金子だった俺は異世界でレオモンドになる

子の灰

1 俺、参上

平成が終わって新元号になる。そんな令和元年に俺は喧嘩していた。今日のカモは隣町の高校の奴らだった。馬鹿が馬鹿正直に4人ぐらいで来たので、こちらは8人で相手を囲い、燃やした。携帯ガスバーナーで皮膚を炙ったあとに転がった高校生を木の枝で徹底的にった。中学生の俺は肉体的にはそこまで強くないだろう。だけど、強くなくても勝てるのが勝負だと確信している。


古臭いしきたりだったり時代遅れな考え方なんて、最新で卑怯な手には勝てない。皆が思いつかず、対策出来なければ、そもそも戦う前から勝敗は決まってる。俺にとって喧嘩というのは実に単純で、自分以下の馬鹿にマウントを取れる便利な道具でしかない。


純粋な殴り合いをしているつもりはないし、する予定もない。今日みたいに人を殺せる装備で重傷にならない程度のギリギリを見極める遊びはなかなか難しくて、スリリングで、最高に楽しい。相手が動かなくなったあとに財布と学生証を抜き、生存確認だけして電柱にスズランテープで体を括りつけるのがいつものやり方だ。周りからはモズと呼ばれているがそんなダサい通り名は呼ばないで欲しいのが本音だ。


そんな強い俺は初めて喧嘩で負けた。常に俺以上の奴とは喧嘩しないようにしてきたが今回の相手は大人だった。いきなり車で下校途中にはねられ、そのまま殴り続けられた。最悪な気分だった。自分がやられている状況が恥ずかし過ぎて死にたかった。目を閉じて意識が無くなりそうになった時には多分、涙を流さないようにするので精一杯だっただろう。



……もう少し、あと5分。そのぐらいの眠さで起きたら神がいた。見た目が神っぽいので神と呼んでみた。その神は何も言わずに俺の後ろ側を指差した。俺が振り返るとそこには様々な武器と洋服が転がっていた。昔のヨーロッパで使われていそうなマントが落ちていたので拾い上げた。その時には自分が全裸で立っていることに気付いた。


聞きたいことは山ほどあったが、どうせ夢。そんなの関係ねぇとパンツとシャツのようなものを手に取り履いてみた。着心地は良くないが、問題なく生活できそうな感じ。やってる内にコーディネートを考えるのが楽しくなり、騎士の甲冑を着て最後にマントを羽織る。


次はこの衣装に似合う武器を探さなければ。一番リーチのある長剣が見た目の割に不自然なくらい軽く持ち上げられたので、これは発泡スチロールか何かでできた安物だと思う。だが、その他の武器は馴染みがなく、弱そうだった。どれもポンコツに感じる。これで馬にでも乗れば立派な騎士だ。そう思うと同時に俺は馬に跨っていた。足元を見るとそこに放置してあったはずの服や武器は見当たらず、神っぽかった人も居なくなっていた。変な夢だが、夢ってのはいつもこうだ。脈絡なんざ、これっぽっちもない。


背景は一面の白から徐々に世界の細部を構築していって、気づいた時にはゲームの中の様に俺は騎乗して剣を握っていた。黒い馬の上から見える光景は焼け野原そのものだった。周囲に生きてる何かなんて無かった。全部が全部、死んでいた。土と生物だった色しかそこにはない。

「なんだこりゃ?」

異世界に来た俺は、初めて思ったことを声に出した。右手に持った長剣の鞘がないことを発見できたのは現実逃避のおかげだったのかもしれない。

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