第9話 モブキャラは冒険者登録をする

 冒険者になるには、冒険者ギルドで冒険者登録しなくてはならない。

 そう思っているゲーマーは多いが、ここはタイタンソードマジックオンライン。であるなら、冒険者登録など必要ない。

 むしろ、ギルド登録なんてした日には、稼ぎをピンはねされて録な事にならない。

 まあ、派遣社員をやった事のある人なら分かるだろう。


 冒険者というと、モンスターを退治して報酬を得るようなイメージであるが、タイタンソードマジックオンラインではそれは二の次。


 俺がゲームで使っていたマイトのような英雄クラスならともかく、ただの冒険者などは追い払う程度の能力しかないと考えれば良い。

 俺のゲーマーとしての能力ならカシムのステータスでもやれるであろうが、とりあえずそれはひとまず考えない事にする。


 町から町へ移動すれば、道中にモンスターはいるわけで、おのずとモンスターとの戦闘になる。

 ファンタジー世界のモンスター退治といえば、それに悩まされる町の人々からギルドに依頼される経緯が、考えられる。

 だがここダンドンの町は、積層構造の鉄製の町である。

 町にいれば、とりあえずの安全は確保されるし、何も町の外に出る必要はない。

 つまり、モンスター退治などは必要ないのだ。

 モンスターの素材も価値はあるが、それと命の値段が釣り合わない。

 もちろん、大金をはたいて装備を整え、人員を集めれば、モンスター討伐は可能だ。

 だが、危険手当てと装備の補充を考えれば、利益率は悪い。

 要するに、モンスター退治というのは、ゲームプレイヤーのためのものであり、この世界の住人にとっては不必要な仕事なのである。


 冒険者は物資を運んで、運送費を貰ったり、その町の特産品などを買い込んで、それを違う町で売ったりする仕事をする(とまあ、ラウルおじさんのやっている商売になっていくのだが)。

 もしくは、この惑星タイタンにある古代遺跡の探索をしてそこで見つけた遺物を金に替える仕事。

 大体この二つが最も、利益率が良い仕事となる(もちろん危険な仕事である事に変わりはない)。


 ◆◆◆


 カシムは冒険者になりたかったらしい。父と母は共に元冒険者ときく。その血がカシムにも流れているのだろう。

 ただ、カシムはモブキャラとして底辺すぎたステータスのようだから、冒険者になってもろくな活躍はできないだろうが。


 俺は遺跡探索をする事にした。とはいえカシムには冒険者をするための装備がない。 


「父さん、俺、冒険者になろうと思うんだが」


「え? マジで?」


「うん」


 自分の父親に相談する事にした。母親も目を丸くしていた。


「あんたって、弱くなかった? 死ぬわよ? 辞めときなさい。安全な仕事はいくらでもあるわよ」


 母親はカシムの実技の成績を知っていたので、反対した。


「いけると思うんだけど。一応、ラウルおじさんに勝ったし」


「ラウルに勝っただと?! 一体どういう事だ?!」


 両親は驚いて目をさらに丸くした。

 俺は説明したが、一切信用してもらえなかった。


 ◆◆◆


 冒険者ギルド。そのものズバリの冒険者になるための組合だ。登録すれば、ギルドに依頼される様々な案件を受ける事が出来る。

 日本では、派遣社員のイメージを持ってもらえば良い。

 だが、こちらは命の危険に満ちた依頼が殆どである。

 ゲームなのだから、バトルが主流である。誰が町工場の作業なんかゲームでするだろうか。つまらん。


 俺は学校が休みの日に冒険者登録をする事にした。

 ギルドから仕事を受けなくても、ギルドカードは世界共通で使える身分証明書になるからだ。


「カシム、冒険者ギルドに行くの? 私も行くよ」


「なぜ?」


「心配だからよ!」


 ミィが着いていきたいというので、一緒に来た。


 冒険者ギルドの扉を開けた。

 むせるような熱気とともに、ギラついた冒険者達がこちらを見つめた。

 だが、彼らから見ても俺たちはモブキャラなんだろう、すぐに興味をなくして仲間との雑談に興じる。


(何か、怖そうなところね)


 ミィが小声で俺に耳打ちする。


「そうだな。俺の側を離れるなよ」


「うん」


 ミィは嬉しそうに、俺の手を握った。こういう場面では荒くれ者なんかに絡まれたりするテンプレートなパターンも考えられる。

 俺は今のところ武器を持ってないが、用心深くカウンターに向かった。


「冒険者の登録をしたいのだが」


 俺はこれまた数多くのプレイヤーが口にしたであろうセリフを吐いた。


「では、ここに個人情報を記入して下さい」


 受付嬢は、これまた可愛らしい女性だ。細い指が受付用紙を指している。

 名前と年齢。それだけで良い。簡単だ。

 受付嬢は、パソコンにそれを記入すると、ギルドカードと針を俺に渡す。


「ここに血を一滴垂らして下さい」


「はい」


 チクっとした痛みと共にギルドカードに血が落ちた。


「これで、ギルドカードは完成です。身分証明書やクレジットカードとしても使えます。もし紛失された際はギルドまで報告して下さい。手数料がかかりますが、再発行いたします」


 そしてカードを確認した受付嬢は怪訝な表情をした。


「カシムさん。もしかして成人の儀をまだ受けてませんね?」


「学校を卒業したら受ける予定ですが」


 俺は首を傾げた。確かに俺の頭の中にカシムの記憶とて成人の儀というワードはあった

 所謂、成人式なのであるが、この世界では特別な意味でも持つのだろうか?


「未成年の冒険者活動は、原則推奨できませんので、活動は成人してからの方が良いと思います」


 要するに、未成年はしてほしくないという話だ。だが、推奨しないというだけで、禁止ではないのだろう。


「大丈夫です。俺は四十一歳……ゲフン! あと少しで成人なんで、一応カードだけでも作っておこうかと」


「そういう事でしたら。どうぞ」


 俺はギルドカードを受け取った。

 ちなみに、冒険者ギルドに入った新参ものが、新人いびりの冒険者に絡まれるエピソードはなかった。

 モブキャラにそんなイベントは起こらないのかもしれない。

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