#4 Acceleration 

 緤那のブーツが纏った光はプロキシーの力の源、"ライティクル"。


「「変身!!」」


 黒いライティクルは緤那とナイアを包み、光の中で2人の身体は1つになった。

 緤那の髪型はそのままに、ナイアの髪色に変化。

 顔は緤那のままだが、瞳の色はナイアと同じ黄色に変化。

 服はナイアのものに変化。

 各所変化したが、ベースはそのまま緤那である。言わばその姿は、イメージチェンジした緤那。


(身体は緤那だけど、身体能力は私……分かる?)

(すごく変な感覚……だけど、怖くない)


 ナイアは普段、緤那を拠り所としているが、あくまでも寄生しているだけである。しかし変身したことでナイアは寄生という概念を超え、拠り所である緤那と融合した。

 融合により五感全てを共有しているため、緤那が感じたものをナイアは感じる。さらに、緤那ができないような動きも、ナイアの身体能力を共有しているため可能。

 自らの意識を残したままプロキシーの身体で戦う。この特徴から、プロキシーとの融合を果たした人間は"プレイヤー"と名付けられた。


(あいつを……)

「「殺す!」」


 緤那は敵プロキシーを睨み、地面を蹴った。


「~っ!?」


 殆ど一瞬の出来事だった。

 地面を蹴り、敵プロキシーに向けて走り出した緤那。唯もそこまでは認識していた。

 しかしその直後、走り出した緤那は唯の視界の外に移り、唯と退治していたプロキシーは突如左方向へ飛ばされた。

 そしてプロキシーがいたはずの場所には、代わりに緤那が立っていた。


「何が起こったの……?」

「……これが私達の能力、"加速"」


 プロキシーが各々所有する固有の"能力"。

 ナイアが所持する能力は"加速"。名の通り、自らを加速させる能力である。

 概要的には単純であまり強力そうには思えないが、加速したナイアの最大時速は80km。高速道路を走る車に近い速度で攻撃を受ければ、並の人間であれば致命傷、プロキシーであったとしてもそれ相応のダメージを受ける。

 敵プロキシーは加速を発動した緤那の拳を受け、唯の目の動きよりも速く突き飛ばされた。


「昨日唯が使ってた……フロース……なんとかって、私にも使える?」

「フロースインフェロスは私だけの技。だけど、緤那には緤那だけの技が使えるはず」

「どうすればいい?」

「イメージして。相手を倒せる……相手を殺せるだけの技を」


 特撮を愛する緤那にとって、相手を殺せる技のイメージは容易だった。

 緤那のイメージに呼応し、ブーツに黒いライティクルが集約。力の源であるライティクルが集約されれば、集約箇所のステータスが上昇する。加えて、もしも融合状態であれば、ライティクルの集約はもう1つの意味を持つ。

 緤那は敵プロキシーを見据え、地面を強く蹴りジャンプした。


(必殺技と言えば……これでしょ!)


 空中で右脚を伸ばし、左脚を曲げる。

 敵プロキシー目掛け、緤那は空中で加速する。

 その速度は先程の加速よりも速く、敵プロキシーも唯も反応できなかった。


「これが、私達の力……」


 プレイヤースキル。

 その名の通り、プロキシーの力を持ったプレイヤーのみが使える能力。即ち、ナイア単体では加速は使用できても、プレイヤースキルは使用できない。

 プレイヤーと融合しているからこそ使えるプレイヤースキルは、緤那的表現を使えば"必殺技"である。

 そして、緤那のプレイヤースキルの名は、


「アクセラレーションスマッシュ……!」


 舞那が即興で考えた。

 敵プロキシーは衝撃で地面に激突、死亡した。

 アクセラレーションスマッシュは、通常時の3倍程度の速度で放つ飛び蹴り。発動前の加速でも時速80kmは出るため、発動すればその3倍、時速240kmでの飛び蹴りが可能となる。

 敵プロキシーの身体は衝撃で損傷し、大量の血液を噴出させ、内臓も外に漏れ出している。先程までただの女性にしか見えなかったプロキシーは、緤那の目の前でただの肉塊となってしまった。


「すごい……」


 唯の「すごい」には2つの意味が込められている。

 1つは、緤那のプレイヤースキル、アクセラレーションスマッシュの威力。唯の攻撃を躱す俊敏なプロキシーですら目で追えぬ速度と、その速度から生まれる衝撃、破壊力。

 1つは、アクセラレーションスマッシュにより地面に叩き付けられたプロキシーの死に様である。


「……あのまま放っておけば絶対騒ぎになるよね」

「大丈夫。普通の人間にはプロキシーは見えないから。それに……」


 プロキシーの死体は徐々に色が抜けていく。髪は元々白いため分かりにくいが、肌の色が明らかに抜けている。


「仮に見えてとしても、死んだら消えちゃうから……騒ぎにはならないよ」


 プロキシーは神の代役であるため、おおよそ寿命というものが存在しない。故に老衰で果てることはない。しかしプロキシー同士の戦いになれば、プロキシーは簡単に命を落とす。

 戦闘で命を落とせば、プロキシーの身体は徐々に色を失う。完全に色を失ったプロキシーの身体は、蒸発するかのように消滅してしまう。

 死亡から消滅までの時間は約3分。殺したプロキシーも放っておけば、3分後には消滅する。加えてプロキシーは人間には見えないため、事後処理は一切必要ない。


「そうだ、元の姿に戻る方法なんだけど」

「イメージすればいいの?」

「……分かってきたね。イメージする力がないとプレイヤーは成り立たない。常に想像力は働かせておいてね」


 緤那は変身解除をイメージし、本来の姿に戻った。その後ブーツもアクセサリーに戻り、再び緤那の首元に移った。


「もう6時過ぎ……あぁ~学校行きたくない……」

「今から寝たら絶対起きれなくなるし……今日はこのまま準備して、早めに学校行こ。じゃあ私帰るね……」


 ◇◇◇


「うぅ……うぉえぇぇ……が、げぁぇ……」


 緊張の糸が解けたのか、帰宅後すぐに緤那はトイレで嘔吐した。

 初めて見る人間(と同じ見た目をしたプロキシー)の内臓、それもかなりグロテスクな状態で見れば、耐性が無いと吐き戻すのは仕方がない。


(大丈夫?)

(大丈夫……ちょっと気分悪くなっただけ……)


 吐くことが苦しいのは当たり前。

 今後戦いで何度吐くことになるのだろうかと考え、緤那は少しだけ気が重くなった。

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