第2話

「綾乃久しぶり。元気にしてた」

「久しぶりお姉ちゃん。ぼちぼちね」

 玄関での会話がリビングにいたぼくの耳にも届いてきた。綾乃さんたちが到着したようだ。

「薫ちゃんも久しぶりだね。私の事覚えてる?」

「……」  

無言。噴き出しそうなのを必死に堪える。覚えられてないのか、母さん。ああ、でもここまで声が聞こえてない可能性もあるのか。

「ごめんね。薫、恥ずかしがりやになっちゃって」  

綾乃さんがフォローを入れてる。どうやら前者の可能性が高いだろう。

「いいよ、前にちょっと会っただけだもんね。そりゃ覚えられないか。でも翔太のことは覚えてる?」

「……翔太お兄ちゃん?」  

小さいけど確かに聞こえてきた。鈴をころころと鳴らしたようなかわいらしい声。覚えてくれてたんだ。意外と嬉しいものだ。

「そう、リビングにいるよ、おいで。綾乃も」

「ありがとう、お邪魔します」  

足音がこちらに近づいてきて、ほどなくリビングの扉が開けられる。

「翔太、薫ちゃん来たよ」

「翔太君こんにちは、大きくなったね」

「綾乃さんこんにちは」  

軽く頭を下げ、視線を綾乃さんの後ろに隠れている小さな女の子に向ける。サラサラな黒髪にくりくりとした大きな目。そう言えば、薫ちゃんってこういう顔だった。確か、目線を合わせて話した方がいいんだよな。薫ちゃんと同じ目線になるよう彼女の前でしゃがみ込む。

「薫ちゃんこんにちは。俺のこと覚えてる?」  

綾乃さんの後ろに隠れたままだったけれど、薫ちゃんはゆっくりと首を縦に振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る