#67 Prediction
「……残念だけど、君達が勝つ可能性はゼロに等しい。君達が1人の力じゃないように、私も1人の力じゃないから」
8人のプレイヤーを前にして、セルカは未だに焦りを見せず冷静さを保っている。理由は単純、並び立つ8人に勝つ自信があるのだ。
生まれつきスペックが高いため、そもそもナイアやセトに負ける気は無い。
ティアマトの力で進化したアメイジング・アスタ、クロノスの力で進化したアウェイクニング・ルーシェがどれだけの戦闘力を持っているのかは知らない。しかし進化したとは言えプロキシーという枠は越えられないため、死ぬかもしれないという心配は無い。
問題なのはセーラとアイリス。セルカよりも先に生まれ、セルカの「未来予知」という能力にも匹敵する強力な能力を持っている。
それでもセルカは勝つ気でいる。勝てる自信がある。
「ナイア、何で私がこのプロキシーを敢えてトドメを刺さずに生かしてるか……分かる?」
「……?」
無論、ナイアだけでなく緤那も、それ以外の面々も、セルカの問いに対する正しい回答は出せなかった。
「正解は……」
セルカは瀕死のプロキシーに歩み寄り、プロキシーの近くに落ちていた盾を拾い上げた。そしてセルカは拾った盾をアクセサリーの状態へと変化させ、自らの服のポケットにしまいこんだ。
「こいつのアクセサリーを私が奪うため、でした」
「……は?」
一瞬、セルカの言った意味が分からなかった。
プロキシーとアクセサリーは一対。アクセサリーを手に入れることで、プロキシーは身体と能力を取り戻す。故にプロキシーが死ねば、そのプロキシーが所持していたアクセサリーは消滅する。
しかし身体を取り戻せば、仮にアクセサリーが壊れてもプロキシーが消えることはない。なぜなら、アクセサリーの中に取り込まれた身体のデータは全て移行するからだ。とは言え、あくまでも移行するのは身体のみであり、能力はアクセサリーの中に残留している。故にアクセサリーが破壊された時点で、そのプロキシーは能力を発動できなくなる。
「……まさか、使えるの!? 自分以外の個体の能力を!?」
「……使えなきゃ、わざわざプロキシー殺してアクセサリーなんか奪っちゃいないよ」
ナイア達の"プロキシーの使用する能力とアクセサリーの関係性"についての知識は根本から間違っていた。
これまでは、プロキシーは自らが生まれ持った能力しか使用できず、仮に敵のアクセサリーを奪ったところで敵の能力は発動できないと思っていた。しかし実際には、アクセサリーの所有権が敵から自分に移った時点で、元の持ち主の能力を使用できるようになる。
所有権が移動する条件として、敵プロキシーに勝利しなければならない。そして敵のアクセサリーを奪った後、敵プロキシーを殺す。敵プロキシーが死んだ時点で、アクセサリーの所有権を得られる。そのため敵プロキシーが死んだとしても、所有権が移動したアクセサリーは消滅せず、新たな所有者の手にそのまま残り続ける。
アクセサリーの所有権移行による、新たなアクセサリー及び能力の取得。ナイアどころかセーラやアイリスすらも知らない事であったため、セルカ以外のプロキシーでアクセサリー複数持ちは一人もいない。
「今の私は未来を予知するだけじゃない。いろんな力が使える。果たして、君達は私に勝てるかな?」
「……さあね……けど、負けはしない!」
緤那は能力の加速を発動し、地面を蹴り上昇。同時に文乃は能力の風を発動し、追い風を発生させ擬似的に加速。
「アクセラレーションスマッシュ!」
緤那はスキルを発動し、セルカに向かいさらに加速。しかしセルカは先程奪ったアクセサリーを盾へと変化させ、寸前でアクセラレーションスマッシュを防御。
並のプロキシーであれば防御してもナイアのスピードに押し負け、そのまま後方に吹き飛ぶ。だがセーラやアイリスと肩を並べる存在だけあり、数歩分程度後ろによろめいただけだった。
「ストームブレイク!」
セルカがよろめき、反撃の体勢がとれなくなった瞬間を狙い、緤那に続き文乃がスキルを発動。身体を回転させながらくりだした蹴りはセルカの首を折り、頭蓋骨を破壊し脳を損傷させた。
「っていう未来か……なら変えられる」
緤那がアクセラレーションスマッシュを放ち、セルカがそれを防御し、直後にストームブレイクで頭部を壊される。それらは全て、セルカの能力"未来予知"が描き出した未来。実際には頭部を壊される以前に、そもそも緤那はまだ加速すらしていない。
そしてその未来を予知したセルカは、自らの頭部が破壊される未来を回避する行動に出た。それと同時に、予知の通りに緤那と文乃は加速した。
