../書記:08月30日

 調査という名目で、この土地の地下を探索し始めてから数週間、ようやくめぼしい発見をした。

 いつもの木くずや土塊ではない。今日のものは格別だ。


 本。それも普通の本ではない。洋装本ともいうべき、分厚いなめし加工を施された書物だった。

 装飾は特殊な物を使用しているのか、妙に艶めかしい肌触りだった。古い物であるはずなのに、まるで新書のような感触を持つ。しかし反面、内側のページはカビと埃にまみれ、まともに読むのは困難を極めていた。

 さらに解析を困難にしているのは、その内容故だった。

 記されている文字は見たこともない奇怪な物、文章に至っては未知な文法で構築されていた。

 私自身、考古学や言語学の学者ではない。一人でこの謎の書物の正体を探るのは限界があった。

 そこで私は有志を募ることにした。そのために、この本の中身をインナーユニバース上に保存することに決めた。汚れたページを洗浄し、傷が酷ければ補修する、その過程で一つ、驚くべき事実に気付いたのだ。


 この本は生きている。

 少なくとも、そうとしか表現できなかった。

 中身全てを記録しても、一度その本を閉じてしまえば、その内容が変わる。行や文法がずれることは当たり前。時には3ページ目に記されていた内容が、100ページも先に現れたりすることもあった。

 少なくとも見た目の以上の知識が、この本にはあった。そして何よりも驚くべきことは、この本にはその知識を巡らせるだけの思考と表現力があるということだった。

 地下からこんな物が発掘されるとは、正直驚いている。もしかしたらこの土地には、大昔に栄えた文明があったという噂は本当なのかもしれない。

 ひとまず明日、この研究を手伝いたいという幾人かの若い教え子に、この本の解読を頼んでみたいと思う。


 これほどの興奮は久しぶりだ。こんな未知の書物に描かれている内容とは一体何なのか。未だに興味が尽きない。

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