#52 Friend
エリザと光。ミケルの前後に立つ2人を形容するならば、共存する青空と夜空。
作戦は立てていない。しかしエリザは光の思考を察し、ミケルに勝利できるであろう方法に脳内で辿り着いた。
「ふぅー……はあっ!!」
先に動いたのはエリザ。
エリザは光の刃を振り、再度ミケルへと攻撃する。
「無駄なことを!」
ミケルは光の刃を盾で防御し、盾から光の刃による攻撃を反射させた。しかし反射してエリザに向かうべき光の刃は、突如目の前に現れた闇の塊に吸収、消滅した。
(アイツの能力か!)
闇の塊は、光が発動したルーシェの能力。昨日もこの闇を駆使して、その後は苦戦を強いることなくプロキシーを駆除した。
攻撃を飲み込んだ闇の出処を突き止めたミケル。しかし突き止めたからと言って、ミケルには正直どうすることもできない。それを理解しつつも、ミケルは能力を発動したまま戦闘態勢を維持する。
(すごい……光の力があれば、光と一緒なら、もう……負ける気がしない!)
エリザが攻撃し、反射したダメージを光が飲み込む。何の打ち合わせもしていないにも関わらず、2人は見事なコンビネーションを披露する。
「てやっ!」
エリザの後ろ回し蹴りがミケルの胸部に直撃。ミケルは久しぶりに受けたダメージに鳥肌を立たせたが、直後に後ろ回し蹴りのダメージを反射させる。
しかし反射したダメージは再び闇の塊に吸収された。
その後もエリザの攻撃は続き、反射したダメージは消滅。優劣は完全に逆転し、ミケルは徐々に近付いてくる自らの死を恐れた。
(こんなとこで死ぬの? いや、そもそも2対1ってのが卑怯なのよ。こんなの……勝てるわけないじゃない)
死にたくない。負けたくない。とは言え戦っても勝てない。その思いが戦場に立つミケルの思考に干渉し、この場を切り抜けられるかもしれない唯一の方法を見つけた。
それは、戦場からの逃走。戦う者としては恥ずべき行為に見えるが、逃げるが勝ちとも言う。
プロキシー同士の戦いにおいて、敗北は死を意味する。逆に考えれば、死ななければ敗北ではない。即ち、逃げてもそれは敗北ではない。このような思考に至る程、ミケルは生きようと必死になっているのだ。
(もう……嫌だ!)
ミケルはエリザの攻撃を回避し、避けた方向にそのまま走った。
「逃がすか!」
光は自らの影から生成した闇の塊をミケルの進行方向に移動させ、瞬時に闇を延長させることで逃走するミケルを囲う。闇に触れたものが消滅するところを見ていたミケルは逃走を中断し、両足を震わせながら立ち尽くす。
「エリザ!」
「オーケー!」
光は闇に囲まれたミケルへと走り、エリザも続いてミケルの方へと走る。そのことに気付かず、ミケルは闇の中で震えている。
エリザはミケルの前で、光はミケルの後で停止し、2人は同時にアクセサリーへとライティクルをさせた。
(私の力はもう影やない……なら!)
光は身体を右回転させながら飛び、右脚にもライティクルを集約させる。そしてミケルを囲う闇の壁は徐々に薄れ、気付けば闇は光の右脚を覆っていた。
「キッキング……ダークネス!!」
光の新たなスキル。名はキッキングダークネス。
能力や物体を飲み込む闇を脚に集約させることで、飛び蹴りの際に対象の触れた箇所を消滅させる。
光の脚はミケルの腹部を貫き、ミケルの身体は蹴られた箇所から分裂。断面から血液と内臓が溢れる。
「
残った上半身が重力に引かれ、地面に落下していく。
「いや……死ぬ!」
しかし地面を目の前にして、ミケルの上半身はエリザが使用した光の刃で縦に2分割された。
キッキングダークネスは、触れた箇所から徐々に影と融合させるキッキングシャドーとは違い、触れた箇所のみを触れた瞬間に消失させる。故に触れられていない箇所は消えない。
それを知ってか知らずか、エリザは残った上半身を確実に狙っていた。そして狙いは的中し、ミケルを完全に殺せた。
必要最低限の言葉しか交わさない。互いの能力も満足に理解していない。にも関わらず、エリザと光は阿形と吽形のように驚く程息の合った戦いをした。
2人はこの時、同じことを考えた。自分達は2人で戦うため、2人で生きるために出会った。2人が出会うことは既に決まっていたのだと。
「私1人じゃ勝てない敵も、光がいれば勝てる」
「私1人やったら勝てん敵も、エリザがおったら勝てる」
心の声ではなかった。2人はそれぞれの思いを脳内ではなく、声帯を通して確実に声に出した。
互いの声を聞き、2人は変身を解除。消え行くミケルの死体の目の前で向き合った。
「……今まで、沢山酷いこと言って、ごめん……今更謝ったところで許されるとは思ってない。けど、もしこんな私のお願いを聞いてくれるなら……」
光が何を言うのか。今のエリザはハッキリと理解できた。寧ろ頬を赤く染めて恥ずかしげに話す光が露骨すぎたのかもしれない。
「私も、酷いこと言っちゃった……けどこれでお相子。これからはただのクラスメイトじゃない、唯一無二の友達になろう……!」
今まで光は、エリザの笑顔が嫌いだった。
しかし今は違う。嫌っていたはずのその笑顔は、過去幾度となく見てきた笑顔の中でも一番輝いて見えた。
「唯一無二の友達……いいかもね」
「でしょ」
空を覆っていた薄い雲は晴れ、1月末の太陽の光が街に降り注いだ。
「さて、じゃあ私ん家行こ! 光とは色々話したいことあるから!」
「いいけど、その前に……」
「ん?」
「愛歌さん……綺羅家に行かないと」
綺羅家には光の私物が保管されている。加えて愛歌に会い、エリザと友人になれたことを報告しなければならない。
「それなら大丈夫。そこ、私の家だから」
「ええ!?」
無論驚く。しかし愛歌がエリザの名を出したこと、エリザと親しい関係にあると思わせる発言をしたことを思い出し、ほんの数秒で光は納得した。
「ほら、行こ!」
「愛歌お嬢さん、エリザお嬢さんと光さんが戻られましたよ」
家政婦皆川の報告を受け、リビングで紅茶を飲んでいた愛歌は微笑んだ。
(光ちゃん、上手くいったんだ……)
愛歌はティーカップをテーブルに置き、リビングから出た後にエリザと光が通るであろう廊下を駆ける。
玄関を抜けてすぐのところに、エリザと光は並んで立っていた。
愛歌の姿を見たエリザと光も、2人の姿を見た愛歌も、一切の邪念が無い笑顔を見せる。
「おかえり!」
愛歌は2人を抱きしめ、関係が修復、改善されたことを心から喜んだ。
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