時には戦いのない日もいいかもしれない
#33 New year
年を越した緤那達は、年明け後の予定を話した後に就寝の準備をした。しかし一緒に寝ないかという緤那の提案により、誰が誰の部屋で寝るのかを話し合った。
緤那は文乃の部屋に居座ることとなり、緤那的にはエリザとも寝たいということだったが、ベッドの広さの問題で却下。
焔は愛歌ともう少しお近づきになりたいと言い、加えて緤那と文乃のアシストが入り、愛歌の部屋に居座った。
エリザは自分の部屋で1人で就寝。
唯と吹雪は客人が来たとき用の個室を借り、2人で眠ることとなった。
「ん……んん……」
1番最初に目を覚ましたのはエリザだった。大人数で楽しむ正月ということで、楽しみ過ぎてアラームよりも早めに起きてしまった。
(……もうちょっとで起きる時間……だったら、みんなを起こしてあげよう)
エリザはベッドから下り、ネグリジェのままで部屋から出た。
綺羅家内は空調が作動しており、常に快適な温度を保っている。年末年始の寒い時期でも、邸内は寒くもなく暑すぎない、とても過ごしやすい空間になっている。故に今は廊下も個室内も寒くないため、ネグリジェだけでも邸内を歩き回れる。
最初にエリザは、愛歌の部屋を訪れた。まだ愛歌と焔は眠っていることを想定し、エリザは音を立てずにドアを開けた。
「っっ!?」
掛け布団はベッドの下に落ちていた。ベッドの上へと視線を動かすと、そこには全裸で眠る愛歌と焔がいた。
そして2人は意味ありげに互いの手を握ったまま眠っている。
エリザも中学生。歳相応に性知識を持っているため、ここで昨夜何が行われていたのかは大体見当がついた。
(さすがに起こすのはダメかな……別の部屋行こ)
エリザは足音を立てないように後退り、そっとドアを閉めた。
熱くなった顔を冷ましながら、エリザは文乃の部屋に向かった。
(文乃は……大丈夫だよね?)
文乃に過度の信頼を抱くエリザ。しかし愛歌の部屋を覗いてからドキドキが止まらないエリザは、吊り橋効果的に文乃の部屋に入ることを少しだけ躊躇った。
(よし……入る!)
静かにドアを開け、エリザは室内に入る。
緤那と文乃は布団を被っていたため、服を着ているのか否かは分からない。しかし脱ぎ捨てられた服が見当たらないことから、2人はちゃんと服を着て寝ているのだと判断した。
(よかった……)
エリザは安堵の息を吐き、緤那と文乃を起こそうとベッドに歩み寄った。
ベッドを覗き込めば、緤那と文乃は頬を寄せあって眠っている。何とも仲睦まじいものではあるが、愛歌の部屋を見たせいかエリザの脳内には不純な思考が巡っている。
「文乃……緤那……そろそろ起きて」
2人の顔の近くで名前を呼ぶエリザ。
エリザの声に反応した緤那は一瞬で目覚め、充血した目でエリザを凝視。その眼力に驚いたエリザは後退り、瞬間的に発汗した。
「せ、緤那……?」
「おはよ、エリザちゃん。今日も可愛いね」
「お、おはよう……もうそろそろ起きる時間だから、起こしに来たよ」
「もうそんな時間か……他のみんなはもう起きてるの?」
「えっ!? あ、いや……まだ起こしてない」
愛歌と焔は一度起こしに行ったが。
「ん、んんー……文乃、エリザちゃんが起こしに来てくれたよ」
緤那は文乃の身体を揺すり、起床を促す。
揺すっても暫くは起きなかったが、揺すりに緤那の呼び声が加わり、文乃はようやく目を覚ました。
「んん……緤那さん……」
微睡みの状態にある文乃の目はあまり開いていない。加えて、明らかに寝惚けている。
「好きです……」
「文乃? え、起きてる?」
文乃自身、寝ているのか起きているのか分からない。
脳は殆ど機能していない。その状態で緤那を見た文乃は、本能的に緤那の身体に手を伸ばした。
そして、文乃はエリザの目の前で緤那の胸に顔を埋めた。無論エリザは衝撃を受けたが、単純に寝惚けているだけだと自分に言い聞かせた。
「もう、起きてよ文乃」
「んん……」
緤那は文乃の肩を揺する。しかし相変わらず文乃は目覚めず、緤那の胸に埋もれている。
「はぁ……エリザちゃんごめん、先に焔達起こしてくれる?」
「分かった。文乃が起きたらリビングまで来て。みんなで朝ご飯食べよ」
「うん。後で行く」
エリザは部屋を出た。
その直後、緤那は文乃の耳を甘噛み。緤那の吐息を感じ、文乃は僅かに身体をビクつかせる。
そして追い討ちをかけるように、緤那は文乃の寝巻きの中に手を入れ、さらにブラの中に侵入した。
吐息を混じらせ耳を甘噛みしながら、文乃の乳頭を指で弄ぶ。文乃の身体はさらにビクつき、徐々に息も荒くなる。
「早く起きないと……知らないよ?」
◇◇◇
文乃の部屋を出たエリザは、唯と吹雪の居る客室へと向かった。
しかし部屋に近付くにつれ、エリザの足取りは少し重くなっていく。原因は分かっている。浴室での唯である。
唯に恐怖を感じてから、エリザは唯に苦手意識を抱いている。
弟を殺されたことによる怒りが関係していることは分かっている。仇を探すために必死になっていることも分かる。しかし浴室で腕を掴まれた時に感じた恐怖は拭えない。それ程あの時の唯は必死だった。
(……大丈夫。ちゃんと話せば友達になれる)
エリザは友達が多い。
初めて話した際には互いに好印象を抱いていなくとも、エリザはその相手と友人になる方法を模索する。そして、必ず友達になるんだと自分に言い聞かせる。
また別の日にその相手と話した時、エリザは相手の心を掴む。その後互いに心を許し、恐らくは切れることの無いであろう友情を育む。
今回も同じである。エリザが一方的に苦手意識を抱いているだけで、唯はエリザに苦手意識を抱いていない。エリザが勇気を出せば、確実に友達になれる。
そんなことを考えているうちに、エリザは2人の居る部屋へ到着した。
(……よし! 行こう!)
エリザは客室のドアを開け、室内に足を踏み入れた。
「あ、おはよエリザちゃん」
唯と吹雪は既に起床しており、2人はベッドに座って会話していた。
「おはよう……起こしに来たつもりだったんだけど、必要なかったか……朝ご飯食べるから、リビングまで行こう」
「朝ご飯……年越しそばに天ぷら乗っとるくらいやし、期待!」
綺羅家の朝食に過度の期待を寄せる吹雪。実際、朝食も一般家庭より少し豪華に見える。
「さて、じゃあ行こっか」
「私は愛歌を起こしてから行くから、2人は先に行ってて」
「おっけー」
唯と吹雪は立ち上がり、部屋を出てリビングへ向かった。
(……あまり話せなかったな……)
唯とはまだ友達になれないことを悟り、ため息を吐きながらエリザは再度愛歌の部屋に向かった。
しかし部屋に近付いた時、服を着た愛歌と焔がドアを開けて外に出てきた。
「あ、おはよエリちゃん」
「おはよう。もうみんなリビング行ったよ」
「マジ? 行こう焔。待たせちゃ悪いし」
「だね……」
焔は少しよそよそしかったが、もうエリザは2人の関係を考えないことにした。
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