#14 Grotesque

 文乃がプレイヤーになり早くも1週間が経過しようとしていた。その間、何体かプロキシーが現れ、緤那と文乃、唯と吹雪は討伐に向かった。

 そしてプロキシーが爆散する度に気分を悪くしている緤那を見て、文乃は鬼畜とも取れる緤那のグロ耐性強化計画を立てた。決して緤那を虐めたい訳ではなく、緤那への愛が多少悪い方に働いているだけである。


「でも……私達は関係無いんじゃない?」


 それはあくまでも、緤那のグロ耐性を強化するための計画である。そう聞いていたが、なぜか唯と吹雪まで綺羅家に呼び出され、緤那と3人でモニターの前に座っている。


「て言うか、なんで愛歌までいるの?」

「私はアクセサリー持ってないから、せめてこんな時は緤那の役に立ちたくて」


 文乃がプロキシーになった日、文乃は愛歌に口を滑らせてしまった。後々緤那のアシストも入り、愛歌はプレイヤー並の知識を身につけた。しかしアクセサリーも持っていなければ寄生された経験もないため、緤那達のプロキシーに関する会話には基本的に不参加。

 今回愛歌は、緤那のグロ耐性強化をすると聞き、急遽文乃側として参加した。愛歌も文乃同様にグロ耐性が異常であり、矯正させる側としては十分に活躍できる。


「さて、では今からグロ耐性強化計画を実施します。皆さんこれをお持ちください」


 家政婦皆川が、緤那、唯、吹雪の3人にバケツを手渡した。


「吐きたくなったらそこへぶちまけて下さい」

「「「マジで言ってんの!?」」」


 皆川の隣にはバケツのストックが積み上げられており、バケツに吐瀉物が貯まれば交換する予定らしい。

 因みにもしも途中で倒れれば、強制的に隣の客室に運ばれベッドの上に置かれる。


「さて、じゃあまずは初級から」


 文乃はリモコン操作で動画ファイル「初級」を再生した。

 動画ファイルには「初級」「中級」「上級」が存在し、初級は耐性があまり無い人でも見られる。

 初級の動画は、映画やアニメなどのグロテスクなシーン、血飛沫のシーン、鬱屈としたシーンを厳選し編集してある。


「んー……私アニメは大丈夫なんだよね……」


 緤那はグロ耐性が無いと言っているが、アニメのグロシーンは目を覆うことなく普通に見れる。

 故に初級に含まれたコー○○パーティー、エ○ァン○リオン、ひぐ○しの○く頃になどのアニメ映像は難なくクリアできた。


「あ"あ"あ"……何か気分悪いって言うか……鬱?」

「エ○ァって見たことないけど、案外グロいんだね……」


 一方、唯と吹雪の精神的ダメージは緤那以上に大きい。主にグロシーンよりも、鬱屈としたシーンによる。


「初級は全員クリアだね……じゃあ次は中級行ってみよう」


 続いて、愛歌がリモコンで操作し、映像ファイル中級を再生した。


「……ん?」


 初級は再生されてすぐに映像が始まった。しかし中級はすぐには始まらず、注意書きのようなものが表示され、暫くしてから映像が開始された。


「あ、言い忘れたけど……中級からは映画になるから」

「……因みに中級の映画は?」

「ムカデにん……」

「嫌だァァァ!!」


 吹雪は空のバケツを床に置き、部屋のドアを開けて外に逃げた。残された緤那と唯は"その映画"を知らなかったため、これから始まる狂気に怯えながら震えていた。


「それでは、ムカ○人間放映開始です」

(名前がもう怖い……)





 中級鑑賞後。


「どうでした?」


 文乃の問いに、空のバケツを持った緤那と唯は顔を見合わせた。


「なんか……普通に見れたね」

「だね。確かに気持ち悪かったけど、なんかコメディ色というか……B級?」


 気持ち悪くはなったが、2人共吐きそうにはならなかった。否、吐きそうになっていたのかもしれないが、コメディ部分でかき消されていた可能性もある。


「次にやるときはもう少しグロめのものを用意しますね」

「次なんて絶対に嫌だよ?」

「意見は求めません。皆川さん、吹雪さんを連れ戻してきて」


 家政婦皆川は部屋から出ていき、隣の客室で丸まっていた吹雪を連れてきた。


愛歌「上級は3択だから、どれがいいか選んで」

唯「死刑方法選ばされる死刑囚の気分……まあ選べるのは悪いことじゃないか」

愛歌「まずは"食○族"」

緤那「はい無理~名前からアウト~」

文乃「次にジャ○クです」

唯「ジ○ンク……知らない。緤那と吹雪は?」

緤那「知らない……」

吹雪「名前的には食人○よりマシ……かな」

愛歌「じゃあジャ○クにする?」

3人「待ってまだ決めないで」

文乃「最後はムカ○人間2です」

3人「ジャン○でお願いします」






 上級鑑賞中。


「うぐぇええええ!!」


 本編途中で限界を迎えた緤那は、バケツの中に嘔吐。その音に釣られ、吹雪もバケツの中に吐瀉物をぶちまけた。


「バケツを交換します」


 家政婦皆川が2人のバケツを交換し、口元を拭くためのテッシュとうがい用の水を手渡した。


「ねえ文乃……もう止めない?」

「ダメです。この程度で吐いてちゃ、この先緤那さんは吐き続けますよ」

「……今日1日で変わるとは思えないけど……」


 暫くして、


「うぇ……ぇえええ!!」


 これまでバケツを1度も交換しなかった唯が、遂にリバース。

 1度吐いたためか、その後唯はもう吐かなかった。


 そしてジャ○ク最大の見どころ、電気椅子処刑の映像が流れ始め、3人の顔は蒼白した。しかし緤那も吹雪も既に吐くものが無くなったため、死んだ目でただただ画面を見つめていた。




 そして本編が終了し、ようやく3人は地獄の時間から開放された。


「お疲れ様でした。とりあえず今日見た映画は、恐らく次見た時には吐かずに見られると思います。この調子でグロ映像見続けたら、食欲を代償にするかもしれまぜがグロ耐性を身に付けられます」

「……なんかグロ耐性というより、命について考えさせられた気がする」

「同感……見てる時は気持ち悪かったけど、見終わったら案外考えさせられる感じやったね、ジ○ンクって」


 緤那達3人はジャ○クを見て、今まではっきりと考えたことがない"命"について考えさせられた。そして、普段自分達が食べているものが何なのか、分かっていたようで分かっていなかった自分達の愚かさに気付かされた。


「ジャン○は確か6作品あったはずですから、もし興味があれば閲覧してみてはいかがでしょう」

「……6作全部は見ないけど、さっきのやつは今度またもう1回見る。TS○TA○Aにあればいいけど」

「この辺のT○UT○YAにはありません。よければ1と2はお貸しできますよ。3以降は持ってないので無理ですが」


 文乃は既に県内の○SU○AYAを全店周り、ジ○ンクシリーズが存在しないことを知っている。加えて、ネットショッピングアプリでも見当たらなかったため、緤那達が3以降を見ることは困難。


「さて、じゃあ今日はここまで。3人とも食欲あったら晩御飯食べてく?」

「「「ある訳ないでしょ」」」


 3人はふらつく足で立ち上がり、客室で少し休んでから帰宅した。

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