第14話 ヒロイン同士の喧嘩はなしで
慌てて部室に入ってきたのは、少し怒ったような表情をした鮫島さんだった。
「あっ!ごめーん鮫島さん。忘れてた」
先ほどまで明らかに鮫島さんに関しての会話を無視していたいろりは、本当に忘れていたかのように振る舞った。
やっぱり演技か。
このあいだの告白が妙に本当っぽかったので少し期待していたのだが、今のを見るとやはりいろりは演技が上手いらしい。
「忘れてたもなにも違う教室を教えたじゃない!」
「そうなのかいろり?」
鮫島さんに嘘をついたとあればいくら仮の彼氏とはいっても黙っているわけにはいかない。
「そんなわけないじゃない。ヨコッチは私と鮫島さんどちらを信じるの?」
「それはもちろん鮫島さんだ!」
「なにそれ!酷すぎ!ヨコッチ見損なった、まじ最低!まぁでもそういう正直でまっすぐなとこも.....」
最後の方よく聞きとれなかったので俺は気になって尋ねてみた。
「なんか言ったか?」
「な、なんでもない!気づけ、バカ!アホ!ドジ!マヌケ!ヨコッチ!」
「いやいやヨコッチは悪口じゃないからね」
あれ、このネタどっかで聞いたことあるような.....まぁいいか。
「バカ、アホ、ドジ、マヌケ、ヨコッチ」
今のを聞いて、淵野先輩は同じことを呟きクスクスと笑いだした。
やっぱりこの人のキャラどっかの小説にいた気がする。
「でいろり、お前鮫島さんに違う教室教えたのか!?」
「.... 」
いろりは無言のままうつむいた。
「教えたんだな?」
「う、うん」
「どうしてそんなことしたんだ?」
「そ、それは!よ、ヨコッチには関係ないことだし」
「関係なくはないだろ!」
「だってヨコッチ全然私のこと」
「はい、そこまで!」
そう言って口を挟んだのは峯崎だった。
「せっかく全員揃っての初の部活なんだから、もっと楽しんでいこうよ!」
峯崎、お前結構いいやつなんだなと俺は思った。
「悪い、いろり。俺、少し言いすぎたな」
「う、うん私もそのなんていうか.....ごめん」
「全く2人とも仲がいい夫婦だこと!」
やはり峯崎は嫌なやつだ!俺といろりは同時に峯崎を見て睨みつけた。
「な、なんでもないです」
俺といろりの殺意を受け峯崎は酷く恐れた。
「じゃあ続きを始めましょうか!」
黙っていた長谷川さんは部活の続きを提案した。
「ごめん、鮫島さん」
「もういいわ、なんか今ので怒る気力も無くなっちゃった」
いろりと鮫島さんも仲直りできたらしい。
よかった。まぁこの2人がなんで仲が悪いのかは気になるところではあるけど。
「それで部活はどこまで進んだの?」
「えっとね。どこまでだっけ?」
鮫島さんの問いに対して、いろりは俺に答えさせるように俺の顔を見た。
「えっと実はスキー部はスキー部じゃなくて、でなにをする部活にするのかを話し合って、で俺が恋愛相談部的なのにすればって提案して、同意をもらったところ?かな?」
「なんでこっち見るし、てかなんで疑問形だし!」
よかった。いつものいろりに戻ったらしい。
「それでネットでそういうサイトを作るって話になって」
「なるほど、わかりました。では横田さん、私と一緒に作りましょう!」
「えっ、ええー!」
まさかの鮫島さんからのお誘いに驚きを隠せなかった。
「だ、だめよ!それなら私がヨコッチと一緒に作るから。一応か、彼氏だし」
「お前さっき一緒にはやらないとか言ってなかったっけ?」
「そ、それは....」
「まてーい!横田くんとやるのは友達である僕に決まってるじゃないか!」
なんかすごい展開になってきた。
でもちょっと嬉しいかも
結局サイト作りは長谷川さんと淵野先輩がやることになった。
そうしてなんとか初の部活動を終えることができた。
帰り道、公園の時計を見ると19時ちょうどを指していた。
遅い。部活をやっているとこんなに遅くまで外にいなきゃいけないのか。
あっ!そういえば入部届けだしてないじゃん!明日でいいか。
それにしても今日は今までの俺からは信じられんほど俺、人気だったな。
過去の俺に見せてあげたいくらい...。
「ただいまー!」
「おかえりなさい健二にい、随分と機嫌がいいんですね。また女ですか?」
「そ、そんなわけないだろ」
「そうですか?怪しいですけどまぁいいです」
あれ、いつもより優しいな。
まぁ聖奈はいつも優しいけど...。
「なにニヤついてんですか!気持ち悪いですからさっさと自分の部屋に行ってください。」
「わ、わかりました」
聖奈に気持ち悪いと言われたことがショックで、この日の良い出来事がチャラになった。
次の日の朝、家のポストに見覚えのある手紙が入っていた。
これは!学校の下駄箱でよく目にしたあの手紙で間違いない。
最近ないと思ったが、今度は直接俺の家にきたのか。
下駄箱よりも厄介だな。
もし聖奈や健一兄さんに見られたらなに言われるかわからん。
とりあえず手紙をポケットにしまい学校に向かって歩き始めた。
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