#51 Reflection

 光が綺羅家で寝ている間、エリザは緤那の家に泊まることにしていた。光に合わせる顔が無いとのこと。

 あの日、光に「友達になろうと努力するのをやめる」と、「悲劇のヒロイン気取るのやめなよ」と言ったのはエリザ。しかし光よりもエリザ本人の方が落ち込んでいる。

 そして今日、以前から緤那は文乃と会う約束をしていた。緤那と文乃は約束をキャンセルしかけたが、エリザが「そろそろ帰るから、約束は破らないで」と2人に言い、緤那と文乃は予定通り隣の市にあるショッピングモールに向かった。

 エリザは宣言通り帰路につくが、その足取りは重い。

 自らの軽率な発言により、光は闇に飲まれてしまった。エリザは自責の念に押しつぶされそうになっている。

 悲劇のヒロインを気取っている。そんなことあるわけがない。にも関わらずエリザは、本心でもない罵倒を浴びせてしまった。



 絶対に嫌われた。

 嫌われたくなかった人に嫌われた。

 また私は後悔してる。

 もう後悔したくないって何度も思ってきたのに。



 エリザの中にも、光に負けず劣らずの闇が蓄積されていく。しかしその思考を妨げるように、プロキシーの拠り所となった人間の声が聞こえた。


(……こんな気分で戦って、勝てるかな?)


 珍しく弱気なエリザの声を聞き、エリザの内側に居るアイリスは呆れたようなため息を吐く。


(大丈夫。私とエリザは誰にも負けない。けどできれば、立ち直ってくれた方が嬉しいな)

(……立ち直るのは、まだ先になりそう。だけど、アイリスの力……信じてるから)


 エリザはプロキシーが出現した場所へと走る。声の聞こえたのは比較的近所であるため、恐らく早期に発見できる。そんなことを考えながら走っていると、露骨に怪しい成人女性を発見した。

 女性は手にライティクルを集約させており、どこからか飛んできたアクセサリーを掴んだ。

 直後、女性は立つ力を失いその場に倒れ、女性の身体からプロキシー"ミケル"が分離した。


「アイリス、あのプロキシー知ってる?」


 エリザの質問に回答するよりも前に、アイリスはエリザの身体から分離した。


「いや、知らない。けど言ったでしょ……私達は負けない」


 エリザはアクセサリーを掴み、鉄扇へと変化させる。


「「変身!」」


 エリザの身体を空色の光が包み、光の中でエリザとアイリスは融合。

 融合の瞬間を目撃していたミケルは状況を察し、自らのアクセサリーである盾に白いライティクルを集約させた。


(本当は時間飛躍を使いたいけど……普通に戦う!)


 コピーした能力の1つ、時間飛躍。この能力は強力であり、度々色彩反転と合わせて使用する。

 しかしこの能力は、時間に干渉するためそれだけ負担も大きい。加えてここ数日で複数回使用しているため、その負担は蓄積している。

 仮に使ったところで命に別状は無いが、恐らく暫くは戦えない程疲弊するだろう。エリザは疲弊を避け、比較的負担の少ない能力で戦うことにした。

 発動したのは"刃"。鉄扇の先端から光の刃を出現させ、ミケルの能力や動きに警戒しつつ攻撃をする。


「はあっ!」

「単純な攻撃……」


 ミケルは光の刃を盾で防御し、直後に自身の能力を発動した。


「けど、能力自体はいいわね」


 突如、ミケルの盾から光の刃が出現し、エリザに向かって延長する。

 エリザは回避するため咄嗟に身体を捻るが、刃はエリザの頬と髪を少し切った。


「今のは……ねえ! あなたの能力って何?」

「普通敵に聞く? まあどうせ私が生き残るんだし別にいいけど……私の能力は"反射"。名の通り、受けた相手の攻撃を反射させる」


 ミケルの盾は光の刃を防御し、光の刃を反射させた。仮に先程の攻撃が、光の刃ではなく鉄扇本体による攻撃であれば、盾は鉄扇本体の攻撃を反射していた。

 相手の能力に干渉する能力は存在するが、能力の有無に関わらず相手の攻撃を全て反射するこの能力は、プロキシー全体で見ても比較的珍しい。

 仮に盾以外の場所を狙っても、攻撃は反射してしまう。即ち、ミケルに隙は無い。

 しかしこの能力には弱点がある。それは、攻撃を受けなければ反射できないという点である。とは言え、攻撃しなければ一向に勝負はつかない。


(どうすれば勝てる……)


 勝つ方法はある。それは、緤那のクリムゾンフィストで能力を破壊することである。仮に今戦っているのが緤那であれば、ミケルに反射の隙を与えることなく殺せている。

 しかしエリザはクリムゾンフィストをコピーしていない。否、できなかった。

 以前エリザは使える能力を増やすため、変身状態の緤那達に触れた。しかし緤那だけはコピーできなかった。これは仮説であるが、ナイアの中にあるティアマトの力がエリザの干渉を拒んでいるのかもしれない。

 仮にクリムゾンフィストをコピーできていれば、とっくにエリザは勝利している。


(どうする……どうすれば……!)


 勝つ方法を模索するエリザは微動だにせず、ミケルは攻撃をしてこないエリザを殺すため歩み寄る。

 硬直するエリザに対し、ミケルはエリザ……否、アイリスを殺せる喜びを感じている。


(エリザ! 逃げて!)


 ルーシェの警告すら聞こえていないエリザの首に、ミケルの手はゆっくりと近付いていく。




「そこまでや!」


 1度言ってみたかった、ヒーロー的セリフ。言う機会など無いと思っていたが、機会に出会ったため恥ずかしがることなく堂々と言えた。


「っ!!」

「珍しく顔色悪いやん……エリザ!」


 タイミング良く駆けつけたのは光だった。綺羅家を出る直前まで泣いていたため、光の目は若干腫れている。

 光が来てくれた。光が起きた。それ以上に、光が名前で呼んでくれた。そのことが嬉しすぎて、エリザは思わず涙を流してしまった。


(加勢か……だったら先に殺す!)


 ミケルはエリザから離れ、変身していない状態の光へと急加速した。走るスピードは意外にも速く、ナイアには及ばないものの他のプロキシーは軽く凌駕している。


「変身!」


 叫ぶと同時に、光身体は黒と青のライティクルに包まれる。

 その青いライティクルを見た時、ミケルはとてつもない恐怖を感じて急ブレーキ。2メートル程距離を空け、ミケルは反射を発動。光からの攻撃を警戒した。

 ライティクルは弾け、光はルーシェと融合していた。黒と青のドレスは、前回変身時よりも僅かに色が濃くなっている。


「……光、変身して大丈夫なの?」


 昨日変身した時には、光は闇に飲まれて自制心を失った。その際にエリザは、光から放たれる悪意や恐怖を感じ取っていた。

 しかし今の光からは、悪意や恐怖といった負の感情は感じられない。

 エリザは直感した。光は自分の力を制御していると。


「……もう私は自分の力に負けない。ルーシェの纏う闇も、自分自身の闇も受け入れた。今の私は、昨日までの私やない!」


 過去、これほどスッキリした表情の光を見たことがない。光は闇を受け入れた。その発言を受け、エリザは思わず笑みを浮かべた。


「エリザ、こいつの能力は?」

「攻撃を反射する、すごく厄介な能力……」

「エリザだけじゃ勝てない?」

「勝てない」

「……なら!」


 光は鎖鎌を構え、それに応じエリザも鉄扇を構える。


「2人で勝つ!」


 初めてエリザとの共闘、勝利を宣言した。

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