《91》 舞那

 エプラルにより解放された代行者は、実体化する直前までエプラルと一体化していた。その際エプラルは代行者達に力を注ぎ、本来出せる力をさらに底上げした。

 今の代行者は、アクセサリーに封印される前の状態よりも強い。3等分されたアクセサリー解放されたガイ達は、封印前の3分の1しか力を発揮できなかった。エプラルの強化をガイで例えるならば、かつて舞那達と敵対していた頃の3倍以上の力。

 加えて解放されたのは3人。3等分された力しか知らない舞那達は、予想以上の力に圧倒されつつある。


(単純なスペックだけでもガイとは比べ物にならない……なのに!)


 舞那達は戦闘開始直後に気付いた。解放されたクーナ達は、舞那達が使用する能力に耐性を持っている。

 光の刃も切断はできず、硬化もあまり意味を持たず、属性操作もそこまでのダメージは与えられていない。

 しかし、クーナ達が耐性を持っていることに気付いてすぐ、舞那達はもう1つあることに気付いた。

 戦いが始まり3分程経過したが、舞那達プレイヤー側は殆どダメージを負っていない。プロキシーとの、或いはプレイヤー同士の戦闘であれば、圧倒的な優勢でない限りプレイヤーはダメージを負う。今回の相手は強く、舞那達は明らかな劣勢。にも関わらず、代行者達の攻撃によるダメージは無い。


(まさか手加減してる……? だとしたらなんで……)


 舞那達と代行者達の戦いが開始され5分が経過した頃、一瞬思考に意識を持っていかれた舞那は、クーナに距離を詰められた。

 ダメージを覚悟し、咄嗟に硬化を発動したが、クーナは攻撃の寸前に舞那の耳元で小さく囁いた。


「テレパシーは使える?」

「っ!」


 ―――ローディング、時間停止。


 その瞬間、舞那は理解した。なぜクーナ達が相手でダメージを受けていないのか。

 しかし理解とは言え、現時点ではそれは仮説。

 一応、ローディングによりテレパシーは使える。しかし舞那は時間を停止させ、テレパシーではなく直接会話することを選んだ。

 そして自らの仮説を実証するため、龍華、瑠花、リエイブ、ナイザは停止させなかった。


「時間止めれるんだ……」

「テレパシーよりこっちの方がいいでしょ」


 時間が止まったことを感じ取ったクーナ達は攻撃を止め、それを見た龍華と瑠花も動きを止めた。


「舞那……どういうこと?」

「……龍華、羽黒さん……クーナから話がある」








 クーナの拳が舞那の腹部に当たる寸前、舞那は高速移動を発動し回避。舞那の能力の多さと、自らの攻撃が当たらぬストレスで、クーナはエプラルに聞かれる程度の音量で舌打ちをした。


「エプラル、お願いがあるんだけど」

「どうした?」

「今の私達とこの子達の力はほぼ互角……殺して欲しいなら、もう一度だけ融合して、もっと力を頂戴」

「いいだろう……好きなだけ与えよう」


 エプラルはクーナ達を光に戻し、自らの体内に吸収した。


「ほら、攻撃してみたらどうだい? クーナ達がいない今、私はがら空きだよ? 無論、攻撃は跳ね返るけどね」


 エプラルは時間が止まっていたことなど知らない。まして時間が止まっていたなどとは疑わない。仮に止めていたとしても、それは人間側の事情。こちらには関係ない。

 そして、エプラルはメラーフの作った代行者を疑わない。それを理解しているからこそ、クーナは平気で嘘をついた。

 疑わないからこそ、クーナの嘘を見抜けなかった。


「……ばーか」

「っ!?」


 エプラルの身体に起こる異常に気付いたのは、吸収から約40秒が経過した時だった。


「何だ……力が……!!」


 エプラルの身体を纏っていた"反射"は、いつの間にか消失していた。それだけではなく、エプラルが使用できる数々の能力は、徐々に力を失い消えていく。


「クーナ!! 何をした!!」


 ―――あんたの力を消去してる。三人寄れば文殊の知恵……代行者でも3人いれば、神の力に対抗するなんて難しくない!


