#34 Photo
朝食を食べ終えた一同は部屋で着替え、外出の準備を進める。
今日は緤那と綺羅姉妹がよく訪れる、個人営業のアニメショップへ向かう予定である。店主は常連である緤那達と既に連絡をとっており、今日に限り貸切営業をするらしい。
「あ、そうだ!」
準備の最中、露骨に何かを思いついたリアクションをした愛歌。
一同が愛歌に目をやると、愛歌は少しニヤつきながら口を開いた。
「みんなで写真撮ろうよ!」
「「「……え?」」」
何がどうなってそんな思考に至ったのか、緤那達は理解できなかった。それ以前に愛歌自身も理解していないのだが。
愛歌は「何で?」と聞かれることを想定し、即興でそれらしい理由を後付けした。
「ほら、こうしてプレイヤーみんなが生きて集まれてるんだし、今この時があった証明を残したいなーって思って」
「愛歌はプレイヤーじゃないけどね」
「ぐ……ま、まあいいじゃん! プレイヤーの姉なんだし!」
愛歌の何気ない発言を受けた緤那達は、ほぼ全員が集まれているこの奇跡の瞬間が永遠に続かないことを思い出した。
プレイヤーはプロキシーと殺し合う。相性が悪い相手と対戦すれば、緤那達の中の誰かが死ぬ可能性もある。もし仮に明日緤那が死ねば、もうこの瞬間を共に過ごしている面々でもう一度集まることはできなくなる。
自分達が生きていた証を。自分達が一緒に生きられた証を残したい。緤那達は愛歌の発言に心を動かされ、「どうせなら」と写真を撮ることを了承した。
「どこで撮る?」
「ん~……外だと光の当たり具合とかが微妙だし……2階のリビングとかは?」
「……ソファ使って撮る?」
「ナイスアイデア文乃! なら早く準備終わらせて撮ろう!」
「センターどうする?」
ソファには3人まで座れる。ソファの前と後ろにそれぞれ2人ずつ配備すれば、かなりいい写真が撮れそうだと考えた。
「エリザちゃん一択でしょ。因みに私はその隣がいいな」
ソファの真ん中にエリザを座らせ、続いてエリザの左隣に緤那が座った。
「じゃあ私はここで」
「やったら、私は唯の隣」
唯はソファの前に座り、その反対側に吹雪が座った。
「私はここがいいな」
「じゃあ私はここ」
焔は緤那の後ろに立ち、続いて愛歌はソファの空席の後ろに立った。
「なら私は余ったとこで」
空席には文乃が座り、これで見事な被写体が完成した。
「皆川さんいいよ」
「皆川……いきます!」
家政婦皆川が愛歌のスマートフォンを使い、ソファに群がる7人を撮影した。
光の当て具合も完璧。1回で全員が満足できる出来栄えの写真が撮れた。
「私部屋にこの写真飾りたいから現像するんだけど、みんなもいる?」
「欲しいです!」
「いる!」
「現像したら順次渡すから、写真はまた後日ね」
「写真も撮ったし……さあ! 行こう!」
◇◇◇
アニメショップ「みもざ」。
アニメ好きを拗らせた女性が営業しており、市内のアニメファンがよく訪れる隠れた名店である。
店主の名は
緤那達は他の客を気にすることなく、気ままに店内を歩き回れている。
「こ、これは……1/60フェネクス!?」
各々が店内を探索している中、突如エリザが興奮状態に陥った。
その原因はエリザが最も愛するモビルスーツ、フェネクスの1/60プラモデルである。
「すごいでしょ。コネ使って店頭販売用に仕入れたの。いろいろと綺羅家にはいつも世話になってるし、もし買うんなら半額にしておくよ」
店主の美萌沙は興奮するエリザの背後に立ち、エリザの衝動をさらに刺激する。
因みに今年のエリザのお年玉は、家を空ける両親から事前に貰っていたものと、何故か緤那から貰ったものがあり、合計額はおよそ12万円。
(半額……つまり2万数千円! 安くはない……けど! 今はお年玉がある! しかも今年は緤那からも貰ってるし……買うなら今しかない!!)
