第15話 女の子は分からない


「おはよーヨコッチ!」




教室に入り、元気な挨拶で出迎えてくれたのはいろりである。




「お、おはよう。鮫島さんもおはよう」


「おはようございます、横田さん」




まさか女子2人と挨拶を交わせる日が来るとは思っていなかった。


この生活、日々がずっと続けばいいのに。


そんなことを思って席に着く。





キーンコーンカーンコーン




チャイムと同時に担任である清水先生が入ってきた。




「ほら、ホームルーム始めるぞ!席につけー!」




その掛け声とともに生徒は一斉に席に着いた。




「出席確認するぞー」




順番に名前が呼ばれていく。毎日行っていることだが、意識して聞いてみると今まで気にも止めていなかったせいか、知らない名前がほとんどだった。





「淵野可憐さん!」


「はい」





聞き覚えのある名前が呼ばれた。


淵野可憐さんってこのクラスだったんだ。


え!?


ちょっと待て、あの人先輩じゃなかったっけ!?



返事をした方を見てみると、間違いなく仮スキー部の部長、淵野可憐先輩である。




ちょっとまってくれ、頭の整理が追いついていない。ってことは実は先輩じゃなかったのか!?




ホームルームが終わり俺はすぐに先輩の席へ向かった。





「あ、あの淵野先輩。なぜこの教室に?」


「あら、心外ね。私はずっとこの教室よ」


「いえ、そういうことじゃなくて、なぜ2年生のクラスにいるんですか?」


「そんなこと決まっているじゃない!留年したからよ!」




誇らしげに語ってるけど、それ結構まずいことだからね!


まぁそれで納得した。淵野可憐という名前を聞いたことがあったのも、淵野先輩がこのクラスにいることも。



ガラン!



誰かが教室に入ってきた。みると清水先生である。


忘れ物でもしたのだろうか珍しいな。





「悪い、1つ言い忘れていた。横田、2時間目が終わったら職員室に来てくれ、よろしく!」




そう言ってまた教室を出て行った。




えっと、俺なんか悪いことしたっけ?

いや身に覚えないよな。クラスの生徒からの視線が集まった。




「ヨコッチ!なんかやらかしたの!?」


「そ、そんなわけないだろ!多分」


「んー」




いろりは腕を組んでしばらく考えた。





「やっぱりなんかやらかしたでしょ!」


「いやいや、今何を考えてその結論にいたったんですか!?」


「いや、なんとなく」




俺の仮の彼女はやはり酷い人でした。


仮のおつきあいから3日、もうそろそろいいんじゃないかと思い始めている。




「なぁいろり、あとで相談があるから昼休み屋上に来てくれるか?」


「う、うんわかったけど」




少し恥ずかしそうなそぶりを見せる。ちょっと可愛いかも


いや、これはまやかしだ。


「彼女」という名前に俺の心が反応しているだけだ、決していろりが可愛いとかそういうことじゃない。





2時間目が終わり、俺は言われた通り職員室に向かった。




「おぉ、来たか」




担任の清水先生の様子を見る。


怒られる心配はなさそうだ。緊張して来てみたが少しホッとして力が抜けた。




「あの、俺に何かようですが?」


「あぁその前に1つ聞くがお前、淵野可憐と仲がいいのか?」


「いや、そうでもないと思いますけど、部活がたまたま一緒で、それでまさか同じクラスだったとは思いませんでしたけど」


「そうか、割と仲がいいみたいで良かった、それで本題なんだがお前にやって欲しいことがある」


「別に仲は良くないですけど、それでやって欲しい事とはなんでしょう?」


「それはだな.....」




この休み時間は清水先生のその頼み事の話で終わってしまった。


そしてその頼み事なのだが、非常に面倒くさい。


なんで俺に頼んだんだよ。


1つため息をついてからゆっくり教室に戻った。





昼休み、屋上に行くと別のカップルがイチャイチャしていた。

すぐにその場を立ち去ろうと思ったが、すでにいろりが待っていた。





「よ、よういろり」


「ようって朝も挨拶したでしょ!で何のようなの?」


「えっと ば、場所を変えないか?」





イチャついてるカップルを見ながら場所を変えるよう訴える。




「いいよここで、私も暇じゃないから要件あるなら早くしてよね!」


「わ、わかったよ。で本題なんだけど、俺といろりの関係について何だがそ、そのもう沖野陸はいないし、付き合うふりをやめてもいいかなーと」


「..........」




いろりはうつむき何やら呟いていた。

そして急に向きを変え、階段の方へ走って行った。





「ちょ、ちょっと待てよ!」


「......バカ!」





聞こえたのは一言「バカ」という言葉だけだった。






放課後1人で下校していた俺は、いろりが前を歩いているのに気がついた。





「いろりー!」




いろりは一瞬こちらを振り返り、俺から逃げるように早歩きになった。




「ちょっと待てってば!」




俺もそれに合わせ早歩きにし、いろりを追いかけた。

俺の家の近くになり、ようやくいろりに追いついた。




「なに怒ってるんだよ!」


「別に怒ってないし...」


「いや怒ってるって、絶対!」


「怒ってないって言ってるじゃん!もうほっておいてよ!」


「なに言ってんだよ、お前らしくないぞ!」


「私らしいってなによ!ヨコッチ私のこと何にも知らないくせに!」


「知ってるよ!少しくらいならお前のこと、うざったいほど元気で、すぐ人にあだ名つけて、からかうのが好きですぐに気分が変わって.....」




あれ?

何で俺、こんなにいろりのこと知ってるんだ?


誰かに興味を持ったこともない俺が、なんで...?




「悪口ばっか...」


「え!?」


「だから悪口ばっかじゃん!他に私のいいとことかないの?」


「元気がいいとこって言ったろ!それに別に悪口言ったつもりはねぇよ」


「....バカ!」


「でなんで怒ってたんだ?」





少し落ち着いたと思ったが今の質問はまずかったらしい。

いろりはまた怒り出した。





「もう知らない!ヨコッチのバカ!」


「え、えー!」




いろりは向きを変え走り去って行った。


なんで怒ってるのか誰か教えてくれよ。俺にはいろりを追いかける元気はなかった。





「教えてあげましょうか?」





その声に振り返ると聖奈が立っていた。





「や、やぁ聖奈いつからそこにいた?」


「そうですね。なに怒ってるんだよ!ぐらいからですかね」


「それってほぼ最初からじゃん!で聖奈には分かるのか?なんで怒ってたのか」


「逆に健二にいはわからないんですか!?少ししか聞いていない私と違ってずっとあの女と一緒にいたんですよね!?あぁ、もういいです。とりあえず家に入りましょう!」


「そ、そうだな」




そうして家に入ると俺は聖奈から散々叱られるのであった。


だがその詳細については聖奈は教えてくれなかった。ただ俺を罵倒し、そして最後に




「もう、知りません!健二にいなんかどっか行ってしまえです!」




この一言で俺の心はズタボロになった。

もう立ち直れん。聖奈にまで嫌われるとは今日は何から何まで最悪だ!




そんな風にして今日という1日は終わってしまった。

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