第4話
時刻は夜十時を指していた。いつもなら父さんが帰っている時間だけど、一時間前に仕事の関係で今日は家に帰れないという連絡があった。俺は一人、夕食として出前のピザを食べ終え、お気に入りのソファーの上で寝そべりだらだらとテレビを眺める。
母さんたちいつ頃返ってくるんだろう。流石にそろそろ帰ってくるとは思うけど。
「……寝るか」
テレビを消し、欠伸を噛み殺しながら洗面所に向かい歯を磨く。シャコシャコと歯を磨く音だけが聞える。ふと、出かけるときの薫ちゃんの様子が思い出された。
薫ちゃん、あんなに一緒に行きたいって駄々こねるんだな。家にきてからずっと借りてきた猫みたいに大人しかったから、正直意外だった。綾乃さんも薫がこんなに駄々こねるのなんて初めて見たというぐらいなんだから、かなり珍しい行動だったのだろう。というか、俺と一緒なのが嫌だったのかな。もしそうならへこむ。
母さん曰く、「自分も色々一緒に見て回りたいって思ったんでしょ。自己主張がなくて心配って言っていたんだからいいことじゃない」なんて言って、ルンルンで薫ちゃん連れて行ったけど。
コップに水を為、うがいを二、三度繰り返す。
そう言えば……
「薫ちゃん何て言ったんだろう」
呟いた声はしんとした洗面所に予想外に響く。
あの時、玄関まで三人を見送りに行ったとき、薫ちゃんが俺のズボンの裾をくいくいと引っ張って俺に何かを言ったのだ。
「…………て」
丁度、母さんの声とかぶった所為もあってほとんど何も聞き取れなかったんだけど、彼女の口は明らかに何かを使えようと動いていた。恥ずかしがってあまり合わせないようにしていた目をしっかりと合わせる様にして。
何故だか、胸がむずむずとする。
戻ってきたら何て言おうとしていたのか聞いてみよう。
ピンポーン。
一瞬体がびくっと反応した。こんな時間に誰だよ。母さんたちか? いや、母さんなら鍵を持って行ってるはずだしチャイムを鳴らす必要がない。父さんも今日帰らないと連絡受けてるし……
ピンポーン。ピンポーン。
宅配便だろうか。にしては遅い気がするけど。そもそも宅配便ってこんな時間もやってたっけ?
そんなことを考えながらゆっくりと玄関まで向かっていく。すりガラス状になっている扉の向こう側には黒い人型の影が見える。誰だ?
目を凝らしてみてもわかりそうもない。
ピンポンピンポンピンポーン。
「うるさいな」
どうであれ、こんな連続でチャイムを鳴らすなんて非常識だろう。だんだんとムカついてきた。一言ぐらい文句言ってやろう。
玄関のカギに手をかけガチャリと回す。
その瞬間、ぱっと薫ちゃんが伝えようとしていた言葉が頭に浮かんできた。
薫ちゃんは、彼女は俺にこう言ってたんだ。
「きをつけて」
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