#16 黄金の刃と盾
カナンは本を数枚一度に捲り、無数の文字が羅列された2枚のページにライティクルを集約させた。
アランのアクセサリーであるこの本には、見開きという形で各ページにストーリーが綴られ、各ストーリーに題名が与えられている。
カナンが今開いたページに綴られたストーリー。そのストーリーの名は、セーラ。
『その神は純白な光を纏い、その歪な鎌は全ての罪を断ち切る』
ストーリーの一節を読み上げたカナンは、ページに手を翳す。直後、ページに集約されたライティクルは形を変えていき、セーラのアクセサリーへと変化した。
「本でどうやって戦うのかと思ったら、そういうことね……」
本からセーラの鎌を出現させたカナン。その様子を見ていた舞那は、カナンが如何にして戦うのかを理解した。
封印の能力を持つアランのアクセサリーは、他のアクセサリーとは一線を画す。
アランがプロキシーを封印する際、相手の了承を得る必要がある。しかしカナンとの遭遇でシンギュラリティと化したアランは、自らのアクセサリーに「世界の記憶」を封印することができる。
今現在、カナンがアクセサリーに記憶している世界は1つのみ。しかしその世界は、緤那や文乃、エリザといったプレイヤー達が存在していた世界。1つの世界と言えど、この本に記している能力は多数。緤那達が認識していないプロキシーの力でさえも記憶している。
そんな本から今回選んだのは、セーラの鎌。再現度は完璧。能力に関しても本物とは一切差が無い。
「この鎌は、この世界とは別の世界に存在するアクセサリーのうちの1つ。少なくとも、木場さんは見たことないでしょ?」
「見たことない。見た目が歪じゃない黒い鎌なら見たことあるけど。その鎌がどんな力を持つのかを私は知らない。でも、私は負けない……来なよ」
舞那は金のアクセサリーを取り出し、鉄扇へと変化。そして鉄扇を開くと同時にカナンを挑発し、カナンは口元に笑みを浮かべて鎌を振った。
「能力、断罪!」
セーラの能力である断罪。カナンが居た世界ではプロキシー、プレイヤー相手に有効な能力であったが、リセット後の世界のプレイヤーである舞那に有効かは分からない。しかし断罪で舞那の能力を断ち切れば、カナンは戦いを有利に進められる。カナンは心の中で「この世界の能力だって消せるはず」と叫んだ。
「……翼を使うまでもないかな」
舞那は瞬時に鎌の軌道上から外れ、同時に開いた鉄扇を閉じて能力"刃"を発動。鉄扇の先端から光の刃が伸び、舞那を捉えられず空振りした鎌の刃を一瞬で切り裂いた。
攻撃の予備動作も軌道も読まれやすい攻撃だったため、カナンは避けられることを想定して攻撃した。しかし避けられると同時に鎌を簡単に切断され、流石のカナンも驚いた。
「なら!」
カナンは別のページを開き、そのページに綴られたストーリーの一節を読み上げた。
『その神、黒き残像を残し音を裂く』
ストーリーの名は、ナイア。
ページに集約されたライティクルはブーツを模し、カナンの両脚へと装備された。
「能力、加速!」
カナンはナイアの能力である加速を発動し、舞那を撹乱させるために不規則な動きを開始。
(速い……けど、速いだけじゃ私には勝てないよ)
加速の途中でカナンは進行方向を変え、舞那へと拳を向けたまま再度加速。確実に捉えた、そう感じたカナンだったが、カナンの拳が舞那の身体を抉るよりも早く、舞那は閉じていたはずの鉄扇を開いた。
「っ!!」
その瞬間、カナンの拳から肩にかけてが消え去り、カナンの攻撃はまたも不発に終わった。
鉄扇を開いた舞那は能力"盾"を発動していた。舞那に敵対する存在であるカナンの腕は盾に阻まれ、痛みを感じるよりも先に片腕を消した。一瞬のことであったためカナンは何が起きたのかさえ分からず、その痛みに顔を歪めた後に転倒。加速しての転倒であったため身体は強打、皮膚も擦り剥け、骨にもダメージが加えられた。
《カナンの腕は見る見るうちに再生し、10秒と経たぬ間に全身のダメージが消えた》
受けたダメージを帳消しにすべく、カナンは能力を発動した。
地面に飛び散ったはずの血液は消え、カナンの身体から血液が流れなくなった。そしてカナンの腕は見る見るうちに再生し、10秒と経たぬ間に全身のダメージが消えた。
身体が再生する瞬間を見ていた舞那だったが、話に聞いていたため驚きもせず、顔色すらも買えなかった。
「聞いてた通り、いい力だね。私にもあったらいいのにな……」
「残念。この力は私にのみ許された力……プロキシーの力をコピーするアイリスにだって真似できない。っと、アイリスのことなんて知らないよね」
「アイリス……それは、海影さんの世界でのアイリスのこと?」
「そうだけど……ああ、そっか。この世界にはこの世界で神が居るんだっけ。その中にアイリスってのが居るとか?」
「居たよ。もう死んじゃったけど。まあ戯言はここまでにして……このまま攻めさせてもらうよ!」
舞那は鉄扇を閉じると同時に光の刃を出現させ、対するカナンは別のページを開き新たなストーリーを読んだ。
そのストーリーの名は、アウェイクニング・ルーシェ。
『能力、闇!』
ルーシェの鎖鎌を装備したカナンは、アウェイクニング・ルーシェの能力である闇を発動。舞那の周囲を闇で包み、そのまま闇を収縮。闇の中に舞那を飲み込もうとした。
(これ……流石に盾でも防げないね……)
闇はある程度収縮した時点で急激に小さくなり、じきに消滅。そして闇が消えた後、カナンの視界から舞那は消えていた。
「……ふふ……く……っははははは! ようやく……ようやく1人殺せた! ようやく目障りなプレイヤーを殺せた! 私の! 私達の力で!」
舞那を殺せた。前に戦った瑠花よりも明らかに強い舞那を殺せた。舞那を殺せたということは、舞那よりも弱い他のプレイヤーはもっと簡単に殺せる。
もっと、殺したい。
もっと、プレイヤーを殺したい。
「メラーフ! あなたの送り込んだ刺客は死んだ! 闇に飲まれて、肉片さえ残らず!」
人を殺した快感に飲まれ、カナンは大声で高らかに笑う。メラーフがその様子を見ていないはずないが、メラーフはその場に現れることもなく、停止した町にはただひたすらカナンの声だけが響いた。
「死んだ……そんなこと、誰が言った?」
「っ!!」
耳元の囁きに鳥肌を立たせたカナンは、瞬間的に身の危険を感じ攻撃……ではなく回避体勢に移った。しかしカナンが1歩踏み出した時、カナンの上半身と下半身は分離。直後にへその少し上で切断された下半身は細かな肉片にされ、血液は霧状になった。
上半身だけになったカナンは地面に落下……するはずだったが、死んだはずの舞那がカナンの首を掴み落下を阻止した。
「なん、で、生ぎ、てるの……」
「……能力を幾つも持ってるのは海影さんだけじゃない、ってこと」
舞那は今、カナンの背後に立ち首を掴んでいる。故にカナンから舞那の姿を確認することはできない。故に、舞那の翼が生物的な翼から、空色に透き通ったガラスのように変化していることにも気付けなかった。
「言ったでしょ、私はもう誰にも負けないって」
使うことは無いと思われた光の翼を、舞那は発動していた。
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