《84》 破壊
「心葵さん……」
背後からの千夏の声に反応し、心葵は振り返る。
「千夏……ごめん……私、神に等しい力貰えなかった……千夏を生き返らせたかったのに……」
「……いいんです。ほんの一時とは言え、心葵さんの力で会えたじゃないですか。それに……」
千夏は心葵に歩み寄り、心葵の手を握る。小さく柔らかい千夏の手を握り、心葵は千夏との再会を実感した。蘇生能力で出現させた限りなく本物に近い千夏ではない、本物の千夏との再会を。
「私達には舞那さんがいます。必ず、舞那さんなら必ず……神に等しい力を使って、また私達を……普通の女の子にしてれるはずです」
「……千夏も、舞那を推してくれるんだね」
「敵である私が書いたものを、嫌な顔ひとつせずに受け取って、心葵さんに届けてくれたんですから……私の信頼を得るには十分です」
舞那は瑠花を殺し、プロキシーを全滅させ、神に等しい力を得た後に死んだ者を生き返らせる。千夏はそう信じている。
(舞那……私、幸せだった。舞那のおかげで、私は変わることができた。ありがとう……これからは千夏と一緒に、舞那のこと見守ってるよ……)
心葵の翼は消え、変身前の姿へと戻った。
「じゃあ心葵さん、そろそろ……」
「……うん」
◇◇◇
脳天から股にかけて、瑠花の刃が心葵を両断した。エプラルの力による補正と赤の能力により、瑠花の刀は他の赤のアクセサリーとは比べ物にならない程の斬れ味を持っている。
「っ!! この!!」
心葵を、人を殺した瞬間を目撃した龍華は、単独で瑠花に挑む。
(……す……)
心葵の身体が裂かれ、心葵の血と内臓が舞那の視界を染める。
(……てやる……)
両断された心葵を見て、舞那の中から何かが込み上げる。
(……この女を……)
吐き気ではない。恐怖でもない。込み上げるのはただ単純な殺意。ガイやプロキシーに向けたものよりも強く純粋な殺意。
心葵を殺した瑠花が憎い。瑠花を殺したい。瑠花を殺す。殺す。殺す殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
「殺す!!」
舞那の殺意に呼応したかのように、空色の翼は多色の光を纏う。殺意とは裏腹に、虹を司る神に相応しい、神々しく美しい姿である。
「アイリス……私と……同調して!!」
―――……私の力の特性上、完全に同調すれば舞那に苦痛を与える。自分では死ぬことができない、死んだ方が楽だと思える位の……
「いいから……早く!!」
―――どうなっても、私は責任とらないよ!
アイリスは自らの身体を構成している神の力を舞那へと全て移行し、舞那はアイリスと同等の力を得た。刹那、舞那の脳内に膨大な記憶が流れ込む。
流れ込んだのはアイリスの保持している"全ての記憶"。
アイリスの翼を以て使用するローディングは、舞那の記憶の中に存在する力を使っている。しかしローディングの度にアイリスは、その能力を使用していた人間、プロキシーと同調し、その記憶を読み取ってきた。ローディングは、使用元の情報を読み取ることで、初めて能力を使用できる。
今まではアイリスがその記憶を保持し、舞那は自分の記憶だけを保持してきた。しかしアイリスと同調すれば、ローディングしてきた全ての人間やプロキシーの記憶が舞那の脳に流れ込む。
雪希の記憶。心葵の記憶。龍華の記憶。千夏の記憶。理央の記憶。沙織の記憶。日向子の記憶。撫子の記憶。メラーフの記憶……人生数回分の記憶を、人間1人の脳で処理するには無理がある。
「ぅ! うぇぇぅげぇ!!」
悶える程の頭痛。止まらない鼻血。逆流す る胃の内容物。
立つ力は消え、舞那は意識を残したまま倒れる。両手で頭を抱え、吐瀉物を撒き散らしながら呻く。
舞那はプレイヤーになり、痛みにも苦しみにも慣れてきていた。もとい、鈍くなってきていた。しかしそんな舞那でも死にたくなる程、アイリスとの同調は痛く苦しい。
(これに耐えれば……力を得られる……心葵の仇を取れるくらいの力を!)
