目覚め/The_King_In_Yellow_2-9
劇場内を徘徊していた深きものどもが、不意に動きを止める。異様な魔力の気配に、鼻らしき器官をひくつかせる。
やがて、異様な様子の亜門に気づくと、怪物は一斉にその体へと殺到した。
今までの健闘が嘘のように亜門は抵抗なく捕らえられる。しかし、身体に牙を立てられ、四肢は引き裂かれそうになっても尚、亜門の義眼は深きものを見ていなかった。
亜門が見ているのは宇宙だった。
天井の向こう、空の上、
アルデバラン。
その星の中にある、未知の技術で建造された都市『カルコサ』。多数の触手と翼を携えた異業の生物が巣くう町に囲まれた巨大な湖に、亜門の意識はあった。
彼らは決してその湖に入ろうとしない。
彼らは分かっているのだ。黒く澄んでいるこの湖の中に、暗黒よりも濃厚な、この星の支配者がいると。
ある者は声を上げる。
ある者は地に伏せる。
未知の言語を繰り返し、祈るように湖に呼びかける。
脳に響く賛美の声は彼らのものだった。遥か地球から離れたこの星で、音と光が時を超え、亜門の元に届いていた。亜門の脳は今、この星と繋がっていた。
全ての準備は整った。亜門の意識は湖の中へと入り、やがて湖の底である黄色い砂漠へと舞い降りる。
亜門はそこで、この星の支配者を見る。
砂漠に広がる裂け目。常に動き、なだらかな円を描いている。いや違う、それは眼だった。誰よりも見覚えのある瞳孔。それは他ならぬ自身の義眼だった。
星の中央。砂よりも小さな領域で、星よりも大きな義眼が
眼に見つめられ、次第に意識が闇に溶けていく。自我が砂漠へと沈む。星の始まりと終わり。文明の繁栄と衰退。そしてそこで誕生する命と、砂に還る肉体。その全てを亜門は体験する。
長い時間が過ぎたように感じる。あるいは全てが一瞬の出来事だったようにも感じる。
遠くから自分を呼ぶ声に、やがて亜門の意識は目覚める。
懐かしさすら覚える機械音を頼りに、肉体への扉を開く。
それは永遠にも思える追憶の、終わりを告げる声。自身の今の姿を現わす一つの記号であり、敵を滅ぼすために支配者が持つ、一つの
《『
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