「何故……何故私に抗う!!」


 ―――抗ってるのはクーナだけじゃない。私とナイザも、最初からあなたに従ってなんていない。


「私は神だ! お前達の様な紛い物が何故私に反抗する!」


 ◇◇◇


「……つまり、3人は私達の味方ってこと?」

「そう。エプラルを信じ込ませるためとは言え、私達は君達に拳を向けた。ごめんなさい……」

「謝らないで。クーナ達は私達を負傷させてない」


 止められた時間の中で、舞那達とクーナ達は互いに敵対関係ではないことを確認した。


「さて、ここからが本題。時が動き始めたら、私達はエプラルの中に戻る。その後私達はエプラルの身体を構築している力を壊す。ある程度壊せば、エプラルは能力を維持できずに弱体化する」

「で、弱体化したところを私達で叩く、と……上手くいくの?」

「騙せれば確実。騙せなければ絶望。でも私達を作ったのが自分の子孫(メラーフ)だから、エプラルは私達を過信している。後は私達の演技次第ね」


 結果的にクーナの作戦は成功した。しかしこの時点での成功確率は五分五分だった。それでも舞那達はクーナの話に乗り、作戦を実行に移した。


「でも、なんで私達に協力してくれるの?」

「……簡単よ」


 ◇◇◇


 ―――私達は人間を愛している! その人間を滅ぼそうとする奴は、私達3人の敵だ!


 クーナ達はエプラルと融合し、エプラルの持つ能力を消していく。エプラルは何とかクーナ達を消そうとするが、試みも虚しくクーナ達は力の消去を進める。

 やがてエプラルの身体能力にも影響を及ぼし、スペックはガイ以上クーナ未満にまで落ちてしまった。


 ―――みんな!!


 クーナからのテレパシーを受け取り、待機していた舞那達が動き始めた。


「エプラル! 今度こそ終わらせる!」


 ―――ローディング! フリージングクラッシュ!


 舞那はローディングにより、緤那の記憶にある"フリージングクラッシュ"を発動した。フリージングクラッシュは拳から冷気を放ち、触れる寸前に対象の身体の一部を冷凍。そのまま体重を載せた拳で冷凍箇所を殴り、砕けさせるという能力。

 ただこの能力には弱点があり、凍らせるには対象と距離を詰める必要がある。回避されれば不発に終わる。


 ―――ローディング! 高速移動!


 しかし舞那はローディングを重ね、高速移動を発動。エプラルが反応できぬ速度で距離を詰めた。

 舞那の放った冷凍はエプラルの右肩を凍らせ、拳はそのまま右肩を砕く。血液までもが凍っていたため、砕けた箇所からは一切流血していない。


「はぁぁぁあ!!」


 舞那がエプラルの目を引き、その隙に龍華は飛行能力でエプラルの上空に飛び上がった。

 フリージングクラッシュで右腕を落とした直後、龍華は鎌に黒白紫の光を集約させ、エプラルの左腕を落とす。左腕は凍結していないため、右とは違い血液を噴出させた。


「両腕が……!! 人間如きに!!」

「腕だけじゃない!!」


 瑠花の声が聞こえた直後、エプラルは腹部に何かが入ってきたことを理解した。


「羽黒瑠花……!!」

「所詮あんたは前世の私……いつまでも過去の自分に縋ってちゃいけないって分かった」


 エプラルの腹に突き刺した七支刀に、瑠花は光を集約させる。


「私が信じた人の邪魔をするな!!」


 銀色に輝く刃はエプラルの胴を切り裂き、内臓の断片が混ざった血液を噴出させた。辛うじて左半身は繋がっているが、右半身は完全に分断された。


(この……私が……!!)


 激痛。しかしそれ以上に、エプラルは屈辱を噛み締めていた。両腕を失った挙句、転生した自分自身に腹を刺され、斬られ、内臓を晒された。しかも相手は人間。

 その屈辱は、かつてデウスに力を剥奪された時に匹敵、否、それ以上。


「この私がぁぁぁぁぁ!!」


 クーナ達はエプラルの力の消去を進めていた。しかしこの瞬間、まだ消去しきれていない能力が一つだけ残っていた。そしてその能力は、エプラルの断末魔と共に発動された。

 能力の名は、"壁"。


 ―――逃げて!!