「能力発動、分身」
セルカは隠しポケットから斧のアクセサリーを取り出し、そのアクセサリーに宿る能力である分身を発動した。この能力はその名の通り、使用者の分身を生み出す。分身はオリジナルと同じステータスとアクセサリーを持っているが、分身を維持できるのは30秒程度。1度分身が消えれば、その後30秒間は分身を発動できないという欠点を抱えている。
分身が生まれたことよりも、分身が斧を持っていることに危険を感じた文乃は、咄嗟に自らの前に向かい風を吹かせ急停止。
オリジナルのセルカは盾ではなく斧を構え、アクセラレーションスマッシュを発動した緤那を待ち受ける。無論、空中で加速してしまえば進路変更も極めて困難。もしこのまま緤那が突っ込めば、斧が緤那の身体を切断してしまう。
「っ!!」
接触直前、セルカの手首ごと光が生成した闇に飲み込まれるという未来を予知。その予知を回避すべく、セルカは後方へと回避。これによりアクセラレーションスマッシュも闇も不発に終わったが、同時にセルカが緤那達を攻撃することもできなかった。
「私の闇、絶対避けられんと思ったのに……未来予知っての、かなり厄介みたいですね」
「それに、別個体の能力使えるってのは本当みたいだね……」
「なら、別個体の能力も未来予知も使えんくらいに攻撃浴びせたらいいんやない?」
「雑な考えね。もし同時攻撃が避けられたら、私達がお互いに能力をぶつけ合う可能性だってある……けど、今はその雑な考えに乗ってあげる! 私達も行くよ、吹雪!」
仲間同時による能力の誤爆。それを避けるため、8人全員での攻撃はしない。後方が出れば、最前線は下がる。緤那達は無意識にローテーションという戦法をとっていた。
後方より唯と吹雪が乱入し、緤那と文乃は後方に下がった。そして同時に、セルカは唯と吹雪が加わることで起きる未来を予知。しかし予知したのは回避する必要が無い優勢の未来だったため、セルカは予知通りに行動した。
「エフェメラフロースは使わんといてよ! あいつ倒せても唯が出血多量で死んだら嫌だから!」
吹雪はセルカに殺されることよりも、唯がエフェメラフロースの副作用である出血で死んでしまうことを恐れている。エフェメラフロースは、1度敵を拘束すればほぼ確実に殺せる程強力。しかし1度体外に排出した血液は体内に戻らないため、仮にエフェメラフロースでセルカを殺せたとしても唯が死ぬ可能性がある。唯が死ぬ未来は、吹雪だけでなく緤那達も望んでいない。
「多分使わない。だって、使って死んだら蓮に怒られちゃうから。それに……エフェメラフロースだけが私の力じゃない!」
唯は能力の腐敗を発動した状態でセルカに攻撃する。唯の攻撃が当たらぬよう、吹雪は中距離から能力の炎で攻撃をしている。しかし近距離の攻撃も中距離の攻撃もセルカは軽々と回避し、唯と吹雪を消耗させる。
「近距離も中距離もダメ……けど、遠距離ならどうかな!」
焔の声だった。セルカがその声に気付いた時、既に焔は能力の冷気を発動させていた。地面を伝う強力な冷気を放ち、冷気はセルカの足を凍らせた。唯と吹雪が陽動し、焔がセルカの隙を突いた。そしてセルカが足の凍結に驚いた瞬間、吹雪は走りながらジャンプ、スキルを発動した。
「キッキングブレイズ!」
「能力発動、増強」
炎を纏った足がセルカに触れるよりも前に、セルカは再び隠しポケットからアクセサリーを取り出し能力を発動。直後、能力により増強された脚力で氷を砕き、さらに新たなアクセサリーの能力を発動。
「土!」
発動した能力は土。セルカは能力で自らの脚に土を纏わせ、向かってくる吹雪の蹴りに自らの蹴りをぶつける。
「うぐっ!!」
増強した筋肉による蹴りの威力はキッキングブレイズの威力を超えており、吹雪の攻撃は身体ごと跳ね返された。
跳ね返された吹雪は加速した緤那に救出され、地面に激突することは無かった。しかし蹴りと蹴りがぶつかった際、威力の違いから吹雪の脚は損傷。折れてはいないが、骨にヒビが入った。
「思ったよりやるみたいだけど、君達じゃやはり勝てない。そろそろ出てきたらどうだい? セーラ、アイリス……2人となら、もう少し楽しめそうだ」
指名を受けた愛歌とエリザはセルカに向かい歩き始め、最前線にいた唯と吹雪(を抱えた緤那)は後退。
「私達と戦って……楽しめるの?」
「楽しみを感じる前に死んじゃうかもよ」
強気な愛歌とエリザだが、その発言に対しセルカは鼻で笑った。
「悪いけど、私はそう簡単に死なない……さあ、来なよ!」
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