第2章 2人の未来

#0 Branch

 世界は1つではない。


 世界は絶えず分岐し、分岐する度に別々の世界が生まれる。ベースとなった世界から分岐した世界は平行世界、或いはパラレルワールド呼ばれ、ベースの世界とは大きく変わった世界観になる可能性がある。

 仮に、遊びに行くなら山か海かで迷った時、山を選んだ世界と海を選んだ世界として分岐する。人生に大きな要素を生まないと思われるその分岐は、実は人生における最大の選択になるかもしれない。

 

 「行く」か「行かぬ」か、「食べる」か「食べぬ」か、「言う」か「言わぬ」か、「助ける」か「見捨てる」か、「買う」か「買わぬ」か。ほんの小さな分岐点は、選ぶ結果で意外な未来を見る。

 それは人であろうと、例え神であろうと。








 この世界は、2人の神により管理されている。

 1人はクロノス。青いボブヘアーと優しげな目が特徴の、齢13程度の少女の見た目をしている。

 1人はティアマト。癖のある赤いロングヘアーと少しつり上がった目が特徴の、齢18程度の少女の見た目をしている。


「……ティアマト、一体何のつもり?」

「見ての通り脅迫よ。クロノスが管理している"アクセサリー"……全て渡して貰う」


 ティアマトはクロノスの頭部に右手をかざし、神の力の源である光、"ライティクル"を集約させる。

 身体の一部にライティクルを集約させるということは、能力を発動するということ。そしてライティクルを集約させた手を向けるということは、攻撃の意思があるということ。


「……念の為、何に使うのか聞いていい?」

「プロキシーを解放して、この世界をリセットする。今になって、ようやくプロキシー達の気持ちが分かったの。人間は愚劣を極めた……今こそリセットして、新世界を作る時よ」

「断る」

「……そう言うと思った」


 2人の沈黙は5秒程続き、沈黙を破るかのようにティアマトの右手が輝いた。


「なら死ね!」

「それも断る!」


 人間には目視できない大爆発が、日本の上空で起こった。爆風は雲を破り、隠されていた太陽の光を人間に浴びせた。

 その後も上空では爆発が何度も起こったが、人間達は見えも聞えもせず、ただただ雲が消えたとしか認識しなかった。


「クロノス!!」

「ティアマト!!」


 2人はライティクルを刃状に変化させ、互いの心臓に向け突き出す。


 この時、世界は3つに分岐した。

 1つは、クロノスが生き残った世界。

 1つは、ティアマトが生き残った世界。

 そしてもう1つは……



 両方が死亡し、神が消えた世界。


 ◇◇◇


 子供の頃、私は知らない女の人からアクセサリーを貰った。そのアクセサリーはブーツみたいな形をして、最初見た時はすごく変なアクセサリーだと思った。

 けどそのアクセサリーはどこか不思議で、なぜか手放そうとは思えない。何年か経った今も、私はそのアクセサリーを持っている。

 そのアクセサリーを貰う時、私はその女の人からこう言われた。


 ―――このアクセサリーは、いつか君の役に立つ日が来るから、絶対に無くしちゃダメだよ。


 今でも思う。こんなアクセサリーが何の役に立つんだろうって。


 ―――それともう1つ。数年後、君は……って名前の女の子に出会うから、このアクセサリーを使って、その子を守ってあげてね。お姉さんとのお約束、だよ。


 私はその言葉を信じてる訳じゃない。けど、私はそのアクセサリーを無くさないよう、ずっと持っていた。

 最近になって、よくその時の記憶が夢の中で蘇る。女の人の顔も声も、会話の中で出てきた名前も思い出せない。だけど、それ以外のことは意外と鮮明に覚えてる。

 だけど、今日もこのアクセサリーが役に立つことはなかった。そもそも私は信じてなかった。こんなアクセサリーは何の役にも役には立たない。そう言いながら、私は今日もアクセサリーを大切に保管して、眠りについた。









 ―――やっと見つけた。


 誰かは分からない。けどその誰かは、躊躇い無く私に近付いてくる。

 その距離僅か数センチ。もう少し近付けば、その誰かと私は胸を押し付け合い、キスしてしまうのではないのだろうか。

 しかしそこで私は気付いた。これは夢の中だと。

 確かに私はベッドで眠りについた。そこからの記憶がないから、これは間違いなく夢の中。何せ床も壁も天井もない、なんと言うかフワフワした空間に立っているのだから。


 ―――いい身体……これ以上私に適合する身体は見つからない。


 黒髪。黄色の瞳。黒い服。そして、柔らかい唇。


 ―――この身体は私のもの……!


 夢の中で私は、見ず知らずの女性にキスをされた。

 直後、私とその女性の身体が融合し、私の身体は黒の光に包まれた。

 不思議な感覚だった。

 私の身体なのに、私の身体じゃない。と言うよりも、私なのに私のじゃない。

 この時の感覚はいまだにはっきりと覚えている。不思議で、少し怖いはずなのに、なぜか私は……謎の快感に満たされていた。



 以上が、昨夜私が見た夢である。

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