#27 彩られた人生
かつてクピドとセーラが禁忌を犯した時、原初の神はプロキシーを封印するという選択に至った。その為に必要だったのが、アランの持つ封印の能力である。
なぜプロキシーは根絶されなかったのか。理由は簡単。神とて永遠の存在ではない。何かしらの要因で神は死ぬ。そして神が死ねば、この世界を管理する者が居なくなる。故に神の代用品であるプロキシーは生かされ、必要になるその時まで封印された。
神の命令に背けるはずもなく、プロキシー達は全員、アランの能力でアクセサリーに封印された。
アランは孤独になった。
本来ならばアランはアクセサリーを管理し、神と共に世界を管理するはずだった。しかし自分1人が残ってしまったこと、自分以外のプロキシーが居なくなってしまったことに寂しさを覚えたアランは、神を説得し自らもアクセサリーに封印した。
アクセサリーの中は寒くも暑くもないが、光というものが無い。故に自らの手足を自らの目で視認することができない。
孤独に耐えきれなかったアランは、自らをアクセサリーに封じた。そうすれば楽になれると思った。しかし違った。アクセサリーの中は暗く、寂しく、心が壊れる程に怖い。
しかしいつしかアランの意識も心も暗闇に溶け、数十年の眠りにつく。
眠りから覚めれば、現世を管理していた2人の神が死んでいた。何があったのかは詳しく分からないが、自らがアクセサリーから分離している状況から察するに、ティアマトが禁忌を犯しクロノスがそれを阻止。戦いの結果両者は死亡し、何かしらの衝撃でプロキシーが解放された。何せクピドの反逆の際、ティアマトは若干クピドの思想に感心していたのだから、この予想はほぼ確実に的を射ている。
これからどうしようか。
そんな時、身体を取り戻すための拠り所として1人の少女に寄生した。その少女は生まれつき病に身体を犯されており、寄生した頃には既に死を待つ身体だった。
この少女も私と同じで孤独なのだ。
ならば孤独な者同士分かり合える。
分かり合おう。分かり合って、互いに求む理想的な世界で生きよう。
やっと、私は孤独じゃなくなった。
「そう……思ったのに!!」
アランはカナンに執着している。それは本人も自覚している。
約束した。共に理想郷を作ろう、共にこの世界を終わらせようと。
それなのにカナンは裏切った。
また私を1人にした。
もう、孤独なんて嫌だ。
「カナンは私と同じ……孤独な人生を歩んでた! なのになぜ今更孤独であることを捨てる!!」
カナンへの失望。舞那への怒り。孤独では無い者への嫉妬。あらゆる感情が篭った声は野太く、さながら悪魔のような声であった。
「舞那が、舞那の友達が教えてくれた! 孤独であってもいいことなんて1つもない。孤独を捨てて信じられる仲間を作ってこそ、人は自分の人生を彩る! それこそが! 私が求めた真の理想郷なんだよ!」
背後から響くカナンの声に、戦闘中のプレイヤー達は微笑む。そしてこの後理央が言葉を発し、次々とプレイヤー達は言葉を紡ぎながら攻撃を続けた。
「そう! 友達が居ないのなんて、人生の半分も楽しめてないようなものよ! でしょ、杏樹!」
「私みたいに少なくてもいい……それが心から信じられる人なら十分! 撫子もそう思わない?」
「ええ。何せ私の友達は、この場にいるプレイヤーだけです。けど、驚くほど充実してます。沙織さんと日向子さんはどうですか?」
「私だって充実してるよ。まあ中でも、日向子は私にとって誰よりも大切な存在だけど!」
「私もだよ沙織! 恋人が居て、友達が居て、家族が居て……もうこれ以上無いってくらい幸せだよ! 瑠花は幸せ感じてる?」
「幸せかどうかは分からないけど……少なくとも、今ほど楽しい時間は今まで無かった。龍華はどう?」
「無論! 私は友達多いから、今更そんな事言われてもって感じ! 千夏と心葵だって、もう人生彩りまくってるでしょ!」
「ええ! 私は心葵さんに出会った時から景色良好且つ超鮮明で人生エンジョイしてますよ!」
