#44 Sorrow
部屋を出たエリザは、クラスメイトの優子に電話をかけた。
「優子? ちょっと聞きたいことあるんだけど、今大丈夫?」
『大丈夫だよ。どうしたの?』
「優子って高山さんと同じ小学校なんだよね。家知ってたりする?」
『知ってるけど……行くの?』
「行く。だから教えて」
電話越しのエリザの声は真剣そのものだった。
関係が劣悪であることを知っているにも関わらず、諦めずに友人になろうとするエリザの意思は固い。最早第三者が介入して2人の絶縁を図るのは無謀かと考えた優子は、呆れたかのように息を吐きながら光の家の場所を教えた。
「……多分、行ったところで関係は良くならないよ。それでも行くの?」
「2人きりで話せば分かってくれる。それが今日じゃなくても、仮に1年後の話でも、私は諦めずに何度も話しかける」
電話越しであることは事実。しかしエリザの声は、まるで目の前にいるかのように重く鮮明に聞こえた気がした。
「一途だね……クラスメイトが聞いたら嫉妬するよ」
「嫉妬上等。じゃあ明日行ってくるよ」
「うん。応援してる」
エリザは通話を切り、深く息を吐いた後にリビングに戻った。
◇◇◇
翌日、昼過ぎ。
「変身!」
町内の公園にプロキシーが出現したことを察知した光は、プロキシーを確認次第走りながら変身した。
出現したプロキシーの名はソフィ。アクセサリーはレイピア。
光とソフィは言葉を交わしていない。しかし光から感じる露骨な殺意が伝わり、ソフィは何も言わずにレイピアにライティクルを集約させた。
(周りに影がない、能力は使えないか……なら直殴りとスキルで終わらせる!)
光のアクセサリーは鎖鎌。影と融合する能力と併用すれば難なくダメージを与えられるが、能力を併用させなければ攻撃は難しい。
なぜならば、腕の動きに連動して鎖鎌は動くため、鎖鎌ではなく腕に注目されれば攻撃の軌道を読まれてしまう。
時刻は正午過ぎ。太陽はほぼ真上。周囲に影を伸ばせるような物はなく、能力を発揮できるような状態ではない。
だからと言って勝てない訳では無い。しかしそれは光の技量次第である。
「あの姿、ルーシェか……なら勝てるな」
ルーシェはソフィのことを覚えていない。しかしソフィはルーシェもルーシェの能力を覚えている。
ライティクル集約済のレイピアを構えたルーシェは、能力"浮遊"を発動した。
浮遊は自身、或いは対象プロキシーの重力を軽減させ、飛行とまではいかないが地に足をつけることなく自由自在に動ける。
その姿はまるで宙を舞う妖精。ソフィが殺すべき相手ではなければ、光は見蕩れてしまっていたのだろう。
「蝿みたいにフラフラと……鬱陶しい!」
攻撃が当たらず、ソフィの影を踏めずなかなか能力発動できない現状に苛つき始める光。
その姿はまるで、目の前で舞う妖精を捕まえられずに苛つく子供のようである。
しかし光は目の前の物事に集中し過ぎる子供ではない。なぜなら、偶然起こったチャンスを見逃さなかった。
(っ! 今や!)
光は鎖鎌にライティクルを集約し、能力を発動。ソフィの目の前で、光は地面に吸い込まれた。
「消えた!?」
ルーシェの能力が影との融合であることは知っている。だからこそ、ルーシェが突如消えたことに困惑した。しかしソフィは光を上回っており、光が消えた理由を理解した。
それは、雲である。偶然にも雲が太陽に重なり、広範囲に影をかけた。そしてソフィには、どこから光が出てくるかも容易に理解できた。
(捕った!)
ソフィの後方から鎖鎌を投げた光。
確実に鎌はソフィを突き刺す。そう確信した光だが、やはりソフィは一枚上手だった。
「そう来るとは読んでいた」
ソフィは振り返っただけで回避はせず、迫り来る鎖鎌を掴んだ。そしてソフィは鎖鎌を引っ張り、影の中に潜んでいた光を引きずり出した。
正直、死角からの攻撃を防がれるとは予想していなかった。しかし光もプレイヤーの1人。咄嗟の判断により空中で体勢を変え、キッキングシャドーを発動。
「これなら!」
「……甘いな」
ソフィは鎖鎌をさらに引き寄せ、空中で構えていた光の体勢を再び崩した。直後にソフィはレイピアを構え、引き寄せられた光の左肩に剣先を突き刺した。
レイピアは皮膚を貫き、筋肉を貫き、骨に達する。その痛みは過去幾度となく味わった痛みの中でも上位、否、最も痛い。
空中でダメージを受けた光は激痛に顔を歪め、能力の維持ができず落下。
「うぐっ……い、たい……っ!!」
「……ルーシェの皮を被ったところで、所詮身体は人間か……一緒に世界を管理した中だし、せめて楽に殺してあげる」
ソフィは能力を解除し着地。肩を押さえて
(殺される……!!)
「させない!!」
第三者の声が聞こえた時、光の前に立っていたソフィは蹴り飛ばされ、代わりに空色の髪を伸ばした少女が立っていた。顔を上げ少女の顔を見た時、光はそれが誰なのかを瞬時に理解した。
「あんた……」
「……高山さんだよね……ごめん、もう少しだけ待ってて」
現れたのはエリザ。
髪色が違っていても、エリザは特徴的な顔と髪型をしているため、光が見間違うはずがなかった。
「その姿……アイリスか……!」
「そう。だから私がどれだけ強いか分かってるよね?」
「……分かってても、逃げる訳にはいかない。というか、逃げられないって言った方がいいか」
「……発言は控えた方がいい。私に殺される前に"消される"かもしれないから」
光には2人の会話が理解できなかった。
逃げる訳にはいかない、というのはまだ分かる。しかし逃げられない、という意味は全く理解できない。
最も訳が分からないのは、消されるかもしれないというエリザの発言。仮に存在を消されるのであれば一体誰に消されるのか。そもそもどうやって存在を消すのか。或いは何かしらの暗号、隠語なのか。無論理解できるはずもないが、考えずにはいられなかった。
「高山さん、あの人の能力って分かる?」
「……多分、飛行か浮遊」
「……分かった」
エリザは能力でライティクルの刃を発現させ、鉄扇本体にライティクルを集約させた。
「ぉぶっ! ぶふぁあ!」
光はエリザが攻撃する瞬間を見ていない。しかしソフィの身体に幾つかの刺傷が現れており、ソフィは口と鼻から体力の血液を吐き出している。
エリザはスキル、色彩反転を使用し、少し前にコピーした時間飛躍を反転。数秒前、ソフィが蹴り飛ばされる前の時間に干渉し、光の刃でソフィの身体を何度も突き刺した。
結果的に
「死ぬ前に、あなたの力だけ頂くね」
エリザは瀕死のソフィに歩み寄り、右手でソフィの頬に触れる。この瞬間エリザは浮遊能力を会得し、色彩反転により使用できる能力も会得。
敢えて殺さず瀕死の状態に追いやり、反撃できなくなったところで能力を奪う。見方によっては悪逆無道と言えないことはないが、アイリスの持つ能力の特性上この方法が最も安全であり確実。エリザもそれを理解しているため、躊躇わずに実行している。
「の、うりょ、く……併用、した、の?」
瀕死のソフィは、掠れた声でアイリスの能力と起こった出来事の矛盾に気付いた。
本来、コピーした能力は併用ができない。故にプロキシーAとプロキシーBの能力をコピーしたとしても、どちらか一方の能力しか1度に使えない。
「光の刃はアイリスの力。だけど、直接あなたを攻撃した能力は私の力。コピーした力はともかく、自分の力を併用できないようじゃ戦いが不便過ぎる」
エリザは先程、コピーした光の刃を発動していた。それと同時に、コピーした時間飛躍を反転した能力を使用した。
前者はアイリスの能力でコピーした能力。故に他のコピーした能力との併用は不可能。
しかし後者は「コピーした能力の反転」というエリザのスキルであるため、コピーした能力を併用している訳では無い。
とは言えエリザのスキルを知らないソフィは、エリザの発言をうまく理解できず、沈思黙考の中死んでいった。
「高山さん、肩の傷……」
変身を解除した光は、痛む肩を強く押さえながらなんとか立ちあがり、家に帰るため背を向けて歩き始めた。
「どおってことない。こんなんすぐに治る」
「……うち来なよ! うちなら、応急処置以上の手当はできるから」
エリザは光を引き止めるため、怪我をしていない方の肩に手を置いた。
「触らんといて!!」
光の言葉に怯み、瞬時にエリザは手を離してしまった。
「折角……勝る要素ができたと思ったのに……」
光はプレイヤーになり、エリザに無い力を手に入れたと慢心していた。慢心することで戦う意思を固め、慢心していたからこそ初戦でも苦戦することなく勝てた。
しかし、エリザは光の知らないところで既にプレイヤーとして戦っていた。しかもその強さは明らかに光以上。
抱いていた慢心は絶望に変わり、力を得て喜んでいた今までの自分が恥ずかしく、虚しくなった。
「……もう、私に近付かんといて……」
唯一勝るであろう要因を潰され、光の心はさらに深い闇に包まれ始めた。
「高山さん……」
この日初めて、エリザは光との間を取り繕うことを諦めかけた。初めて、友達になれないかもしれないと気付いた。
(折角家の場所教えて貰ったのに、無駄になっちゃったな……)
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