#66 8s Light
神亡き世界に戦いあり。
戦い終わりし時、第1の子は覚醒する。
第1の子覚醒し時、世は歪み狂う。
歪み狂いし時、隔ての壁砕ける。
「何書いてるの?」
「黙示録。私とカナンが歩むべき未来」
「黙示録……さしずめ、未来予想図ってとこ?」
「ううん。これは予想じゃない。私がこの空に書き記した時点で、それは予想から確定に変わる。もう誰にも変えられない、終わりの未来」
プロキシー"アラン"は指を空に向け、何かを書き記すかのように指を動かしていた。インクも出なければそもそもペンでもない、文字が書けなければ空は紙でもない。故に、誰もアランが書き記したものを読むことはできない。
「……なんて書いたの?」
「神がいない世界では戦いが起きる。その戦いが終わった時、第1のプロキシーが覚醒する。第1のプロキシーが覚醒した時、世界は歪み狂う。歪み狂った時、世界を隔てる見えない壁が砕ける」
「……ああ、そういうこと。なら安心した。だって、それなら私達2人で叶えられる」
「でしょ。バアルが死んで、残る未覚醒プロキシーはあと一体、しかも雑魚。けどセルカは覚醒したまま生きてるから、セーラかアイリスあたりに殺されれば、その時点で戦いは終わる」
プロキシー"セルカ"。最初に生まれた4体のプロキシーのうち1体。その力は先に生まれたアイリス、セーラにも引けを取らず、最強と謳われた4体のプロキシーの名に恥じない。
セルカは既にアクセサリーを手にしているが、戦いが始まり比較的早い段階で覚醒したため、プレイヤーは誰一人としてセルカが覚醒していることを知らない。
「戦いが終われば、いよいよ私達のストーリーが始まる」
「……ようやく、私達の夢が叶う」
◇◇◇
「え!? これで最後!?」
拠り所の声が聞こえた場所に向かう緤那は、ナイアの衝撃的な一言で驚愕した。
「うん……根拠は無いけど、この個体で最後……感じるの、もう彷徨ってるプロキシーがいないって」
「そう……もう終わりなんだね……」
直感、と言えるのかは分からないが、ナイア達プレイヤー側のプロキシーは、今現在出現している個体が最後の未覚醒の個体であると悟った。
バアルのように覚醒して未討伐の個体がいなければ、言わばこれは最後の戦い。喜ばしいことである。しかし緤那は自身がプレイヤーになってからの日々を思い、日課と化していた戦いが終わることに僅かながら寂しさを覚えた。
「まだ半年も経ってないのか……最初はいつになったら終わるんだろうって思ってたけど、終わりを前にすればこれまでのことが凄く短く感じられる」
「……これまでの戦い、嫌な思い出になった?」
「ううん……確かに辛いことはあったけど、プレイヤーになったから友達が増えた。楽しいこともいっぱいあった。プレイヤーになったこと、私は全然嫌じゃなかった」
もしもプロキシーがいなければ、今死んでいるはずの人間は死なずに済んだ。蓮も生きており、唯は戦いを知らず蓮と幸せに暮らしていた。そして恐らく、緤那は唯と出会わなかった。緤那と唯を引き合わせたのはプロキシー、故にプロキシーがいなければ、2人は引き合わなかった。
プロキシーがいなければ、エリザと光が分かり合うことはなかった。なぜなら2人は戦うことで互いを知り、戦いの中で光と愛歌が出会い、愛歌が居たから光はエリザと友達になろうとした。故にプロキシーがいなければ、2人は今もただのクラスメイトだった。
プロキシーがいなければ、愛歌と焔は出会わなかった。なぜならプレイヤー同士の交流を深めるためにプレイヤー達が綺羅家に集まり、偶然にも意気投合したことで愛歌と焔は恋人になれた。故にプロキシーがいなければ、2人は未だ出会っていない。
プロキシーがいたから、死なないでいい人達が死んだ。
プロキシーがいたから、出会わないはずの人々が出会った。
プロキシーという存在はさながら神の如く人々に禍福を与えた。誰も彼女達の存在意義を肯定も否定もできない程、起きるはずのない出会いと別れを起こした。
「……終わらせよう。終わらせて、もう
「分かってる……最後だからって油断はしない。確実に殺す……終わらせる!」
拠り所の声が聞こえた場所は、閑静な住宅街の隅にある広い空き地。周りの家に住んでいるのは殆ど老人。しかも今日は町内会の会合があるため殆どが留守。空き家も多く、人通りも極めて少ない。戦うには最適な場所だった。
そんな空き地の中心に、鈍くも艶のある灰色の髪を靡かせる長身の女性が1人。まるで近未来からやって来たかのような奇抜で先進的な服を着ており、且つ右手で深紅の銃を握っている。緤那はすぐにその女性がプロキシーであると察した。
「ナイア、あのプロキシーは?」
「……セルカ。確か能力は……未来予知、だったかな」
