第25話




 槻木君は、鷹辻さんのお兄さん。

 ということは、槻木君じゃなくて槻木さん?

 未だに混乱から抜け出せなくて、よく分からないことを考えてしまった。


「あらら、そんなにショックだったのか。弟だって、一度も言ったことなかったのに。僕、そんなに可愛かった?」


 魂が抜けかけている僕を見て、意地悪な顔をしていた槻木……さんは、申し訳なさそうな表情になった。


「ごめんね。最初は本当に騙すつもりはなかったんだけど、子供だと勘違いされていた方が、何かと都合がいいと思って。そんなに落ち込むなんて……」


 まるで捨てられた子犬のように、悲しげにされてしまったら、こうして呆然としている僕が悪いみたいだ。

 彼の言う通り、僕が勝手に勘違いして子供扱いをしていただけ。

 一度も、どちらが兄で弟かなんて、言っていないのだから。この場合は、確認が不足していた僕が悪い。


 そろそろ元に戻らなくはて。


「こちらこそ、すみません。勝手に小学生ぐらいかな、と勘違いしてしまって。あらためて、よろしくお願いします。槻木さん」


「別に君付けでもいいよ」


「それは、もしかしたら年上かもしれませんし」


「もしかしたらじゃなくても、僕の方が年上だけどね。気にしなくていいのに、真面目だなあ」


 もしかしなくても年上と聞いたら、今まで通りに接するなんて完全に無理だ。

 僕は対年上用の表情を浮かべて、槻木さんにはこれから接すると決めた。


「あーあ、これからもっと甘えるつもりだったんだけどなあ。サンタのお兄ちゃんは、すっごく優しかったからさ。でも、まあいいか。どうせいつかは、龍興が何かしらやらかしてバレると思っていたし」


「な、俺は紗那が良いというまで、言うつもりは無かったぞ!」


「龍興に言うつもりが無くても、絶対に口を滑らせたから。図体ばかり大きくなって、肝心なところは抜けているし。何か別のことを考えていたら、ぽろっと言っちゃいそうなんだよね。そんな場面が、凄く目に浮かぶ」


「ぐぬ! そ、それは、分からなかっただろう。現に、今までは頑張って隠せたんだから!」


「まあ、結果論ね」


 鷹辻さんと槻木さんの話し合いは、テンポが良くて聞いていて面白い。

 前々から、二人の間に不思議な空気があるのを感じていたのだが、その理由は兄弟の立ち位置が思っていたのと逆だったからか。


 それが分かったら、鳳さんを発見した時の、槻木さんの冷静な対応も頷ける。

 僕よりも年上で、更に弟である鷹辻さんが取り乱していたら、兄がしっかりしなくてはと頑張ったのだろう。

 そう考えると、普通にいいお兄さんをしている。

 見た目は小学生、中身は大人みたいだ。本当にいるんだ。そんな人が現実に。


「子供じゃないっていうのが分かったところで、話の続きでもする? サンタのお兄ちゃんが意識を飛ばしてから止まっていたけど、僕の意見が聞きたかったんでしょ?」


 そういえば完全に忘れていた。

 こうなった元々の原因は、緋郷から始まったのだから。


「あー、そうだねえ。忘れていたよ。それで? わざわざ正体を明かしてくれたんだから、さぞ面白い意見を聞かせてくれるんだろうね」


 今までのやり取りを興味なさげに聞いていた緋郷は、急に話題を振られてぼんやりとこちらを見たかと思ったら、槻木さんに対して挑発をした。

 緋郷は、とがらないと死ぬ病気にでもかかっているのだろうか。

 そうやって誰でも構わずに攻撃するのは、緋郷じゃなかったら出来ない所業だ。


「あはは。すっごいハードル上げられちゃった。酷い酷い」


 そういうのを感じるのが上手いのか、怒られることが無いから調子に乗る。

 槻木さんも笑って許さないで、年上の権限で怒ればいいのに。

 緋郷が怒られるところなんて見ることが出来ないから、誰かがやってくれれば絶対に面白く観察する。


「笑ってないでさあ、早く答えてよ。俺達だって暇じゃないしさ」


「もう急かす男は嫌われるよ。答えないなんて、言ってないだからさあ。待つぐらいの男らしさを、見せてくれればいいでしょ」


 鷹辻さんもそうだが、槻木さんは良い人だ。

 僕だったらキレて、一発ぐらい殴っている。


「はいはい分かったよ。それで? 次は誰が死ぬと思う?」


「そうだねえ。殺される人を選ぶなんて、何だか殺人犯の気分。でも、そういう立場で考えるのも重要なのかもね。……もし、次に殺されるとしたら、僕はあなただと思うよ」


「ん? 俺?」


 槻木さんが死ぬと言ったのは、緋郷だった。

 それは、意趣返しなのだろうか。


「そう。あなたは、この島に来てから目立つ行動ばかりしてきたよね。敵を作ったり、被害者を好きになったり、犯人扱いされたり。映画とかだと、そういう風に目立つ人って死ぬ運命なんだよ。最初は犯人に陽動作戦で利用されて、価値が無くなったら存在を消されるの。何か、そういうのが似合うよね」


 色々と理由を並べているが、まとめると目立ち過ぎだと言っているのだろう。


「そうかもね。ははは。それじゃあ次に俺が死んだら、サンタから何か景品を上げようか」


「わあい。楽しみにしているよ」


 槻木さんが良い人なのは、良い人だと思う。

 しかし、鷹辻さんのように純粋なものでは無くて、そこには大人の悪さも含まれていた。

 なかなか、食えない性格である。

 しかし、緋郷を相手にするとしたら、このぐらいの方がちょうどいいのかもしれない。


 面白い性格の人が現れて、これからまた楽しくなりそうだ。

 僕は期待に胸を高鳴らせた。



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