#22 エリザのライブラリ
国道で静かに対面するエリザとカナン。2人の間には殺意も戦意も無く、ただただ静寂だけが流れている。
時間にして約40秒。互いに攻撃を仕掛けることなく、言葉すら交わしていない。
40秒と僅かの時間が過ぎ、最初に沈黙を破ったのはカナンだった。
「私の能力は、アイリスの能力と酷似してる。お互いに複数の能力を使用できるし、スキルも使える。そんな私達が戦えばどうなるか……分かる?」
「想像もつかない。いつ終わるのか、そもそも終わりは来るのか、それとも、私達の戦いに世界が追いつけず崩壊するか」
クピドの意志を継ぎ進化したアイリス・インハリット。能力やスキルは消え、身体能力の一環としてコピーや色彩反転を使える。加えてクピドの見てきた能力さえも使えるため、能力のライブラリはかなり増えた。無論、今までは出来なかった能力の併用も可能であり、進化体プロキシーの能力も使える。ステータス自体も跳ね上がっているため、単純な身体能力だけを見てもナイア・エボルやセト・エボルと同等、或いはそれ以上。
対するカナンは、本を開くことで漸く能力やスキルを発動できる。しかし能力のコピーだけを行うエリザとは違い、カナンはアクセサリーすらも再現する。無論、複数のアクセサリーを同時に実体化させることも可能。ステータスもほぼ同等。
能力発動の潤滑さで有利なエリザと、アクセサリーの多さで有利なカナン。2人の間に身体能力の差はあまり無く、使用できる別個体の能力の数は同じ。
エリザにも、カナンにも、どちらが勝利し生き残るか。加えてどれくらい戦いが長引くかが分からない。
「私、実は好きなアニメあるんだよね。そのアニメの中で、剣がいっぱい地面に突き刺さってるシーンがあるの」
「ああ、多分それ知ってる。私も好きだよ、そのアニメ。それがどうかした?」
「いやぁ、一度やってみたかったんだよね。武器を沢山地面に突き刺して、その都度武器を握って戦う……だから今日、実際にやってみることにした」
カナンが本全体にライティクルを集約すると、ページ全てが自動的に破れ、カナンとエリザの周囲に浮かぶ。ライティクルを纏ったページは形を変え、そのページに書かれたストーリーのアクセサリーになった。
ブーツ、ハイヒール、鉄扇、大鎌、手甲鉤、ジャマダハル、鎖鎌、篭手、盾……カナンの本に記載されたプロキシー達のアクセサリーが実体化している。しかしアクセサリーは地面に刺さることも転がることも無く、ただ浮いている。
「普通に戦うより、こうやって戦った方が燃える……そう思わない?」
「……私達、もう少し違う出会い方をしてれば、友達になれてたと思う。だって、この状況で、私燃えてる」
「いいねぇ……じゃあ
先に動いたのはカナン。すぐ近くに浮いていた薙刀を掴み、エリザへと攻撃。対するエリザは近くに浮いていた盾を装備し、薙刀による攻撃を防御。しかしアクセサリーは武器本体の性能ではなく、宿る能力が勝敗を分ける。
「能力、透過」
カナンが握った薙刀の能力は透過。アクセサリー及び自身を透過させることで、あらゆる物理攻撃から身を守る。一見防御に徹するような能力であるが、カナンはそれを攻撃に使う。
透過した薙刀は盾を、エリザの腕を透ける。刃がエリザの腕の中心に達した時、カナンは能力を解除。透過した身体は元に戻り、同時にエリザの腕を透けていた薙刀も元に戻る。透過が解除された薙刀の刃はエリザの肉と骨を巻き込みながら刃を生成し、腕に刃1枚分の穴を空けた。
「能力、融合」
対するエリザは、能力のライブラリから"融合"という能力を発動。有機物無機物問わず対象Aを自らと融合させ、身体の一部へと変えられる。仮に鳥と融合すれば翼が得られ、仮に無機物と融合してもその無機物を有機物として吸収することも可能。
融合発動と同時にエリザは能力"刃"を発動し、鉄扇から伸びる光の刃で薙刀を切断。エリザは融合で切断した薙刀の刃を吸収し、薙刀により貫かれた腕の傷を修復させた。
融合という能力を既に知っているカナンはエリザの傷の修復に驚くことも無く後退。次の攻撃のため薙刀を投げ捨て別のアクセサリーを手にした。
「クリムゾンフィスト!」
