第4話
大広間につくと、緊張した面持ちで僕達と緋郷以外の全員が揃っていた。
入ってきた僕達に対して何かを聞きたそうにしていたけど、座るまでは我慢している。
何だか面白くなってしまい、僕はことさらゆっくりと席へと向かう。
しかし限界はあるので、数分をかけて席に座った。
「さて、こんな朝早くに集まっていただき、感謝いたしますわ。春海から簡単な説明があったと思いますけど、先ほど飛知和さんが死体で発見されましたの。皆様の中で、何か知っている人がいらしたら、遠慮なく話をしてくださらないかしら?」
りんなお嬢様のこと言葉に、ざわめきが大きくなる。
「そんな……姫華様に続き、飛知和さんまで?」
来栖さんが顔色悪く、口元を押えた。
「死体って……殺されたのか!?」
鷹辻さんが、机を勢いよく叩いて立ち上がった。
あまりにも動揺していて、暴れまわりそうなぐらい危うい。
賀喜さんは、下を向いたまま何も言わない。
顔が見えないぐらいの角度なので、その表情は分からなかった。
遊馬さんも同様で、何も言わない。
こういう時は一番に騒ぎそうなのに、黙ったまま腕を組んで目を閉じていた。
その姿が、とても薄気味悪かった。
「皆様、落ち着かれて。この中で、飛知和さんの死に関して有益な情報を持っている方はいらっしゃらないのかしら?」
今は誰もりんなお嬢様の話を聞いている余裕が無く、各々が好き勝手な言動をしている。
あまりにまとまりのない様子に、りんなお嬢様は大きなため息を吐いた。
「これは、皆様混乱して話が出来る様子ではありませんね。早く集まった方が、情報を持っていると考えた私が早計でしたわ。もう少し時間を置いてから、また話をしましょうか」
頬に手を当てている姿からは、疲労の色が見えてしまい、彼女も疲れているのだと分かった。
徹夜に加えて、二度目の殺人が起きてしまったのだ。
彼女もそこまで予測していなかっただろうから、冷静な仮面を被ってはいるが心の中はぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。
彼女にも休息が必要か。
巻き込んだ本人である僕が言うことでは無いのかもしれないが、この場はお開きにするべきだ。
僕からも休憩の提案をしようとした時、場に静かな声が響いた。
「……あのよお。今回も、警察を呼ばねえつもりか?」
それは、今まで黙っていた遊馬さんの声だった。
彼は閉じていた目を開けて、真っ直ぐにりんなお嬢様を睨んでいる。
その姿からは、これまでのダメさ加減がすっかり無くなっていた。
心なしか、渋めのおじさんのように見える。
そこで僕はようやく、遊馬さんの身なりが普段よりは整えられているのに気が付いた。
無精ひげはそられていて、髪型も整髪料を使って綺麗に撫でつけられている。
今日の朝からイメチェンしたのか、とてもよく似合っていると思う。
おかげでりんなお嬢様を睨む眼光が、二割増しに鋭い。
「……ええ、そのつもりですわ。今回も、警察は呼びません。これは決定事項ですわ」
しかし、殺気立つほど睨まれていても、りんなお嬢様は涼しい顔をしている。
それは捉えようによっては、馬鹿にしているようだった。
だからか、遊馬さんは吠えた。
「ふざけんじゃねえよ! 人が二人、殺されたんだぞ! 警察を呼ばねえで、どうするつもりなんだ!」
「あらあら、落ち着かれて。そんなに怒っては、血管が切れてしまいますわよ」
「これが落ち着いていられるかよ!」
怒りに我を忘れている、遊馬さん。
それを冷静にあしらっている、りんなお嬢様。
対照的な二人の様子は、いつ爆発するか分からない。
誰も間に入ることが出来ないまま、遊馬さんのテンションはどんどん上がっていく。
「何で警察を呼ばねえんだ! いくら他人に入られたくないからといって、人が殺されたら呼ばなきゃ駄目に決まっているだろう!」
「まだ、理解出来てもらえていなかったのかしら。ここは私の島なのよ。警察なんて無粋なものは入れられないの」
「何でだ! 何か後ろめたい理由でもあるのか!?」
「後ろめたいことなんてありませんわ。ただ私が嫌だから、呼ばないにすぎません」
「嘘をつくんじゃねえよ!」
彼は勢いよく机を叩いた。
その大きさは、鷹辻さんの時よりも比べ物にならないぐらいだった。
「嘘だなんて、随分と人聞きの悪いことを言われるのね」
「嘘じゃねえよ! お前は、自分の都合の悪いことは全部隠しているんだろう! 権力をかさにきて、全部全部隠しているんだ……」
「どうして、そんなこと言うのかしら」
「それは、それはっ」
ここで遊馬さんが、ぐっと黙る。
そして机に叩きつけた拳を震わせ、唇を噛みしめると今日一番の叫びをあげた。
「お前らが、
叫び声の中には、怒りもあったが悲しみが主に含まれているように、僕は聞こえた。
叫びを受けたりんなお嬢様はというと、全く冷静な表情を崩していなかった。
むしろ僕には、余裕の表情に見える。
「夕葉とは、あなたの娘さんの遊馬夕葉さんのことかしら」
彼女は口角を上げて、遊馬さんに向けてほほ笑みを向けた。
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