../書記:09月02日
生きている本。便宜上、この本を彼と称する。
彼を解析し始めてからしばらく経過した。
発見した当初は、何度となく書き換わる内容に頭を悩ませていたが、次第に私はその法則を、ほんの少しだが理解しつつあった。
というのも彼の知識はただ単純に内容が入れ替わる訳ではなく、持ち主……つまりは読む人間に必要な知識を選択し、それを頁として表示しているようだった。
私がこの洋書を彼と称するのも、この知性を感じさせる挙動によるところが大きい。
そして肝心の内容だが、無事チームの協力により、遂にその全貌をインナーユニバース上に写し取ることに成功した。
使用されている未知の文字は実に200種類以上。データとしての容量は、実に同サイズの洋書の数万ページにも匹敵する膨大な情報量だった。
何より、そこに記録されていた内容は驚愕の一言だった。
この科学技術の進歩した学都ですら再現できぬような技術、いや技術と言っていいのだろうか? 古めかしいとも言える手法で行うそれは、所謂儀式と呼ばれるものの手順だった。
魔術、だと彼は言った。魔術を記録する魔導書なのだと、私から学んだ人の言語を使い、彼は私にそう言った。
私は研究に夢中になった。未知の技術、そこに記された人類有史以前にこの星を総ていた種族、文明、そして海中に沈んだ第七の大陸、それらの与太話が現実に存在する事実を目の当たりにして、興奮しない学者が学都にいるのだろうか?
解明したい。その欲求だけが日々強くなっていく。しかしそれにはまだ問題があった。
彼がまだ完全には電脳化に対応していないのだ。中身を写せば、その通りに動くものだとばかり思っていたが、そうではないらしい。今は本の形をした彼と翻訳機を通じてコンタクトを取っている状態だが、彼が完全にインナーユニバースに移れば、本がなくとも自在にコンタクトを取れることだろう。きっと良きアドバイザーとなってくれる。
そのためにも必要なのは、彼を動かすための媒介と、環境だ。少なくとも今の本の状態に近い環境を整えることができれば、彼は電脳上でも相応の動きを得られることだろう。問題は本の状態をどうやってインナーユニバースに適応させるかだが……それは解析にも注力してくれた教え子に任せるとする。
それよりも、魔術の研究を進める。
彼が完全に電脳化できなくとも、記録されている魔術は使えるのだ。
物理法則を歪めかねない数々の呪文の中で、私は人を魚へと戻す。否、進化させる魔術へ強い関心を抱いた。
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