装備したのは、ナイアのブーツ。そして発動したのは、アメイジング・ナイアの能力を応用した緤那のスキル、クリムゾンフィスト。
「能力、加速」
エリザはクリムゾンフィストを回避すべく、ナイアの加速を発動。1秒未満でカナンの背後に回り込み、鉄扇から伸ばした光の刃でカナンの心臓を狙った。
「加速できるのは私も一緒よ!」
しかし刃がカナンに届くよりも前に、カナンはアメイジング・ナイアではなくナイアの能力に切り替え、加速を発動。加速状態で横移動し刃を回避、直後にまた別のアクセサリーを掴んだ。
「能力、虫!」
手にしたアクセサリーは刺股。そのアクセサリーに宿る能力の名は、虫。刺股を振った軌道上に何かしらの虫を出現させるというものであり、大量の
「むむむむむむ、虫!?」
エリザは優しい性格の持ち主であるため、人間は勿論動植物も愛している。しかしそんなエリザにも、唯一苦手なものもある。
そう、虫である。
決して嫌いな訳では無い。見るだけなら蝶は美しいと思うし、クワガタは魅力的だと思う。ただ総合的に苦手なだけである。特に手足も無いくせにウネウネと前に進んでくる緑色のヤツとか、足がいっぱい生えた単純に気持ち悪いヤツとか、見ただけで背中を逆撫でされたような不快感と嫌悪感を抱く。
「あら、虫苦手なの?」
「……正直絶滅しちゃえばいいと思ってる」
「あはは……なら、とっておきのお見舞いしてあげる!」
刺股を振ると、軌道上にありとあらゆる羽虫が現れた。その瞬間、エリザの全身の毛が逆立ったかのような気持ち悪さが走り、額からは汗が噴き出た。
「いいいいいい無理無理無理無理無理無理!!」
涙目のエリザは咄嗟にアウェイクニング・ルーシェの能力を発動し、虫の軍勢を防ぐため闇を生成。本家である光よりも速く正確な動きの闇で、虫の軍勢を一瞬で飲み込んだ。
「なら次は!」
次にカナンが手にしたアクセサリーは篭手。サーティアのアクセサリーである。
「フリージングクラッシュ!」
焔のスキルであるフリージングクラッシュを発動したカナン。対するエリザはライブラリからスキルを選び、ジャンプすると同時に発動した。
「キッキングブレイズ!」
エリザは吹雪のキッキングブレイズを発動し、カナンに向けて飛び蹴りを放つ。
(あれ、これ……)
(どっちが勝つの?)
氷塊を一瞬で溶かしてしまう程の炎を纏うエリザの脚と、炎さえも凍らせてしまう程の氷を纏うカナンの拳が接触。
言い方を変えれば、穿けぬものは無い最強の槍と、絶対に貫かれない最強の盾との接触。
この2つのスキルの接触による起こる現象。一体どちらの威力が勝るのか。そんなことはエリザにもカナンにも分からない。
「ぅぐっ!」
「あっつ!」
エリザの脚を侵食するカナンの氷と、カナンの腕を燃やすエリザの炎。
2つの能力は互いにダメージを与えるだけか。そう思われた時、予期せぬ事態が起こった。
「「っ!?」」
炎と氷は爆音と共に消滅。
最強の炎と最強の氷の接触。双方の衝突という一種の矛盾の回答は、双方の消滅。その回答はカナンさえも予想していなかった。
(この状況……ヤバい……!)
炎と氷が消えた今、カナンの攻撃を補助するものは篭手のみ。対するエリザはアクセサリーを必要とせず能力を発動できるため、この一瞬の状況はかなり不利。仮に篭手で攻撃しても、何かしらの能力で防がれるのは目に見えている。
次のアクセサリーを掴むには数歩移動なければならない。しかしエリザは移動する時間を狙い攻撃してくる。
一瞬では打開策が思いつかない。まずい。
(まさかこんな早く負けるなんて……)
死を覚悟したカナン。
しかし、
「……なんで、殺さないの」
着地したエリザは能力"闇"で自分達の周りを囲んだだけで、カナンを攻撃しなかった。
「……あなたはカナンの分身。だけど、思考とかは本物なの?」
「そうだけど……それを聞くためだけに私を生かしたの?」
「まさか。他にも聞きたいことはある。ただ分かってるだろうけど、これ以上の戦いは無意味。ここから先は私の質問に全て本音で答えて」
周りを闇で囲い逃走経路を潰し、エリザは尋問、もとい質問を開始した。
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