《90》 蘇る代行者

 アクセサリーに身を移し、エプラルはプロキシーの力と融合した。それ故か本来ならば青いはずの瞳は、赤と黄の複眼へと変わっている。

 しかし舞那達と対峙するその女性は間違いなくエプラル。かつてエプラルの姿を見ていたデウスとアイリスが見間違うはずも無い。


「ただ、1つだけ感謝してることがある。瑠花のおかげで、私は光の翼を使えるようになった。勿論瑠花よりも強く!」

「っ!!」


 ―――ローディング! 時間停止!


 舞那は龍華の記憶をローディングし、時間を停止させた。直後に舞那は走り、エプラルの目の前で急停止。慣性力を利用し、強く握った拳を突き出した。


 ―――ローディング! クリムゾンフィスト!


 舞那の拳が触れる直前に舞那は時間を動かし、赤い拳をエプラルの腹部に直撃させた。クリムゾンフィストで破壊させる能力は、瑠花の持っていた"破壊"。舞那は破壊による周辺の建造物の破壊を避け、尚且つダメージを与えるためにクリムゾンフィストを選んだ。

 舞那の拳を受けたエプラルは、その衝撃で後方へ飛ばされる……はずだった。


「嘘でしょ……」


 エプラルは僅かにぐらついただけで、その場から1歩も動いていない。瑠花でさえも嘔吐する程の衝撃を、エプラルは姿勢を崩すことなく耐えた。


「神の力を借りただけの人間が、本物の神に適うとでも? たかが人間……能力は壊せても身体までは壊せない!」


 エプラルは光の翼を発動。そしてその直後、エプラルからの見えない攻撃により、舞那は後方へ飛ばされた。


「舞那!」


 舞那は飛行能力を発動し、上昇することで衝撃を殺した。しかしエプラルからの衝撃により舞那は腹部にダメージを受け、能力を維持できず落下。嘔吐した。

 目で負えぬ速さという訳ではなく、そもそもエプラルは腕も脚も動かしていない。これはエプラルの攻撃ではなく、エプラルの持つ能力によるものである。


「アイリスもデウスも知らないだろうから、特別に教えてあげよう。今のは私が瑠花の中で作り上げた能力……"反射"よ。今の私に攻撃すれば、全く同じ力であんた達に跳ね返る。ただその代わり、私は攻撃できる程の力は持ってない……けど!」


 エプラルは翼を広げ、自身の前に3つの光を集約させた。

 1つは赤の光。1つは青の光。1つは黄の光。それぞれの光は徐々に人型を模し、エプラルのように翼の形も模した。


「私にはあんた達に攻撃できる仲間がいる。メラーフが生み出した、代行者プロキシーがね!」


 エプラルは自らの身を移したアクセサリーに存在していた力を実体化させ、力の持ち主である3人の代行者を生み出した。

 1人は赤の代行者クーナ。1人は青の代行者リエイブ。1人は黄の代行者ナイザ。雪希以外のプレイヤーはクーナ達を見たことがないが、アクセサリーに宿っていた力の原型であることは理解できた。

 3人の代行者プロキシーは目を開け、舞那達を見つめる。


《……封印を解いたのはあんたね。折角世界の管理から解放されたと思ったのに》

《許してくれ。それよりも、あそこにいる3人の人間を殺して欲しい。私の力が混ざった君達なら、他の代行者よりも強いはずだ》

《何故人間を殺せと?》

《奴等は私の邪魔をする存在……殺さなければならない》

《あの子達を殺してまで何を叶えようと?》

《人類の絶滅だよ……聞けば、君達も人間の絶滅を目論んで、メラーフに封印された。目的は同じはずだ》


 4人の会話は人間の言葉ではない。舞那達はエプラル達の会話を一切理解できなかったが、これからクーナ達と戦うことになる、ということはある程度理解できた。


《リエイブ、ナイザ……やろう》

《……分かった》

《それがクーナのやりたい事なら……》

《さすがはメラーフが作った紛い物……いや、神達だ。私の名はエプラル。今日から君達の主だ》


 クーナが1歩前に出て、覚えたての日本語で舞那達に自分達の意志を露わにした。


「私達はメラーフにより作られた代行者。私達は今から君達と戦う……武器を取りなさい。逃げれば即刻殺す!」


 クーナの牽制に反応し、舞那は立ち上がって瑠花の傍に移動した。


「……羽黒さん、もしダメージが回復したら、また戦える?」

「回復できるのなら……って言っても、アクセサリー壊れたし……」

「……じゃあ問題ない」


 ―――ローディング、回復。


「っ!」


 舞那は緤那の記憶にある"別の人間の力"をローディング。

 読み取った能力は"回復"。その名の通り、対象の身体的ダメージを回復させることができる。しかし回復には条件があり、対象のダメージは"戦闘における負傷"のみに限られている。因みに戦闘における負傷とは、ダメージを負った際に"ダメージを与えた存在"が能力を使用していた、或いは能力を保持していることで、負傷箇所に残った僅かな能力の痕跡で判定される。

 雪希と秋希の場合は、ダメージを与えた存在は瑠花ではなく瓦礫であるため、負傷箇所に能力の痕跡は無い。故に舞那が回復を発動しても、雪希と秋希はその力を受けられない。

 舞那も瑠花も、負傷箇所に能力の痕跡が残っているため、回復の対象。ダメージを回復することができた。

 ただ一言に回復とは言え、実際には"自然治癒により回復できる傷の高速修復"であるため、自然治癒では治せない負傷は対象外。


「すごい……本当に回復した」

「羽黒さん、これ……」


 龍華は雪希の家で拾った銀のアクセサリーを取り出し、瑠花の前に差し出した。


「雪希はあんたのせいで、下半身が使えなくなった。償いにはならないけど、雪希の代わりに戦って」


 少しの沈黙を置き、瑠花はアクセサリーを受け取った。


(皮肉ね……倒そうとした奴の力で、私が戦うことになるなんて)

「変身」


 瑠花は銀のアクセサリーで変身した。髪型は赤と黄の2色で変身した時と同じだが、色は銀色。

 同調していたエプラルが体外に出てしまったため、もう翼の力は使えない。加えてプロキシーの力との同調度も低いため、翼を生やすこともない。

 しかし変身しているのは瑠花。代行者相手であれば、翼が無くとも十分に戦えるだけの力を持っている。


「そこの青い子は私、紫の子はリエイブ、銀色の子はナイザが相手をする……エプラルはそこで見てて」

「……始めよう、最後の戦い!」


 舞那の声を引き金に、舞那達人間と代行者の戦いが始まった。


 ◇◇◇


 舞那達の戦いを傍観しているメラーフは、クーナ達に疑念を抱いている。

 クーナ達3人の代行者は、当時代行者同士で戦いが勃発した際、人類削減に反対するオルマ側についた。

 3人は人間を愛し、決して人間を傷付けるような真似はしなかった。そんな3人は今、舞那達に拳を向けている。3人をよく知っているメラーフは、それがどうしても気になっていた。


(ギラウスはオルマ側だったけど、2回目の世界で復活した時はエレイス側だった……まさかクーナ達も当時とは違うのか?)


 結果、メラーフは結論を出すことができず、戦いの傍観を再開した。

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