第5話
新たな事実が明かされ、僕達は話についていけなかった。
遊馬さんの娘の存在。
その人が、この島と関係しているとは。
そして、遊馬さんの口ぶりから考えるに、娘さんの夕葉さんとやらは島に来て何かがあったのだろう。
「そうだ! 娘は、夕葉は、五年前にこの島に招待された! そして一週間の滞在後、夕葉は戻ってこなかった! この島で何かがあったと、警察に訴えても相手にしてもらえない! 夕葉の存在は、お前によってもみ消されたんだよ!」
悲痛な叫びは、まだ続く。
「どうせ今回みたいに、夕葉の死も無かったことにしたんだろう! お前が、お前がっ! 夕葉!」
全てを言い切ったのか、遊馬さんは机に突っ伏して嗚咽が聞こえてきた。
僕達は慰めることも出来ず、彼の姿とりんなお嬢様を見比べる。
りんなお嬢様は、僕達の視線を受けて、そっと息を吐く。
「私は殺しておりませんわ。とんだ言いがかりですわね。何を言われたとしても、あなたの言い分を認めることはありません」
彼女は堂々としていて、嘘をついているようには見えなかった。
しかし遊馬さんも、嘘をついているようには見えない。
どちらが本当のことを言っているのか、それともどちらも本当のことを言っていないのか。
僕には、まだ判断が出来なかった。
そんな僕の隣で、緋郷は鼻歌を奏でる。
それがどんな意味を持つのか知ることが出来れば、このもやもやも無くなるのだろう。
気まずい空気のまま、遊馬さんが落ち着くのを待った。
僕達は微妙な気分を抱え、何も言わずに時間の流れの遅さを感じていた。
「……あくまで、認めないつもりなんだな」
ようやく遊馬さんが顔を上げた時には、静かにし過ぎて気分が悪くなったぐらいだった。
彼の表情は、まるで自身が人を殺したかのように、目がぎらぎらとしている。
未だに視線の先にはりんなお嬢様がいて、罪に問われなければ殺すのではないかという心配を感じてしまう。
「ええ。認めるも何も、私達は殺しておりませんから。認めるものもありませんわ」
りんなお嬢様は、それでも全く動じていない。
これは、殺し合いでも始まるのではないか。
心配になりながら状況を見守っていれば、遊馬さんが何度も深呼吸をして、そして口角を上げた。
「そうか。それならこっちも、証拠を集めて嫌でも認めさせてやるよ。覚悟しておけ」
明らかな宣戦布告。
それを受けたりんなお嬢様は、
「あら、それは怖い」
楽しそうに笑った。
遊馬さんとりんなお嬢様とのやり取りの間に、他の人達は落ち着きを取り戻した。
それをりんなお嬢様は確認したので、解散をせずに話し合いを続けるようだ。
「先ほども聞きましたけど、飛知和さんが殺された件に関して何か知っていることがありましたら、どんなことでもいいので教えてくださいな」
誰も何も言わない。
お互いの顔を見合わせて、どうするべきか探っている。
そんな中で、おずおずと手をあげたのは、賀喜さんだった。
「あの……」
一気に彼女に注目が集まり、彼女は怯えた表情をするが、覚悟を決めた表情を浮かべて指をさす。
その先には、
「犯人は、あの人じゃないんですか?」
僕がいた。
「……僕、ですか?」
このタイミングだとは思わなかったので驚いてしまったけど、すぐに立て直して笑いかける。
「何を言っているんですか。僕が飛知和さんを殺すわけがないでしょう。第一、殺す理由がないですし」
落ち着かせる目的で笑ったのに、賀喜さんの顔は青ざめる。
そして彼女を守るかのように、来栖さんが立ち上がりかけた。
しかし賀喜さんがそれを手で制し、震える声で断罪を始めようとする。
「あ、あなたは、飛知和さんに相神さんが犯人だと決めつけられて、頭にきていたんじゃないですか?」
指を向けるのは止めた彼女は、勇気を持って睨んでいるという感じで、頑張って言葉を続ける。
「相神さんが軟禁されている今、もう一度殺人事件が起きれば、犯人じゃないという良い証明になるでしょう。それを見越して、あなたは飛知和さんを殺したんです」
確かに支離滅裂な言い分ではない。
現に信じ始めている人は、僕に疑いの視線を向けてくる。
それは鷹辻さんであったり、来栖佐那であったりした。
その人達に後押しされてか、賀喜さんの言葉に力がこもってきた。
「それに飛知和さんは、あなたと相神さんを疑っていました。だから邪魔になって殺したんでしょう!」
再び指を向けられて、僕は断罪される。
後は、緋郷と同じように軟禁が決定するのを待つだけか。
「私は、この人を相神さんと同じく、軟禁するべきだと提案します。そうしないと、私達全員を殺し終えるまで止まりませんよ」
賀喜さんは、すでに全員が賛成してくれるものだと思っている。
このままだったら、僕は軟禁されるのだろう。
しかし、ここで思い出してほしい。
僕が何のために苦労して、徹夜をしたのかと。
しかも、りんなお嬢様の不敬を買うかもしれないリスクを冒してまで。
自信満々な顔をしている賀喜さんの鼻っ面を折るために、僕はまた笑いかけた。
それは、自覚があるぐらいには悪い顔になっていたと思う。
「僕に飛知和さんを殺すことは無理ですよ」
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