「買います!」
「あいよ。けど貸切なんだ、飽きるまで店ん中探索して、会計は最後にしときな」
美萌沙は1/60フェネクスをレジの台に置き、エリザは探索を再開した。
「エリザちゃんもアニメ好きなの?」
「日本のアニメは最高……特にガンダムは世界に誇れる最高傑作! 日本に来るまでガンダムを知らなかった自分自身が恥ずかしい!」
「……愛歌、エリザちゃんに吹き込んだ?」
「……ごめん。つい熱くなっちゃって……」
エリザは元々一般的な少女だった。しかし両親が死に、綺羅家に引き取られてから、エリザは変わってしまった。
アニメや漫画、特撮を愛するようになり、自室もアニメや特撮関連のグッズ等を多く飾っている。
エリザを変えた原因は綺羅姉妹。さらに言えば、愛歌が主な元凶である。
「フェネクスは最高だよ……かっこよくて、綺麗で、速くて……とにかく最高!」
エリザが語彙力を低下させる程愛するモビルスーツはフェネクス。造形が良く、性能もいいためだという、単純な理由である。
「緤那が好きなモビルスーツは?」
「んー……迷うけど、デンドロビウムかな? 宇宙空間でのあの圧倒的とも言える火力……まさに、駆け抜ける嵐!」
緤那の愛するモビルスーツはデンドロビウム。後年のモビルスーツすらも凌駕する性能を持っており、加えて印象的な造形であるため緤那はこの機体を推している。
そもそも緤那は0083という作品自体が好きであり、主人公のウラキが作中で最後に操縦したモビルスーツであるということから、緤那の中で補正がかかっているのだろう。
「緤那さん! 私はF91を推します! 肩のファンが展開して、フェイスガードが開いた状態は最高にカッコイイと私は思います!」
文乃が愛するモビルスーツはF91。造形、性能共に、文乃の好みに合っていた。そもそも作品自体が好きであり、加えて推しキャラであるシーブックが操縦している点が要因である。
加えて機械に近付いた鉄仮面に対極するかのように、F91は人間に近付いているという点も、文乃の好みにはとてもハマっている。
「私はザクII改と死闘を繰り広げたアレックスを推すよ! 焔は?」
愛歌の愛するモビルスーツはアレックス。OVAということもあり、戦闘シーンはとても短いが、造形と最後の戦いのシーンが印象に残っているため愛歌のお気に入りになった。
「私は……ガンダムローズかな。あーでもマンダラガンダムも捨て難い! でもローズ!」
焔の愛歌するモビルスーツ(正確にはモビルファイターだが)はガンダムローズ。寸前まで同作品に登場するマンダラガンダムと迷ったが、最終的にガンダムローズを選んだ。
好きな理由は直感である。焔は奇抜なものや人気の少ないものを好む習性があり、「○○で好きなものは?」と問われた際の回答は大概驚かれる。
勿論、緤那達は焔の好みに内心驚いた。
「~っ! 日本に来てよかった! 日本はガンダム愛に溢れてる!」
エリザの質問に対する緤那に便乗し、文乃と愛歌、焔がそれぞれ好きなモビルスーツを答えたことで、エリザは日本国民の殆どがガンダムを愛していると錯覚した。
「私……あんまりアニメって詳しくないんよね……」
「私も。まさかアニメを今まで見なかったことが弊害になるなんて……思ってもみなかった」
緤那達の話についていけず、店内でただ呆然と立ち尽くす唯と吹雪。
2人共アニメにはあまり興味を抱いておらず、話題になった作品の名前は知っていても視聴してはいない。
唯に関しては、少し前はリモコンの主導権は蓮が握っていたため、自分が見たいものも満足に見られなかった。それ以前に見たいと思ったものは無いのだが。
「アニメはいいよ。これを機に唯と吹雪も"こちら側"に引き込んであげよう」
「え、何こちら側って。怪しい宗教団体?」
「アニオタ教です」
店が貸切なのをいいことに、唯と吹雪への布教活動が開始された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます