰のことも信じていなさそうな遊馬さんや、鳳さんを殺されて誰のことも信じていなさそうな来栖さん、そして僕のことを嫌いになっているだろう賀喜さん。

 確かに普通に頼んだら、断られてしまいそうだ。


「そうだね。普通は断られてしまいそうだよね。でも、ここにはいるじゃないか。絶対的な権限を持つ人がさあ」


「ああ、なるほどねえ。他力本願なんだ」


「まあ、使える物は使う主義ってことだよ。その方が合理的だろ?」


 二人の会話を聞いているだけで、僕も何をしたいのか分かった。

 分からない方が、鈍感だろう。


「それでは私の方から、りんなお嬢様に話を付けましょうか?」


 話を察した冬香さんが、先回って提案をしてくれた。

 そうした方が話が早いし、許可を得やすいと思ったのだが。


「いいや。俺が話をするから、気にしなくていいよ。もしそれなら、話をする機会を設けてくれれば嬉しいな」


「かしこまりました。それでは、りんなお嬢様に話をしてまいります。少々お待ちください」


「よろしくねえ」


 緋郷が自分で言いたいというのなら、何か考えがあるのだろう。

 りんなお嬢様と、話がしたいのかもしれない。

 冬香さんも嫌がっていないので、橋渡しをしてくれるようで良かった。


 冬香さんが頭を下げ出て行くと、その様子を名残惜しそうに鷹辻さんが見送る。


「どうしたの? 龍興。そんなに熱い視線を向けちゃってさあ。恋に、時間は関係ないって感じだね。あの子が義妹にでもなるのかな」


「はっ!? ば、馬鹿言うなよ! か、彼女とは、冬香さんとは、そんなんじゃないぞ!」


「そう言いつつ、名前呼びなんて説得力ないよ。弟が青春をしてくれて喜ばしいんだから、照れなくてもいいのに。むしろ応援しちゃうよ? 恋のキューピッドになっちゃうよ?」


「そういうのは、しなくていいから! 紗那が入ると、面倒なことになりそうなんだよ!」


 鷹辻さんをからかった槻木さんは、とても楽しそうな表情を浮かべていた。

 弟の恋路が楽しくて仕方が無いのが、手に取るように分かる。

 しかし、僕としては面白くない。


 冬香さんと付き合えないとしても、彼女はアイドルのようでいてもらいたい。

 僕が滞在している間だけは、どうか彼氏を作ってもらいたくないのだ。

 そのために、こういう話は聞きたくない。


 槻木さんは僕のこの気持ちが分かっていて、わざとこういう話題を出してきている気がする。

 今までの彼の言動を思い出し、何だか僕まで一緒にからかわれている錯覚に陥った。



 僕は何事も無い風を装っていたけど、緋郷がニヤニヤとしているから、表情に出てしまっているのだろう。

 とりあえず八つ当たりとして、肩をグーパンチしておいた。

 雇い主に対して失礼な態度かもしれないけど、気にしていないようだったから、もう一度殴った。


 それから数分して、冬香さんが戻ってきた。


「お待たせいたしました。りんなお嬢様に話をしてきましたら、今すぐにでも話をしていいとのことなので、どうぞお部屋の方に。案内いたしましょうか?」


「いや。部屋の場所は分かるから、別にいいよ。話をつけてくれてありがとうね。それじゃあ、行くよ。サンタ」


「えっ、僕はここに残っていても」


「何言っているのかな。一緒に行くんだよ」


 いや、ただ許可を得るだけなら、僕がいなくてもいいだろう。

 それに冬香さんをここに残るとしたら、僕だって話がしたい。

 そうでもしていないと、二人の好感度が上がるだけだ。

 槻木さんがアシストをするだろうし、絶対に三人を残しておけない。


 そう思って、頑なに残ろうとしたのだけど、緋郷が腕を掴んできた。


「いや、待って、本当、緋郷、ねえったら」


「はーい。応接室まで、レッツゴー」


「いやだあああ」


 そしていつもの逆パターンで、緋郷に引きずられ部屋から連れ出される。

 縋りつくように伸ばした手を、誰も掴んではくれなかった。


 全く酷い話である。




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