第3章 空色の戦士、再び

色彩の少女達

#1 虹色の悪夢

 ――舞那……私、幸せだった。舞那のおかげで、私は変わることができた。ありがとう……これからは千夏と一緒に、舞那のこと見守ってるよ……。








 2018年12月28日。


「……っ、寒……」


 ベッドの上で目を覚ました時、心葵の目からは涙が流れていた。

 理由は分からない。ただ、内容は覚えていないが何か悲しい夢を見ていた気がする。恐らくはその夢の影響だろう。


(なんの夢だったんだろ……)


 流れ出た涙を手で拭い、枕元のスマートフォンを手に取り時刻を確認した。

 画面は10時丁度を表している。昨晩遅くまで起きていたため、起床は本来の予定より1時間遅れている。とは言え外出は昼。まだ時間は十分にある。


「起きた?」

「んー……おはよー」


 背後から聞こえる声に反応し、横向きに寝ていた心葵は寝返りをうった。


「おはよ。どしたの? 怖い夢でも見た?」


 声をかけたのは、同じベッドで眠っていた舞那。因みに心葵と舞那の間に千夏が眠っているため、ベッドの上には女子高生が3人いる。大きめのベッド且つ小柄な3人とは言え、さすがに狭い。しかし交際している3人にとってその狭さは寧ろ好都合。何せ狭いことを口実に、3人密着して寝られる。


「怖い……ってのは少し違う気がする。けどなんの夢だったか殆ど思い出せない。あー、でも、夢の中に舞那と千夏が出てきて、私は……千夏と一緒に舞那を見守ってた。もしかしたら、夢の中で死んだのかな?」


 心葵の言葉に、舞那は一瞬眉をピクリと動かした。


「……不思議な夢、だね。けど夢でしょ、心葵は今ここに居る。私も、千夏もここに居る」

「うん……さて、もう起きる?」

「だね。千夏、そろそろ起きて」


 舞那は布団の中で手を動かし、千夏の身体を揺らす。


「ん~……もう少し……」

「……だって。心葵どうする?」

「……でもこのまま布団の中に居たらもう起きれなさそうだから、起こそう」


 心葵は布団の中でモゾモゾと動き、千夏の身体をまさぐる。くびれ、胸、背中、脚、尻、頬を触れられ、徐々に千夏の顔は赤くなっていく。


「ほらほらぁ、早く起きないともっとしちゃうよぉ~」

「……もう、早く起こしなよ!」


 なかなか起こそうとしない心葵に焦れた舞那は、起床へと促すために唇越しで千夏の耳を甘噛みした。その瞬間千夏は「ひうっ」と可愛らしい声を上げ、身体をビクつかせた。

 さすがの千夏もこれ以上の狸寝入りは無理かと察し、観念して目を開けた。


「「おはよ」」

「起こすならもっと普通に起こしてくださいよ……おはようございます」


 千夏の発言に、心葵と舞那はふてぶてしい笑みを浮かべた。


 ◇◇◇


「変な夢?」


 公園で缶のホットコーヒーを飲みながら発した雪希の言葉に、缶のコーンポタージュを飲んでいた龍華は不思議そうな顔で反応した。


「うん……いい夢でも悪い夢でもないんだけど、何と言うか……変なの」

「どんな夢?」

「……私が、武器を持って怪物と戦う夢」

「っ!!」


 雪希曰くその夢は、1色の全身タイツを着たかのような怪物と戦うというもの。夢の中で雪希は刀を握り、自らの許容量を超えているであろう力を持っていた。現実離れした話で、且つそれはただの夢。いつもなら気にも止めないが、今日の夢だけはどうしても忘れられなかった。


「……その夢、私とかは出てきた?」

「似てる人は出てきたけど、髪型も髪色も違ってた。まあ、どうせ夢の話だし、本人かどうかなんて今更どうでもいいか」

「……そうそう。変な夢はさっさと忘れて、今は短い冬休みを堪能しなきゃ」


 龍華はコーンポタージュを飲み干し、公園内のゴミ箱に空き缶を投げ入れた。


 ◇◇◇


「え、理央さんと杏樹さんもですか?」


 冬休みという時間を利用し、撫子の家に遊びに来ていた理央と杏樹は、会話の中で「変な夢を見た」という話題を出した。直後に驚いたような顔を見せた撫子も、2人と同様に変な夢を見ていた。

 現在3人はマルチプレイのFPSに興じている。変な夢という共通の話題が出たが、3人はコントローラーを置くことなく、プレイと会話を並行して進めた。


「撫子も? どんな夢?」

「怪物……というか、人型の何かと戦ってました。夢の中で私は弓を持ってて……あとはよく覚えてませんね」

「怪物って、全身タイツみたいなやつ?」

「そ、そうです……まさか同じ夢を?」


 同じ夢を見た。その衝撃には理央も撫子もさすがにコントローラーを握る手は止まったが、ただ1人杏樹はプレイを続けていた。とは言え杏樹もそれなりに驚いているようで、プレイに若干支障が出ていた。


「一体なんなんだろ、あの夢……」

「……前世の記憶、とか?」

「「「…………」」」


 冗談のつもりであったが、杏樹の一言で室内は緊張と沈黙に包まれた。


 ◇◇◇


「さーおーりー!」


 待ち合わせ場所である噴水前で、日向子は先に到着していた沙織に勢いよく抱きついた。


「どした?」

「怖い夢見たから私を慰めて~」


 若干棒読みであったが、怖い夢を見たというのは本当のことである。抑揚の無さから普通なら嘘くさいと思うだろうが、沙織は日向子を引き剥がすことなく頭を撫でた。


「奇遇ね。私も嫌な夢見たんだけど、日向子の顔見て安心した」


 ◇◇◇


「……」


 自宅マンションのリビングから町を眺める瑠花。しかし、その表情は暗い。体調不良という訳ではなさそうだが、明らかに瑠花の身に何かが起きている。


「2回目……いや、3回の2018年か。折角戦いの無い世界で楽しく生きてたってのに……何で前の世界の記憶が戻ったのかな……」






 色絵町に住む極一部の女子高生に同時に起きた現象、謎の夢。

 彼女達が謎の夢を見たことを、この世界を見守る神であるメラーフはまだ知らない。

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