 クーナのテレパシーが全員に伝わるよりも先に、エプラルが発動した壁は舞那達に影響を与えた。


「「「っ!!」」」


 舞那は髪と服の端が切られ、龍華は右手首から先が無くなり、瑠花は左肩から腰にかけてが抉られた。

 エプラルの発動した壁は、自身の周囲に不可視の壁を出現させることで、その壁に触れた箇所を消滅させる。

 金の能力である"盾"に酷似した能力ではあるが、壁は敵味方問わずに消滅させるという残忍な能力である。しかしその代わりに、壁は盾のように維持できず、発動直後に消滅する。


「~っ!!」


 瑠花は変身を解除されたと同時に立つ力を失い、その場に倒れる。右手を失った龍華も、突然のダメージに膝をついた。


「ぅあああああああ!!」


 舞那は光の刃をローディングし、エプラルの脳天から真下に刃を振り下ろす。


「がぇ……ぁあ……」


 エプラルは完全に死亡し、分断された身体は血液と内臓を零しながら地に落ちた。その際にクーナ達はエプラルから脱出し、再び実体を保った。


「羽黒さん!」


 エプラルとエプラルの翼に阻まれ、舞那は膝をつく龍華が見えなかった。そのため舞那は真っ先に瑠花に駆け寄り、身体の一部を削がれた瑠花を抱き上げた。

 筋肉と骨は削がれ、内臓も損傷を受けた。加えて自然治癒は不可能な状態であるため、ローディングの回復も不可能。瑠花自身は、このまま死を待つのみと覚悟した。


「殺そ、とした、のアクセ、ァリー使、て、挙句、かかえ、らぇるな、て……」


 瑠花の目は殆ど開いておらず、呂律も回っていない。


「……せっかく……死なせずに終われたと思ったのに……!」


 舞那は涙を流す。涙は瑠花の首元に零れ落ち、瑠花は初めて舞那が泣いていることに気付いた。そして、舞那が自らのために涙を流していると理解し、瑠花も涙を流した。

 これまで瑠花は、数えきれない罪を重ねてきた。そんな自分には、誰かに感謝される資格も、誰かに涙を流させる資格も無いと思っていた。

 だがつい先程まで殺し合い、ずっと敵だと考えていた相手が、瑠花を抱え泣いている。


(こんな私のために泣いてくれるなんて……ほんと、どこまでお人好しなの……)


 瑠花はもう意識を保てるだけの力はない。しかし最後に一つだけ、絶対に言っておきたいことがあると、瑠花は自らの身体に言い聞かせた。


「と、ぉだち、に……なぃたかった……」


 友達になりたかった。

 その言葉を最後に、瑠花は散った。


 ◇◇◇


 龍華の自宅で療養する雪希。その横に、苦い表情のメラーフが現れた。雪希は閉じていた瞼を開け、これからメラーフが言おうとしていることを予測した。


「……終わったんだね」

「……ああ、ようやく終わった。この後、僕は神の力を与えに行ってくる。君が変えたこの世界も、今日で終わりだ」

「短かったね……でもこれで、やっと平和な世界で暮らせる」

「……僕はまだ誰が生き残ったか言ってないが?」

「分かるよ。だって……」


 雪希は再び瞼を閉じ、口元に笑みを浮かべた。


「舞那は私が惚れた人だもん。負けるはずがない」

「そうか……さて、そろそろ行くよ。次の世界でも、僕は君達を見守る」

「うん……それじゃあね……」


 メラーフは消え、部屋は再び静寂に包まれた。


 ◇◇◇


「作り替えた世界でも、友達になってくれる?」


 龍華の唐突な質問に、舞那は硬直した。


「……ごめん、変なこと聞いたよね」


 龍華は飛行を発動し、数センチ程度宙に浮いた。


「大丈夫。私はまた龍華と、雪希ちゃんと、心葵と、千夏と、理央と、沙織と、日向子と、杏樹ちゃんと、撫子ちゃんと、羽黒さんと……また出会える。どんな出会い方をしても、私はみんなと友達になる」


 神の力があれば過去を改変ができる。しかし過去を変えれば、歩むはずの未来も変わってくる。

 出会う人間が変わり、死ぬはずの人間が生き、生きるはずの人間が死に、紡ぐ友情も紡がれなくなるかもしれない。それを覚悟した上で雪希は改変し、できていたはずの友人は友人ではなくなった。

 しかし舞那は覚悟などしていない。過去を改変しても、また出会うと信じている。また友人になれると信じている。根拠はない。確信もない。にも関わらず、舞那は自分達の運命を、未来を信じている。


「……お願い、してもいい?」

「何?」

「世界を改変して、みんなから記憶が消えた後……今の私の記憶を、新しい私に移植して欲しい」


 舞那が1回目の記憶を取り戻したように、改変後の龍華も記憶を取り戻せる。


「みんなと生きた今の時間を忘れたくない」

「……分かった」

「……そんじゃ私は家に帰って、紅茶でも飲みながら世界の終焉を見届けるよ」


 龍華は後ろを向き、数メートル上空へ飛翔した。しかしその途中で上昇を停止し、再度舞那の方を見た。


「舞那!」


 龍華の声に反応し、振り返りかけていた舞那は龍華を見上げた。


「必ず……会いにいくから!」

「……うん、待ってる」


 龍華は飛翔し、舞那に見送られながら病院から去った。


「……メラーフ、そろそろ」

「……ああ」


 ◇◇◇


「ぅ……!」


 自宅の前まで帰ってきた龍華は、門扉の手前で膝をつく。手首を切断されたため出血が激しく、舞那と分かれた時点で既に貧血気味だった。そしてここに来て龍華は限界を迎えてしまった。


(まさか……腕切られただけで死ぬなんて……)


 出血多量で死ぬ、とはよく聞くが、実際に出血多量で死ぬ寸前まで来て、龍華はようやくその苦しみを理解した。

 顔は青白くなり、頭痛と吐き気、意識の混濁が龍華を襲う。徐々に近付く死は、龍華に恐怖を与える……はずだった。

 龍華は死を恐れていない。元より恐れない。それが遅いか早いかだけで、人間誰しもいつかは死ぬ。それを受け入れている。

 加えて、今は死んでも次の世界でまた舞那達と会える。そう信じているからこそ、龍華にとって死は恐怖の対象ではない。


(もう少しで世界の終焉を見届けられると思ったんだけどな……)


 舞那に負けた後、龍華はアクセサリーを手に入れてまたプレイヤーを減らそうとしていた。

 しかし舞那と交流していくうちに、プレイヤー同士の戦いなどはどうでもよくなっていた。自分一人で戦い抜こうとは考えなくなった。


(私……いつの間にか絆されてたんだ……)


 もしもあの日、舞那と出会っていなければ、龍華は今も"人を信じる"ということができなかった。

 龍華にとって、舞那はただの友人ではなく、荒んでいた自分を変えてくれた恩人。しかしそのことに気付いたのは、たった今だった。


(そういや、カフェに行こうって言ったのに、結局行けなかったな……なんで今になって思い出したんだろ……)


 舞那と初めて出会った日、龍華はカフェに行こうと約束した。が、あの日から一度も、舞那とカフェには行っていない。

 約束はまだ果たせていない。しかしこれで、また舞那と会う理由ができた。


「舞那……雪希……また、新しい世界、で……会おう、ね……」


 薄れゆく意識の中、龍華は舞那と雪希を思い浮かべた。そして再会を約束し、龍華を保っていた糸は完全に切れた。


 ◇◇◇


 メラーフは舞那に手をかざし、かつて雪希にも授けた神の力を流し込んだ。雪希の場合は、メラーフの持つ力の半分を受け取り、神に、正確には神に最も近い存在になった。

 しかし舞那の場合は元が神であるため、必要最低限の力だけを流し込み、アイリスの力を再生。アイリスと融合させることで舞那の体細胞を変化させ、神に等しい存在ではなく、新たな神として舞那を進化させた。