「未来予知……って、あれ見て!」
セルカのすぐ近くに、拠り所と思われるスーツ姿の女性と、妙に露出の多い服を着た緑髪の少女が転がっている。そして、緑髪の少女の真横には、アクセサリーと思われる盾が落ちている。
「あれ……もしかしてプロキシー?」
「……セルカ!」
ナイアの呼び掛けに、セルカはようやく緤那とナイアの存在に気付いた。
「ナイアか……久しぶりだな」
「セルカ、そこに転がってるの……一体誰?」
「……ああ、1人はプロキシー、もう1人はその拠り所。ナイアはこのプロキシーが覚醒時に発した波動を辿ってここに来たんだろう?」
「殺したの?」
「拠り所は死んでないけど、このプロキシーは殺した……正確には死ぬ寸前でまだ生きてるけど。私が統べるべく世界に、私以外のプロキシーは必要ないから。ナイアも感じてると思うけど、私とあんた達人間側を除けば、プロキシーはこれで最後。もう私達以外には居ない。後はあんた達を殺せば、私は唯一神になれる」
世界の管理をしていた頃のセルカは、人間を愛し、人間に悪意を与えたとされるクピドの思想には共感しなかった。故に、未だにプロキシーが人を殺す意味を理解できない。
しかしセルカは人間を愛する代わりに、プロキシーを愛さない。各々が力を使い、世界に事象を起こしていたが、時折プロキシーが存在する理由を考えた。本当にこの世界にプロキシーは必要なのだろうか。プロキシーが居なくともこの世界は動くのではないのか。プロキシーが事象を起こさなくとも、人間達は自分達で考え自分達で未来を決められるのでは無いのかと。そんなことを思っている時に、クピドが戦いの火種となる出来事を起こした。
アクセサリーの中に封印されてからもずっと考えていた。プロキシーは要らない。この世界に不要だと。そしてティアマトとクロノスが死に、アクセサリーから分離し、拠り所を使い実体を手に入れた時、セルカは決意した。全てのプロキシーを殺し、神のいないこの世界を自分1人で見守ると。
「だから……大人しく殺されてくれない?」
「……嫌だね!」
ナイアの返答と同時に、緤那はアクセサリーを脚に装備した。
「「変身!」」
黒いライティクルが緤那とナイアを包み、光の中で2人の身体は融合する。
ナイアの中に宿っていたティアマトの力は唯に移ったため、今のナイアはアメイジング・プロキシーではない。全体的なステータスも元に戻り、能力も破壊から加速に戻っている。アメイジング・ナイアであれば、クリムゾンフィストで勝てていたかもしれない。しかし今の力では、恐らく否間違いなく苦戦する。
それでも緤那とナイアの中に敗北のイメージは無い。なぜなら緤那は1人で戦っている訳では無い。
「お待たせ緤那!」
「くぅ、一番乗りならず」
「焔、愛歌……」
「お、揃ってる揃ってる」
「やっぱ来るよね、最後だもん」
「吹雪、唯も……」
「私も忘れんでくださいよ」
「私達も来たよ」
「光ちゃん、エリザちゃん……!」
「プロキシー1人に対してこの人数……ちょっと心が痛みますけど、戦うことで結果的に緤那さんと生きられるなら仕方ないですね」
「文乃……」
「はい、文乃です。最近戦ってなかったので足でまといになるかもしれませんが、私も一緒に……緤那さんと一緒に戦います」
空き地に集まるプレイヤー達。これが最後の戦いだと知り、各々が戦いを終わらせようとこの場に赴いた。
セルカ1人に対し8人のプレイヤー。状況だけ見ればセルカは劣勢必至。しかしセルカの顔色に変化は無く、寧ろ殺すべきプロキシーの殆どがこの場に集まったことで手間が省けたと考えている。
「8対1……面白い、受けて立とう」
「行くよサーティア、変身」
「準備はいいよね、セーラ! 変身!」
「本気で行くよアビィ! 変身!」
「アスタ、行くよ……変身」
「やるよルーシェ、変身!」
「終わらせよう、アイリス……変身」
「セト……もう私は負けない。もうこれ以上セトを傷つけさせない。だからもう一度、私に力を貸して……変身!」
空気を凍てつかせるような青い光。
全てを消し去るような白い光。
網膜を焼くような赤い光。
花のように美しい紫と赤の光。
見たものを引き込むような漆黒と青の光。
全てを包み込むような空色の光。
吹き荒ぶ風のように激しく美しい緑の光。
7つの光。セルカでさえ思わず目を覆う程の眩い光。その光の中から姿を現す色鮮やかな7人のプレイヤー。
「来なよ、全員まとめて相手してあげるからさ」
「言われなくてもそうするつもり……セルカ! あんたがどんな未来を予想しても、私達はそれを超える……戦いを終わらせて、私達全員が生き残る!」
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