List.08 -誰が為に鐘は鳴る- ラストピース

『す、すいません! 失礼します! 私達ジャズギター同好会に入りたいんですけどっ!』

「おお~、マジか」

「きたぁあああ!」

「来るもんだな」

「……はい?」


 ――その日の放課後

 いつも通り旧音楽室に集まっていた僕ら4人。


 突然現れた女の子6人の集団は、見るからに緊張した様子でそう告げたのだった。


 新歓は大成功だったと言っていいと思う。

 けれど正直に白状すれば、今時バンドをやろうなんて人間はほんのごく一部だろうし、せいぜい一人か二人でも入ってくれたら万々歳、ぐらいに考えていた。


「えっと、皆はその……。入部? じゃなくて入会? 希望者?」


 念の為僕が聞いてみる。

 すると代表っぽい子が


「はい。実は私達の内の5人が同じ小学校出身なんですけど。少し前に流行ったガールズバンドありましたよね、女の子5人組の。私達あのバンドに凄く憧れてて……」

「あ~、なんだったっけ……。ロドリゲス・ロドリゲス?」

『シスターズ・シスターズですっ!』


 ヒロが女の子達から総ツッコミを食らっている。


(馬鹿すぎて頭が痛くなってきた……。憧れてるって言ってるんだから、怒られるに決まってるだろ……。第一ロドリゲス・ロドリゲスって誰だよ)


「な、なんかごめん……。そ、それで……?」

「あっ、それで5人でバンドできたらいいね、って話は何度もしてたんですけど。今ってその、バンドブーム? って言うんですか。そういうの、もう無いじゃないですか。だから諦めてたんですけど、先輩達の演奏凄かったです! 感動しちゃいました! ここならもしかしたら、バンドができるんじゃないかって、皆で話し合ったんです」


 正直初めて『先輩』と呼ばれる事への照れもあったし、それ以上にこんな風に面と向かって演奏を褒められるのも、ステージに立つよりよほど緊張した。

 4人揃って目を逸らしたり、頭をポリポリかいたりしてる。


「え~っと、それでもう一人は?」


 この子は5人が同じ小学校と言っていた。

 と言うことは、今1人だけ後ろで気まずそうに立ってる子は、この子達とは別枠って事だろう。


「あ、あの……。私は楽器とか、出来ないんですけど……。その、何か私でも、お手伝い出来る事とかないかな、と……。先輩達、の演奏……、とても、とても素敵でした……」

「あ~、もしかしてマネージャー的な?」

「は、はいっ、そうですそうです。そういうのご入り用じゃありませんか? い、いらないですか?」


 多分元々気が弱い子なんだろう。

 言ってる事が割としどろもどろだけど、気持ちはちゃんと伝わってくる。

 実際バンドというのは、雑用や荷物運びも山ほどある。

 希望して雑務をこなしてくれる人間がいるなら、そういう役割がいてもいいのかもしれない。


「え~っと、実は今日まだ顧問のチエ……、じゃなくて柊先生が来てなくって。いつもならもうすぐ来る頃だと思うんだけど……」


 ――と、その時だった。


「ジャズギター同好会へようこそっ! 私が顧問の、柊ですっ!」

「……はい?」


 『ふんすっ』と鼻息も荒く、両足は肩幅に、片手は腰に、もう片手は高々と挙手、という謎のポーズで、颯爽とチエちゃん先生が登場した。


 全員ドン引きだった。


「それと君も、でしょ?」


 そう言って扉の向こうから、両肩を軽く掴んで一人の生徒を前に押し出す。


「……よろしく、お願いします……」



 何を隠そう、最後に現れたこの生徒こそ、アーリーバードの最後のピース。


 『天才少年ピアニスト』と呼ばれた【通称:マサ】こと、関谷昌伸せきやまさのぶ


 

 ――7人目の新入部員だった。

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