アイリスとの同調は、常人であれば精神に異常をきたす程の苦行。しかし舞那は苦行の意味を、苦行の先にある強さを求め、自分を強く保っている。
―――もう少し……もう少しの辛抱だから……。
オルマと同じ金色だった髪は、アイリスと同じ空色へと変化していく。さらに服までもがアイリスのものへと変化し、巫女服もどきは白と水色のワンピースになった。
そして遂に、苦しみから解放される時が来た。
―――よく耐えられたね……これでもう、舞那に使えない能力は無い。
息は荒れ、胃液が混じったかのような濁った咳をする。しかし頭痛は癒え、鼻血も止まり、吐き気も治まった。
苦しみの最中に髪色と服が変化したが、舞那は体調が回復して初めて気付いた。
(これが、私の……アイリスの力……)
自らの身体に宿った力を感じながら、舞那は拳を強く握る。
新たに手に入れた力を使い瑠花を止める。そう決意し、舞那は龍華と戦闘中の瑠花を見た。
「っ!?」
舞那が苦しんでいた最中、龍華と瑠花は戦闘を続けていた。悶えていた舞那は、2人がどんな戦いをして、どんな状況にあるのかを把握できていない。
「木場さん!! 掴まって!!」
龍華が手を伸ばし、舞那は咄嗟にその手を掴む。その後龍華は飛行を発動し、舞那を掴んだまま空へ上がった。
「
舞那は上空から瑠花のいる廃材置き場を見下ろした。
直後、廃材置き場から青い光が発せられた。発生源は瑠花。姿は確認できなくとも、瑠花がいること、瑠花が発動していることは分かった。
「壊す……殺す……全部!!」
瑠花の持つ能力の中でも、特に危険性が高い能力、"破壊"。その名の通り、物を破壊する能力である。
「嘘……」
廃材置き場を中心とした半径数百メートル以内に存在する建造物は、停止した時間の中にも関わらず崩れ落ちる。
家も、コンビニも、マンションも、駅も、電柱も、橋も、学校も、音を立てて崩れ落ちる。否、破壊される。
瑠花の発動した破壊は、無差別に、無慈悲に街を破壊していく。
そして、建造物が破壊されたことで、建造物内に存在する人間、及び周辺の人間が被害を受け、停止した時間の中で死んでいく。
普通の人間も、プロキシーになる予定だった人間も、自身が気付かぬ間に潰されて死んでいく。その様はさながら地獄絵図。その地獄絵図の中心で、瑠花は笑っていた。
「今日こそが……終わりの! 始まり!!」
龍華は舞那を連れ、瑠花から逃げた。瑠花は2人を追うことなく、破壊した街を見てただ笑っていた。
◇◇◇
色絵町の建造物複数同時倒壊は、失踪事件以上に世間の注目を浴びた。
局地的な竜巻が起こったわけでも、爆弾が爆発したわけでも、地震が起こったわけでもない。
失踪事件に続き謎の建造物倒壊。生き残った住民達は失った人々を想い悲しみ、原因が分からない身の危険に飛び怯えている。
破壊された建造物に潰され、プロキシーになる予定だった人間は死んだ。偶然にも破壊された範囲内に残りの個体がいたのだ。
これで、銀のアクセサリーにより生み出されたプロキシーは人間は1体残らず殺された。しかし、全滅の代償はメラーフすらも予想していなった程に大きい。
本来であればプロキシーがいなくなった現時点で、神に等しい力を受け取るプレイヤーを決めるはずだった……が、まだ決まってはいない。
神に等しい力を受け取るプレイヤーは、生き残ったプレイヤー全員で話し合い、或いは殺し合いにより決定される。仮にメラーフの推薦枠であったとしても、誰か1人でも反論すれば力は受け取れない。
生き残ったプレイヤーは舞那、雪希、龍華、瑠花の4人。うち、神の力を得ようとするプレイヤーは舞那と瑠花の2人。残る2人は舞那を推薦。
舞那が力を得るには、瑠花を殺す、或いは瑠花を説得しなければならない。対して瑠花が力を得るには、舞那、雪希、龍華の3人を殺すか説得しなければならない。圧倒的劣勢に立たされた瑠花だが、瑠花は一向に引かない。
舞那、龍華、瑠花の3人は神の生まれ変わりであり、神の翼を持ったが、身体は人間であり神ではない。真に世界を変えようとするのならば、この戦いを生き延びる必要がある。
神のみぞ知る、とはよく言うが、この戦いの結末は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます