第3話

「とりあえず、お茶にしようか」  

母さんは台所の電気ケトルからお湯を出して人数分の紅茶を手際よく用意した。それから棚の中からお茶請けとして普段は見ない高級そうなクッキーを持ってきた。明らかに見栄を張ってるなと思いつつ一緒になって食べられているから文句はない。

「どうなの、最近は」

母さんがそう切り出すと、綾乃さんは「聞いてよ、お姉ちゃん」と返し、そこから旦那の悪口をつらつらと話し、それに共感した母さんも父さんの悪口をどんどん吐き出していった。

当分終わりそうもなかったので、薫ちゃんと一緒にリビングでソファーに座りながらテレビを眺め始める。

「ん、どうしたの?」  

俺の方をじっと見ていた薫ちゃんに声をかける。薫ちゃんは首を横に振ってテレビに視線を移す。テレビ番組が詰まらなかったのだろうか?

数分も経たないうちに、薫ちゃんはまた俺の方を見つめていた。どうしたものかと頬と掻く。男の子なら公園でキャッチボールだの、戦闘ごっこだので上手く遊べるけど、女の子だと正直どうしていいかわからない。

「薫ちゃん大人しくていいわね。やっぱり女の子の方が男の子より大人になるのが早いのかしら」

父親たちの愚痴がようやく終わったのか、母さんが薫ちゃんを眺めながら呟く。

「それは良いんだけど。あの子最近人の顔色ばかり伺うようになっちゃってる気がして。もっと自分のやりたいこととか言って欲しいのに」

「まぁまぁ、そのうち自然と自分から言うようになるよ。ってもうこんな時間じゃない。そろそろ行こうか」

「そうだね」

「翔太、私たち出かけるから薫ちゃんのことよろしくね」

「翔太君。悪いけどよろしくね」

「いってらっしゃい」

綾乃さんは薫ちゃんの前でしゃがみ視線を合わせた。

「薫、お母さんこれからお姉ちゃんとお出かけしてくるから、翔太お兄ちゃんと一緒にお留守番していてくれる?」

綾乃さんの言葉を聞いた途端、薫ちゃんは勢いよくソファーから立ち上がると綾乃さんの服をぎゅっと掴んだ。

予想外の俊敏な動きに俺も母さんも綾乃さんも驚いていた。当の本人は 下を向きながら、小さく、しかしはっきりと言った。

「……薫も一緒にいく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る