 体型等や顔立ちは変わっていないが、髪色と服はアイリスと同一のものに変化し、アイリスと同じ翼も生やした。


「これで君も、神の仲間入りだ……"舞那"」

「……なんか、あんまり実感ないね」

「力の増幅に合わせて身体が進化するから、実感や違和感は無いように錯覚する。実際は相当変化している。さあどうする? 今の君にできないことはない」

「決まってる。私はみんなとの約束を果たす。ついでに、みんなが幸せに生きられるように、ちょっとだけ変えちゃおうかな」


 舞那は以前から思っていたことを、この際実現させようとしている。しかしそれは自分勝手な発想ではなく、幾人もの人々が思っていることである。


「ほぅ……というと?」

「同性婚が当たり前の世界にする。そうすれば、心葵達だけじゃなく、いろんな人が幸せになれるかもしれない。それと、もう戦争が起きない世界にして、世界から兵器を無くす」

「……戦争を肯定する訳では無いが、戦争があったからこそ生まれた未来もあるが?」

「起きなかった世界じゃない。もう起きない世界にするの。それならいいでしょ?」

「……未来の事は僕にも分からない。戦争が無くなった世界というのも見てみたい」

「うん……じゃあ後は私に任せて、メラーフはクーナ達と世間話でもしてて」


 新たな世界はメラーフと、蘇ったクーナ達により管理される。再びメラーフ1人に世界の管理を任せることに、舞那は少し不安を感じていた。しかし代行者が加わるということで、舞那は安心して人間に戻ると決められた。


「頑張って書き換えるから……みんな、待ってて」


 舞那は神の力を使い、誰も戦わない、幸せに生きられる世界を作るため、世界に干渉、リセット、改変を開始した。






「世界の終わりを2度も見届けることになるなんて……なんだか得した気分」


 ベッドから降り、床を這い、雪希は秋希の隣で世界の終わりを見る。

 身体、床、壁、天井、窓、鳥、雲、空が、光の粒子となり徐々に消滅していく。その光景は、かつて雪希が世界をリセットさせた時の光景と同一。


「秋希……今まで私は、戦いのせいであまり構ってあげられなかった。でも、次の世界ではもう戦わない。ちゃんと、秋希のお姉ちゃんになるから」






(舞那……うん、きっと舞那が約束を果たしてくれたんだ)


 消えゆく世界の中で、沙織は電柱の根元に花束を置く。

 この場所は日向子が車に轢かれ、プロキシーに捕食された場所。死に場所である。


「ようやく会えるよ……日向子」





「会長!! なんですかこれ!?」


 消えゆく世界に驚愕し、室内の生徒会メンバーは驚愕する。しかし室内で2人、理央と杏樹だけは落ち着いている。


「多分世界の終わり……かな?」

「はぁ!?」

「でも、怖がらなくていい。でしょ、理央」

「うん……私達はまた生徒会室で会う。怖がる必要なんてない」


 理央は失った右腕を掴み、天井の向こう側に広がる空を見つめる。


(次の世界では、夢……叶えられるかな)





「……そうだ、その前に……」


 舞那はリセットの最中、どこかへ飛び去る。向かった先は、


「来たよ、お母さん」


 母、祥子のところだった。


「ごめんね。今日はお供え物ないの」


 祥子が眠る墓石に触れ、舞那はあることを決意する。


「……エゴだってのは分かってる。けど……私はまた、お母さんと暮らしたい」


 ずっと迷っていたことがある。

 祥子を生き返らせ、また家族3人で暮らしたい。そんな自分勝手な思考で死人を蘇らせればいいのか、ずっと悩んでいた。

 しかし、舞那は決意した。過去を書き換え、祥子を蘇らせると。


「でも安心して。生き返らせるのはお母さんだけじゃない」


 舞那が蘇らせる人間は1人ではない。ある地点から過去に介入し、あらゆる突然死を改変する。

 さすがに全ての死を改変できる訳では無いが、可能な限りの命を蘇らせる。その中には、心葵の父も入っている。

 神の意に反する行為であることは間違いない。しかし、舞那こそが神である。


「だって……死んで仕方の無い人なんていないから」


 墓石は光となり、世界と共に消えていく。


「さて、頑張ろ……」

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