加速する運命
#1 Secret
2017年11月9日。
EHM県MTYM市色絵町。白羽女子高等学校。2年B組。
「
下校の準備を進める生徒達。その中で1人だけ、準備を終わらせた上で椅子に座る生徒がいた。
窓から入り込む風でアッシュゴールドのミディアムヘアが揺れ、シトラスの香りを風に乗せる。
緤那の匂いに心を奪われたのか、真横に立っていた女子生徒、
「ごめん。この後"知り合い"の家行くから、また今度ね」
ただもう1つ、緤那には周囲に隠していることがある。
「あー……おっけ。でも明日も学校だし、あんまし体力使っちゃダメだよ」
「……なんで知ってんの?」
「10年も友達やってれば分かっちゃうの。どの辺で分かるかは内緒」
緤那と焔は小学校からの付き合いであり、共に信頼は厚い。
黒髪天然パーマ、眼鏡、低身長、貧乳が特徴の焔は、緤那のように周囲の目は引かない。言わば緤那の影に隠れた存在。しかし焔は僻みや嫉妬はしない。
長い時間を共に過ごし、仲違いもなく常に友達でいた。その付き合いの長さ故に、焔は緤那の隠し事にも気付いている。
「緤那~!」
「お、噂をすれば」
教室の入口付近から緤那を呼ぶ女子生徒。隣にはその女子生徒の手を握る、背の低い女子生徒がいる。
「……他言したら殺すからね」
「しないよ。そんじゃまた明日」
「ん、また明日」
緤那はカバンを持ち、教室出入口まで向かった。
「家行く前にどっか寄ってく?」
並んでいる2人の背が高い方が、帰宅前の行動について質問した。
彼女の名は
髪は青黒く、肩甲骨付近まで伸ばしている。緤那とは高校入学後に出会い、共通の趣味を持っているということで友人になった。
「んー……私は特に……かな? 文乃はどっか行きたいとこある?」
緤那は愛歌の質問を、そのまま背が低い方に受け流した。
彼女の名は
愛歌同様に髪色は青黒く、ボブヘアーにしている。顔立ちは愛歌に似ているが、文乃の方が少しだけ目元が柔らかい。
「特にありません。私としては、一刻も早く家に帰りたいです」
「んじゃ文乃の意見を尊重して、寄り道無しでそのまま行こっか。文乃、緤那、行くよ」
これから緤那は、愛歌と文乃の自宅に向かう。共通の趣味について語り合い、加えて夕食をご馳走になる。今日は緤那の両親が仕事で帰って来れないことを聞き、愛歌から誘ったのだ。
しかし緤那の目的はそれだけではない。誘った愛歌ですら緤那の真の目的は知らず、そのことに気付いているのは焔だけだった。
◇◇◇
綺羅家。落ち着いた雰囲気の場所に建てられた豪邸は、知らずに通った人間の目を引く。緤那も最初に見た時は軽く引いたが、今では慣れてしまった。
「なかなか異常ねぇ~、女子高生3人が特撮について語ってるなんて」
緤那達3人の共通の趣味。それは、特撮ヒーローとアニメ。
昭和の伝説的名作から、後に名作となる平成の新作まで、3人の特撮とアニメに対する愛と知識はとても女子高生とは思えない。
現在3人は文乃の部屋にいる。壁面にはアニメのポスターやタペストリー。棚にはフィギュアとプラモデル。立てかけた抱き枕にはアニメキャラのカバーが着せられている。
それらの類が苦手な人が部屋に入れば、恐らくドン引きした後に卒倒するだろう。
「それでさぁ……ん、どうぞ」
会話の最中、ドアがノックされ家政婦が顔を出した。
「愛歌お嬢さん、旦那様からお電話です」
「また固定電話に? いい加減スマホにかけてくれればいいのに。ごめん、ちょっと行ってくる」
愛歌は家政婦に連れられ、部屋から出ていった。文乃の部屋は3階、固定電話がある部屋は1階であり、加えて愛歌達の父は長電話。暫くは戻ってこない。
「やっと2人きりになれましたね」
「だね」
ベッドに座った緤那と文乃は、互いの指を絡め瞳を見つめる。
「やっと触れられる」
緤那と文乃は瞼を閉じ、唇を合わせる。
「ん……んむ、はぁ……3日ぶり、だね」
「禁断症状が出るとこでした。また暫くできないから、もっと緤那さんを感じさせてください」
2人はベッドに身体を倒し、互いに身体を寄せ合う。
これが緤那が……否、緤那と文乃が抱える秘密。
「姉さんが、戻ってくるまでに」
2人は半年程前から、愛歌に気づかれぬよう交際を続けている。
2人の時間ができればキスをする。できなければ手を握るだけで済ませる。そしてもしも、愛歌待ちでなくどちらかの家で2人きりになれば、2人は服を脱ぐ。
「緤那さん……いい匂い……」
文乃は息を吐いた後に緤那の胸に顔を埋め、鼻から息を吸った。恒例行事である。
「文乃の脚……相変わらずスベスベだね……」
緤那は文乃の太腿を撫で、互いの性欲を高める。ここ暫く交わっていない2人は欲求不満状態。これ以上互いの身体を感じれば、愛歌が帰って来るにも関わらず"スッキリ"してしまう可能性がある。
しかし、予想もしなかったストッパーにより、緤那の興奮は少し冷めた。
「っ!?」
「どうしたんですか?」
「いや、なんか呼ばれた気がして……」
誰かも分からなければ、何処から呼ばれたかも分からない。そもそも名前を呼ばれた訳でも無い。ただ、呼ばれたような気がしたというだけである。
「「っ!!」」
廊下を歩く音に反応し、緤那と文乃は服を直し元の位置に戻る。全ての行程を終えるまでの時間は約2秒だった。
「文乃~、お父さん達暫く帰れないらしいよ」
「どうしたの?」
「よく分かんないけど、会社の人が何かやらかしたみたい。まあ大丈夫でしょ。そろそろ夕食できるから、2人共来て」
「「はーい」」
◇◇◇
夕食を終え、食後の雑談を終えた後、緤那は帰宅の準備を進める。
「お風呂も入ってけばいいのに」
「替えの服も下着もないし、今日はなし。泊まりにくることがあったら、またその時ね」
緤那は綺羅姉妹に見送られながら、自宅へ向かい歩き始めた。
イヤホンで曲を聴きながら、闇の中を進む。しかし綺羅家と自宅の丁度中間に差し掛かった時、緤那は足を止める。
(また……誰が私を呼んでるの?)
再び声が聞こえた気がした緤那は、イヤホンを外し周囲を見回す。
周辺には3つの人影。既に暗い時間であり、尚且つ街灯もないが、家から漏れる僅かな光で顔は判別できた。しかし3つの人影は誰も舞那を呼んでいる様子ではない。
そもそも緤那を呼ぶ声は、耳を経由し聞こえたものではなく、直接脳内に入ってきたような感覚だった。加えて、もしも肉声であれば、イヤホンから流れる曲に阻害されるはず。
(誰なの……)
鼓動が早まり、汗が流れる。緤那は誰からかも分からない呼び声を恐れていた。
そして緤那の恐怖をさらに刺激するように、遠くから誰かが駆け寄ってきた。
(誰!?)
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