#13 Green Wind
緑のライティクルに包まれた文乃とセト。光の中で2人の身体は融合し、文乃の姿が変わっていく。
青黒い髪は暗めの緑に。青い瞳は淡い赤に。文乃の服はセトの服に。そして光は弾け、文乃は新たな自分の姿を緤那に見せた。
「文乃……(変身しても可愛い)」
「……セト、私はあんたのこと嫌いじゃなかった。けど人間の味方をするなら、セトはもう私の敵。セーラの相棒って時点で気付くべきだった」
「セーラへの侮辱は私への宣戦布告……覚悟はいい?」
ミロと文乃は数秒間動かず、互いに睨み合った。
そして近くにあるゴミ捨て場のカラスの鳴き声を引き金に、向き合った2人は能力を発動、攻撃を開始した。
(セトの能力は相性が悪い……できる限り早く終わらせる!)
ミロはトリガーを引き、ライティクルの銃弾を5発放つ。しかし文乃はアクロバティックな動きで銃弾を全て回避。
(……あー、忘れてたわ……こいつ身軽だった)
かつてプロキシーが世界を管理していた頃、セトはプロキシーの中でもトップクラスの身軽さを誇っていた。そしてその運動神経は、数十年の時を経た今でも健在である。
しかしセトが銃弾を回避できたのは、ただ単に運動神経が優れているというだけではない。
「ナイア……あのプロキシーは強いの?」
(強い……と言うより、強すぎるかな)
文乃が銃弾を回避する度に、緤那は風を感じている。最初はただ風が強いだけかと思っていたが、徐々に風の発生源に気付き始めた。
セトの能力は"風"。自身の周辺に風を起こすことで、身体を浮かせたり加速することができる。攻撃を回避する際、文乃は自らの身軽さに追い風を加えることで、風に舞う花弁のような動きを見せていた。
(すごい……自分の身体とは思えない……)
文乃は運動があまり得意ではない。しかし今、文乃は常人では再現できないような動きをしている。それは最早、文乃にとって感動そのもの。
(セトと一緒なら何でもできる気がする。これなら……緤那さんだって守れる!)
文乃は攻撃を回避し、追い風を加えることでミロとの距離を詰める。
「来るなぁ!!」
ミロは宙に舞う文乃に銃口を向けるが、発砲直前に文乃の蹴りが銃にヒット。照準は下にズレた挙句、ミロは銃を手放してしまった。
文乃は能力をさらに使用し、下降気流を発生させ着地。直後にハイヒールへ緑のライティクルを集約させ、追い風を発生させながら身体を回転、反転させた。
「ストームブレイク!!」
文乃のプレイヤースキル、ストームブレイク。頭頂を軸に身体を横回転させながら地面を蹴り、追い風を利用して身体を縦回転させる。速度ではナイアに劣るが、回避困難な両足の破壊力は抜群。
左踵でミロの側頭部を蹴り、続けて右足でミロの頭を地面に叩きつける。風の加速により、側頭部から激突したミロの頭は粉砕。耳の穴から血液と脳漿、脳ミソが流れ、押し潰された眼球が飛び出た。
ミロは痙攣し、失禁。数十秒後、ミロは死亡し痙攣は止まった。
「セト、これでいいの?」
(上出来。さすが私の拠り所)
文乃は変身を解除し、ミロの死体を見つめた。
「へぇ……プロキシーって人間じゃないのに、構造は同じなんだね」
「あ、文乃? グロいし……もう行かない?」
「そう言えば、緤那さんはグロいのダメでしたね」
ミロの死体を見ても、文乃は気分を悪くしていない。なぜなら文乃は小学生時代からハードなスプラッター映画を見続けた結果、並の女子高生は持たないであろうグロ耐性を身につけた。
仮にプロキシーの身体が爆散し、大量の血と細切れになった内臓が散乱したとしても、文乃は特に気分を害することはない。
「さて、緤那さんの家行きましょ」
人間に酷似したプロキシーを殺したにも関わらず、文乃は普段と変わらぬテンションで緤那に歩み寄った。
「そうだ、家行く途中にプロキシーについて詳しく教えて貰えますか?」
「私の分かる範囲内であれば……って、分からずに戦ってたの?」
「必要最低限のことはセトから聞きました。けどそれだけです」
現時点文乃が把握しているのは、プロキシーは人間ではないこと、プロキシーと
何も知らずに聞けば信じ難い話だが、実際に人が砂に変わり、緤那がドアの向こう側で戦っていると知っていたため、疑わずにセトを受け入れられた。
しかし必要最低限のことしか聞いていないにも関わらず、戦って相手プロキシーを殺すにはそれ相応の覚悟と心臓を持たなければ不可能と言っていい。
「文乃……すごいね」
「緤那さんの為なら、私はチュートリアル無しでどんなゲームだってクリアします。無論戦いはゲームではないですけど」
「……なんか、一気に頼もしい」
文乃の強さは自身の想像を遥かに超えていたことを、緤那はたった今理解した。
◇◇◇
「デ、デンドロビウム……!?」
緤那の部屋に入ってすぐ、文乃の視界に巨大な何かが映りこんだ。それは1/144スケールながらも全長が1メートルを超えるプラモデル、デンドロビウムの完成品である。
「うち、両親とも雑誌の編集者じゃん? だから家に帰れないことも多くて……娘を家で孤立させる罪滅ぼしじゃないけど、冗談半分で言ったら買ってくれたってわけ」
「私デンドロビウム好きですけど……さすがに作ろうとは思いませんよ」
「これぞウラキ愛の証明……星屑愛の証明よ」
緤那はデンドロビウムが登場する某0083が大好きであり、作中に登場する機体のプラモデルを全て購入し、全て組み立てが終わっている。中でもデンドロビウムは1番の高額であり、組み立てにも相当時間をかけた。
睡眠時間を多少削ったが、それは愛を証明するための試練として受け入れ、緤那はデンドロビウムを完成させた。
「さて、親も居ないことだし、これから楽しもうとしてるんだけど……先に誕生日プレゼントを……はいこれ」
「これ……は?」
緤那が手渡したのは「nyamazon」の未開封ダンボールとカッターナイフ。
「開けてみ?」
文乃はカッターナイフでテープを切り、ダンボールを開けた。
「ブラックサレナ……なんで分かったんですか!?」
「愛歌から聞いたの。最近ナデシコにハマってて、特にブラックサレナが気に入ってるって」
「でも……高いですよね?」
「文乃が喜んでくれれば安いもんだよ」
中には文乃が最近ハマっているアニメに登場する兵器、ブラックサレナが入っていた。発売当時の時点で価格は1万を超えていたが、緤那がnyamazonで探し出した時点で価格は倍以上に跳ね上がっていた。
「嬉しい……嬉しすぎます!」
文乃は買い物袋から本日購入したフィギュアを取り出し、
「ルリちゃん……アキトが来てくれたよ……うぅぅ……」
お気に入りのブラックサレナを貰えた嬉しさと劇場版の衝撃が重なり、文乃は涙を流し始めた。
「泣く程とは思わなかったな……でも喜んで貰ってよかった」
「緤那さんんん……大好きです!!」
ルリのフィギュアとブラックサレナをゆっくり床に置き、文乃は緤那に勢いよく抱きついた。
「まだシャワーも浴びてないのに……」
「耐えられません……」
緤那と文乃はキスをして、その後約1時間半を費やし互いの愛をぶつけ合った。
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