第27話
「うう……冬香さあん……」
「諦めな、サンタ。彼女は別の人と結ばれる運命なんだよ」
「うわあん。そういう事実を言うなよお。僕は、同担拒否のガチ勢なんだぞ」
「はいはい。サンタって、よく分からないところで馬鹿だよね
「緋郷に言われたくないいいい」
いつもとは立場が逆だが、叫んでいないとやっていられない。
こうしている間にも、冬香さんと鷹辻さんの距離感は近づいている。
もしかしたら帰ってきた時には、お付き合い報告が待っているかもしれない。
そうされてしまったら、たぶん立ち直れない。たぶん死ぬ。いや、きっと死ぬ。
そんなことになったら緋郷も困るだろうから警告しているのに、全く聞く耳を持たない。
むしろ嬉々として、僕を引きずっている。
「これで、二人が付き合いでもしたら、緋郷のこと一生恨むからなあああ」
「分かった分かった。それなら、一生恨んでくれてもいいよ」
「何で、付き合うことが決定したみたいに言うんだよおおお」
「ははは。自分でも分かっているくせにさ」
階段でもお構いなしだから、僕は背中が痛むのを感じながらも、文句は止めなかった。たぶんあざが出来るはずだ。
緋郷が気を遣ってくれるはずもなく、僕の背中は階段をすべて受け入れた。
今は興奮から痛みは無いけど、たぶん冷静になったらものすごい痛みを訴えると思う。
筋肉痛と背中の痛み、明日を迎えるのが恐ろしくなる。
「ちょっ。緋郷、そろそろ歩くから! もう引きずらなくても、歩くから!」
「ふんふんふーん」
「聞こえているだろ! 何聞こえないふりしているんだよ!」
「へんほんへーん」
「……鼻歌にしては、下手くそすぎる」
「なんか言った?」
「絶対、聞こえているだろう」
段々と落ち着いてきた僕は、このままりんなお嬢様の待つ応接室に行くのだけは嫌だった。
どう考えても、面白がられる未来しか想像できない。
それだけは避けたくて、緋郷に話しかけたが軽く無視された。
「緋郷! きちんとノックしてからはい」
「失礼しまーす」
そして僕の訴えは届かないまま、応接室の扉は開け放たれた。
もちろんノックはせずに、許可をきちんと得ないままである。
「あら、どうも」
しかし、りんなお嬢様は勝手に入ったことは驚きはせず、僕が引きずられてきたのを見ても片眉を上げただけだった。
「とても面白い運び方ね。それは、あなた達のプレイなのかしら? そうだとしたら、邪魔をしては駄目よね」
「ち、違いますから! 僕達を、そんな変態みたいに扱わないでください!」
「いいのよ。隠さなくても。私は、そういうのに偏見がございませんから。本人達の自由ですもの」
いや、完全に楽しんでいる。
くすくすと上品に笑って、からかいモードに入っていた。
絶対に誤解なのは分かっているはずなのに、勘違いするふりは続行された。
「いやあ、バレちゃったね。まあ、部屋を同室にした時点で、察してもらえたのかな」
「いや、同性同士だから普通でしょ。何言っているの」
しかも緋郷まで、悪乗りし始めた。
僕は突っ込むのを放棄して、大きくため息を吐く。
もう勝手にしてくれ。
僕が放棄したからか、二人の悪ふざけはすぐにおさまってくれた。
やっぱり、こういうのは無視するのが一番だ。
「それで? 冬香から、あなた達が話をしたいと言われたのだけど。どんな話かしら?」
まだ顔に笑みを残してはいるが、話題が変わったのでほっとする。
これ以上からかわれれば、おそらく冬香さんの元に走っていっただろう。
「ああ、そうだったそうだった。今夜のことなんだけどね、大広間で全員で夜を過ごせば楽しいと思わない?」
「あら」
本題に入ったはいいけど、言い方が雑すぎる。
それでいいよ、と言う人は、ほとんどいないんじゃないか。
「確かに面白そうね」
そうだった。
りんなお嬢様は、こういうのを楽しむタイプだった。
話が早くて助かるけど、それで本当に良いのかとツッコミたくなる。
「でも、どうしてそんなことをしようかと思ったのかしら?」
「いやあ。ここにいるサンタと、……何か筋肉質な人がね、そうすれば新たな犠牲者が出なくなるんじゃないかと言ったからさ。雇い主としては、その願いを叶えてあげようと思ったんだよ」
「あらあら。付き人想いなのね。やっぱり、あなた達は……」
「違いますから!」
また元に戻りかけたので、ツッコミを入れて軌道修正を入れる。
そうすれば、あらあらと微笑ましげに見られた。止めて欲しい。
「でも、昨日はほとんどの方が徹夜だったでしょう? さすがに今夜も寝ないのは、体に悪いわ。そこはどうするつもり?」
「それは時間ごとに、寝る人と起きている人を分ければいい。そうだなあ。今日のアリバイで一緒だった人とは、別々の組み合わせでさ」
「そうね。そうすれば、公平さが保てるってことかしら」
「その組み合わせは、出来ればメイドの誰かにお願いしたいんだけど」
「いいわよ。千秋辺りに頼むわ」
とんとん拍子に話は進んでいく。
りんなお嬢様と打ち合わせをしながら、生き生きとしている緋郷を見て、僕はまだ何かをやろうとしていると確信していた。
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