第16話 ラブコメに「好き」は禁止
次の日、学校にいろりの姿はなかった
次の日も、またその次の日も
清水先生は風邪と言っているが実際はどうなのか分からない。
「心配ですね」
「そうだな」
鮫島さんもいろりのことを心配してくれているらしい。
「あの、もしよかったら放課後お見舞いに行きませんか?」
「そ、そうだね一緒にいこうか」
なぜかわからないがここ最近、いろりが学校に来なくなってから、俺の気分が良くない。
胸のあたりがこう、なんていうかモヤモヤした気分になって、なんか嫌な感じである。
放課後、俺と鮫島さんはいろりの家に向かった。
「鮫島さん、よくいろりの家知ってたね」
「はい、前に遊びに行ったことがあるんですよ。あっ、着きましたよ!ここです」
標識には佐倉とあった。
ここがあいつの家で間違い無いらしい。
ピーンポーン
心の準備をする間も無く鮫島さんはチャイムを鳴らす。
するとすぐに返事がありドアを開けたのはいろり本人だった。
「い、いろり大丈夫なのか?」
「なんだヨコッチもいたんだ」
「今日はお見舞いに来たんですよ、横田さんが私を誘ってくれたんです」
それは違うだろ!
と反論しようと思ったが、鮫島さんの優しさなのだろう、その嘘を通すことにした。
「そ、そうなんだ。それで、入るの?」
いろりは熱のせいか顔を赤くさせ、家の中を指差しあがっていくかを尋ねた。
「....えっと」
「はい!もちろんです。もともとお邪魔する予定でしたし、ねー横田くん!?」
「あ、あぁ」
結局お邪魔することになった。
いろりの体調は良くないらしい。
顔がさらに赤くなっていた。
「いろり、お前寝てていいぞ。あとなんかして欲しいことあったら言ってくれ」
「う、うん」
「はいはい!イチャイチャはそこまで!で佐倉さん、本当は風邪ひいてないでしょ?」
「.....」
鮫島さんの質問に対し、いろりは黙秘した。
何も言わずうつむき、そしてなぜか悲しい顔をしていた。
「佐倉さんもういいんですよ!私のことは気にせず、横田さんに言いたいこと、言ってください!じゃないとこっちまでやりづらい、というかモヤモヤしてしまいます!」
「......」
いろりは黙秘を続けた。
「な、なぁいろり俺に何か言いたいことあるのか?もしかしてこの間のことなのか?」
「.....」
いろりの黙秘は続く。
ただ手をギュッと握りしめ、何かを言いたそうだった。
「もう、佐倉さん!あなたが言わないなら、私が言ってしまいますよ!それでもいいんですか!?」
「それはダメ!」
ずっと黙秘していたいろりがやっと反応した。
先ほどより顔が赤い。
顔が燃えるんじゃないのかと心配になった。
「ほら!早く伝えてください、私は外で待っていますから」
そう言って、気を使ってくれたのか鮫島さんは部屋を出ていった。
ちょっと待て!
いまこの状況、クラスの女子と2人きりでしかも女子の部屋だと!
健二の健二が暴れないよう、心を落ち着かせ、なるべくいろりを見ないようにした。だが、健二の健二は興奮を抑えられず暴れる寸前だった。
「そ、それで伝えたいことってなんだ?」
ぎこちない喋り方になってしまった。
緊張して心臓が飛び出しそうだ。
それにこれ以上この空間にいたら、間違いなく健二の健二は暴走する。
「そ、それは...」
一度深呼吸をして、いろりは続けた。
「あのね私はいまヨコッチの仮の彼女だけど、そのなんていうかそれじゃ嫌なの」
「それって仮の彼女はやだってことか?」
いろりは小さくうなずいた。
「じゃあ屋上で俺が言ったことを承認してくれるってことか?」
「そうじゃない!そうじゃなくて本物に....私は、佐倉いろりはヨコッチの本物になりたいの!」
俺の頭はパンクした。
こいつは何を言っている。
それってつまり、つまりは告白なのか?
いやでも待て、そんなはずがない。
俺を好きになるやつがいるなんて
だって俺だぞ!健一兄さんのように完璧でもなく、妹のように性格がいいわけでもない。
なのにどうして俺を.....
「え、えっとそれってどういうこと?」
「言った通り、本物になりたいの。ダメかな?」
いろりの顔がついに真っ赤になった。
今までにないほど、可愛く見えた。
流石の俺もいろりの気持ちは理解できた。
そう思うと俺も恥ずかしい。でも俺は、俺の本物って......
「な、なぁ佐倉さん」
「な、なんでしょう?」
恥ずかしさのせいか俺もいろりも言動まで変動していた。
「そ、そのつまりは す、好きってことなのか?」
いろりは小さくうなずいた。まじかー!やばい、どうしよう。
もしかしてとは思ってだけど、実際に本人から言われるとめっちゃ恥ずかしい。
「お、俺でいいのか?」
「う、うん...」
「........」
しばらく無言が続いた。
そして先に口を開いたのはいろりだった。
「それでどうなの?ヨコッチの気持ちは?」
「そ、それはすごく嬉しい。けど分からない。どうしたらいいかよくわからないんだよ。こんなこと今まで一度もなかったしだから、その.......」
「わかった。じゃあ保留ってことにしておいてあげる。それで、もしヨコッチの本物がみつかって、それが私だったら付き合って!それでいい?」
俺の中から何かが出てきそうだった。
これは俺のいろりに対する気持ちなのか、それとも....。
俺は少し考えた。そして...
「う、うん......
こ!」
「はい?」
「いやー、実はトイレ行きたくなっちゃってさぁトイレ使ってもいいか?」
「は!?なにそれ!いまのムードで!流石はヨコッチだね。もう帰って!」
いろりの表情は一転して怖いものになった。
ゴミを見るかのような目で俺を見た。
「ちょっとお願いトイレだけ貸してー」
結局俺は家から追い出され、トイレに行くことができなかった。
「横田さん、どうでしたか?」
外で待っていたのは鮫島さんだった。
「いやその、なんていうか....」
「やっぱりいいです。これから頑張って下さいね!私も応援していますから」
応援?なにを応援するんだ?
まぁいいか。
それよりも今は健二の健二を落ち着かせることが先決だった。
今日の出来事を境に俺の生活は大きく変わることになる。
なんて自分の頭で想像なんかしてみたりしたが、結局頭の中に残ったのは今日のいろりのことだった。
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