#47 Concern
エリザと最後に言葉を交わしてから数日が経つ。あれ以降、光の中では煮え切らない感情が渦巻いている。そしてあの日、エリザが言い放った言葉は、トラウマとして光の脳内を駆け巡っている。
悲劇のヒロイン気取るの、もうやめなよ。
光は悲劇のヒロインを気取っている訳では無い。それでも完全には否定できない。
友人ができず、クラスメイトから迫害される自分に不満を抱きながらも、光はそんな自分を"本当の自分"として確立していたのかもしれない。
「あいつ……何があったんやろ……」
今までこんなことを考えたことは無い。しかしあの日以降、光はずっと気になっていた。
エリザの過去を知るクラスメイトは恐らく居ない。それは分かっている。そして知る方法も、本人に聞く以外には無い。
何があったのだろうか。なぜあそこまで固執してきたのだろうか。なぜ、なぜ、なぜ。
ここまで他人のことが気になったのは、恐らく光の人生の中でも初。それ程エリザの豹変と発言は光に影響を与えた。
(なんでこんなに気になるんやろ……)
友達になるための努力をやめる。エリザが最後に言った言葉は、寧ろ光の気持ちを混濁させた。
(なんで、こんなに寂しいんやろ……)
これまで幾度と無く感じてきた寂しさだが、エリザが接触をやめてから感じている寂しさはこれまで以上。
今までの光だったら考えなった。否、認めたくなかったことも、今の光は素直に認められた。
エリザのことをもっと知りたいと。
(アニメ見て落ち着こ……)
光はスマートフォンにイヤホンを挿し、月額料金でアニメ見放題のアプリを開いた。
幾つもあるアニメの中から選んだのは「ラブライブ!」。見ているだけで自然と心が休まる、光曰く神アニメである。
(……面白いはずやのに……なんか集中できんな)
飽きた訳では無い。寧ろ飽きるはずがない。にも関わらず、光はなぜか視聴に集中できない。
(……買い物にでも行こ……)
◇◇◇
気分転換を求めた結果行き着いたのは、アニメショップみもざ。緤那や綺羅姉妹同様、光もこの店の常連であり、店主の美萌沙も光のことを常連と認識している。
「お、光ちゃん久しぶり」
光が店内に入れば、レジ横の机でプラモデルを作っていた美萌沙が挨拶をした。現在美萌沙が作っているのは展示用であり、決して私用目的ではない。
「お久しぶりです。買うかどうかは別として、いろいろ見させてもらいますね」
「いいよー。私ガンプラ作ってるから、何かあったら声かけてね」
光は軽く会釈した後、店の奥に進んで行った。
店頭には相変わらずアニメ関連のグッズが並び、見ているだけで楽しくなる。
中でも特に目を引くのは、展示用プラモデルで作られたジオラマ。ロボットだけではなく美少女プラモなども混ざっており、こちらも見るだけで楽しめる。
店内にはアニメ、特撮関連の曲が絶え間なく流れ続け、時折マニアックすぎて知名度が心配な曲も流れる。
「んー……美萌沙さん、旧キットってここにあるだけですか?」
「ん? あぁ……あんまり売れなくてね。もし欲しいのあれば取り寄せられるよ。ネットとかで買うより安いけど」
「じゃあお願いします」
「あいよ。にしても、旧キットなんて興味あったの?」
取り寄せ用の伝票を用意しながら質問をする美萌沙。
「最近興味湧いたんです。旧キットやったら塗装次第で独創的なものが作れるって知って、本編カラーじゃなくてオリジナルカラーで作りたいなーって思ったんです」
「なるほどね……筆とか塗料は?」
「入荷できたらそん時に一緒に買います」
「あいよ。んじゃあここに名前と電話番号お願い」
伝票の記名欄を指さしながら、美萌沙はボールペンを手渡した。
「何取り寄せする?」
「マックスターと、ドラゴンと、ローズと、ボルトと、シュピーゲルと、ライジングと、デビルをお願いします」
注文内容を聞いた美萌沙は、最近光がハマっているであろう作品を察した。
「ゴッドとかマスターとかは?」
「シャイニングとゴッドとマスター、あとノーベルは現行のキットで制作済みです」
伝票を書きながらの二人の会話は、恐らく興味の無い人間にとっては理解し難い話なのだろう。
「……よし、じゃあ取り寄せできたら電話するから、また来てね」
「ありがとうございます」
まだ注文した段階で発注すらしていないのだが、光は満足気な表情で店を出た。
(……ものを作るのってそんなに楽しいの?)
ガンプラを複数同時に注文した喜びが伝わり、何かを作る楽しみという概念を知ったルーシェ。しかし知ったとは言ったものの、ルーシェ自身はその楽しみを理解できていない。
世界を作ったのは原初の神。その後現れたプロキシーの数体は、今後の人類史に残す何かを創った。とは言えそのプロキシー達は、何かを作る楽しさを感じていない。
神やプロキシーでさえも持たない楽しみを人間が持っている。
序列で言えば人間以上の存在であるプロキシーは、自分達が持たず人間がそれを持つことに疑問を抱く。無論ルーシェもそうである。
(楽しいよ。作りたいものをイメージして、徐々にそのイメージに近付けていって、時間をかけてイメージを具現化する。勿論、途中で失敗することもあるけど、それを教訓として、また新しいものを作りたくなる)
(……分かんない。地道にコツコツやってたら頭痛くなりそう)
(そりゃあ人によってはそうやけど……折角"創造力"と"想像力"を持って生まれたんやから、何か作らんと損やろ?)
光は、自分達人間が持つはずの創造力と想像力の捌け口として、プラモデルを作っている。
光だけではない。 幾つも存在する職業。その誰もが、何かを作り上げたいという感情を持っている。
漫画家は、雑誌に載り毎週毎月見知らぬ読者を楽しませるような漫画を。
小説家は、文学やライトノベルを問わず文字だけで自分の世界を表した小説を。
脚本家は、誰もが目を引く衝撃的なドラマや映画を。
俳優は、脚本に沿い視聴者や観客を楽しませる自分達の演技を。
画家は、見た人の心を掴むような独創的且つ芸術的な絵を。
自動車や自転車のメーカーは、誰もが安心して乗れるような高性能且つデザインも重視した車体を。
玩具メーカーは、子供から大人にかけて満足できる様々な玩具を。
音楽家は、誰かを幸せにしたり誰かの人生を変えるような人間に寄り添えるような楽曲を。
お笑い芸人は、テレビの前の子供達や大人達を爆笑させられる自分達にしかできない漫才やコントを。
人は、限りある人生をどのように彩るかを模索している。
それが例え文献や物として残らない、自らの記憶の中にある小さな1ページであるとしても、人は何かを作ろうとする。
(……人間のこと、今まで何度も不思議だなって思ってきた。けどここまで不思議で面白いなって思ったのは初めてだよ)
(なんか馬鹿にされとる気ぃするんだけど?)
(そんなことないよ。何考えてるか分からない……まるで新種の小動物でも愛でてる気分)
(絶対に馬鹿にしとる……)
露骨に不機嫌な表情になった光だが、ルーシェは光が不機嫌になった理由にまだ気付いていない。
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