「私が見る世界はあんまし綺麗じゃなかったけど……舞那のお陰で千夏並にエンジョイしてるよ! 雪希もそうでしょ!」
「うん……舞那のお陰で、舞那が居てくれたお陰で、私の世界は常に綺麗でいた。断片的に濁って綺麗じゃない時もあったけど、それも人を信じてたからこそ! 信じる人が居るからこその濁りだった! そしてその濁りももう晴れた……舞那のおかげでね!」
言葉を紡ぎながらの攻撃を受け、アランの身体には幾度もダメージが走った。そのダメージも結局は創造者の力で回復する……はずだったのだが、アランは気付いてしまった。
身体の再生が遅く、且つ不完全になってきている。
創造者への干渉はカナンあってこその力。そのカナンが居なくなっても、残留した力で創造者へ干渉することができる。しかしそれはあくまでも「残留した力」であるため、能力を使う度に消費していく。
今現在、アランに死を克服する力は残されていない。故にゆっくりと傷を治すことはできても、消滅した身体を修復することはできない。
即ち死ねば終わる。神どころか創造者に最も近付いた存在のアランが、人間達により敗れる。そんな屈辱的かイメージがカナンの脳内に流れた。
「アラン、あなたがどれだけ強い力を手に入れようと、どれだけ相性のいい人間を見つけようと、あなたは私達には勝てない。理由、教えてあげようか?」
「理由……? そんなモノあるわけない! 私は強い……私は最強……誰も私に勝てるはずがない! まだ私は死んでない!!」
「……あなたが私達に勝てない理由、それは……」
舞那が言葉を終えるよりも先に、アランの目の前にエリザが現れた。
「私達の方が強いからよ、アラン」
エリザはライブラリからスキルを選び発動。右手に赤いライティクルを集約させ、強く握られた拳でアランの胸を殴った。
「クリムゾンフィスト!」
「うぐっ……!」
クリムゾンフィストの威力に押し負けたアランは後方に吹き飛ぶ。数メートル後退した時、アランは気付いた。
先程まで目の前にいたはずの緤那と文乃の姿が見当たらない。
「ストームブレイク……旋風!」
背後から文乃の声が聞こえたと同時に、アランの背中に強い衝撃が走る。それが文乃のストームブレイクであることはすぐに分かったが、アランには避ける術もなく、ダイレクトに背中で蹴りを受けた。
「後は任せましたよ、緤那さん」
それでもさすがのアラン。ストームブレイクを受けても尚、身体は形を維持していた。しかし衝撃は殺しきれず、今度は斜め前方に飛ばされた。
そしてアランは、この後起こるであろう出来事を予測した。創造者の力は殆ど失ったが、最悪なことにその予測は的中した。
「アクセラレーションスマッシュ……」
鮮明ではないその視界で、アランは空中に留まる緤那の姿を捉えた。
「神速!!」
――ああ、そっか……これも、創造者の予定通りの展開なんだ……。
音が聞こえた。破裂音に近い、あまり聞きなれない音。
その音が聞こえたと思った時、アランの身体は破裂していた。
アクセラレーションスマッシュを受け死んだのだ。
否、アクセラレーションスマッシュを受けるよりも前に、アランは負けていた。
この世界で舞那と対面するよりも前。
この世界でメラーフと対面するよりも前。
元の世界で緤那達と対面した時、アランが死ぬことは確定していた。
この世界に来なければ。緤那達と敵対しなければ、アランは死なずに済んだかもしれない。
否、アランが居たからこそ、カナンという1人の少女が成長できた。アランの死があったからこそ、カナンは"カナン"になれた。
「ありがとう、アラン……」
舞那にさえ聞こえないような音量で、カナンはアランに感謝の言葉を宛てた。
しかしカナンの感謝を受け取ることはなく、アランは消滅した。
こうして漸く、戦いは終わった。
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