《83》 干渉

「……木場さんに風見さん。聞いた通り、羽黒瑠花は人類の敵になった。エプラルの力を使えば、もう核兵器でも殺せない。羽黒瑠花を殺せるのは私達だけ……いい?」


 瑠花の本性が暴かれ、龍華は舞那と心葵に瑠花が"敵"であることを確認した。


「……そうしなきゃ、私達どころか人類が生きられない……となれば、従わないはずない」

「舞那がそうするなら、私もそうする」


 舞那も心葵も同意し、


「「変身!!」」


 瑠花に歩み寄りながら変身した。

 変身と同時に2人の背中から翼が生え、直後に光の翼を発動した。


「3対1……さすがに卑怯じゃない?」

「誰が3対1って言った?」


 心葵は蘇生を発動し、変身後の状態で千夏を蘇生させた。


「4対1の間違いじゃない?」

「ぁぁぁああああああああ!! なんでどいつもこいつも私の邪魔をする!!」

「あんたが人間の敵だからだっての!!」


 龍華の声を引き金に、瑠花を包囲する舞那達は一斉に能力を発動、攻撃を開始した。

 舞那は瞬間移動をローディングし、瑠花の斜め後ろに移動、光の刃を発動した。

 心葵は自身と千夏に幻影を発動し、死角から瑠花へ攻撃をする。

 龍華は大鎌を硬化し、瑠花の胴体めがけ振り上げる。

 4人の同時攻撃は、ガイ以外の代行者であれば確実に殺せる程の強さを持つ。しかし相手はエプラルの生まれ変わりである瑠花。代行者では何百年費やしても比肩することはできない強さを持っている。


「っ!?」


 1番最初に瑠花に触れたのは、舞那の光の刃だった。相手がプロキシーや代行者であれば、確実に切り裂いていた。


(刃が……!!)


 光の刃は瑠花に触れる寸前に消滅。舞那の攻撃は瑠花に届かなかった。しかし攻撃が届かなかったのは舞那だけではない。


「「っ!!」」


 幻影で姿を隠し、死角からの攻撃を狙っていた心葵と千夏。しかし2人の武器が瑠花に当たる寸前、幻影は強制的に解除され、2人の姿が瑠花に確認された。そして、


「ぅぐっ!」


 瑠花は驚異的な速さでチャクラム、ハルバード、大鎌を回避し、龍華の腹部へ光を集約させた蹴りを当てた。

 硬化していたとは言え、予期せぬダメージを受けた龍華は後方へ飛ばされた。壁に激突するかと思われたが、咄嗟に飛行を発動したため空中に留まれた。


(まさか雪希ちゃんの高速移動……いやそれ以前に、光の翼も幻影も効かなかった……考えたくないけど、これが羽黒さんの力?)


 翼を生やした瑠花は舞那達同様、メラーフが作ったアクセサリーとは別の能力を使用できる。つまり、メラーフやプレイヤーが把握していない能力を戦闘で使える。


「私の翼は誰にも真似出来ない……私だけのちからだ!!」


 4人同時攻撃の際に発動された瑠花の能力は2つ。

 1つは"能力無効化"。体表から約15cm程度の結界を身体に纏わせ、結界範囲内に入ったアクセサリー、プロキシーの能力を無効化する。光の刃はアクセサリーの実体ではなく能力で作り出しているため、結界内に入った時点で消失する。幻影も同じく、身体かアクセサリーが結界に当たった時点で、幻影が解除された。

 もう1つは"時間への干渉"。ガイやメラーフのような時間停止ではなく、瑠花の場合は自己意識の加速による干渉。この能力を使えば、他の人間が体感する時間を、瑠花は5倍の時間で体感できる。能力使用中は周りの風景はスローモーションのように見える。さらに干渉中は通常通りの行動が可能。

 先程の攻撃は龍華達にとって一瞬の出来事であったが、瑠花はその一瞬の5倍の時間を体感し、未来予知と合わせアクセサリーによる攻撃を回避していた。


(多分羽黒さんには光の刃も盾も効かない……どうすれば……)


 瑠花が能力無効化を使える以上、アクセサリーの利便性ではなく能力に頼る舞那は明らかに劣勢。

 ハルバードやチャクラムといったアクセサリーであれば、能力を使えなくとも戦闘自体は行える。しかし舞那の所持するアクセサリーは鉄扇と盾と銃。さらに銃は実弾ではなくあくまでも能力に部類されるため、撃ったところで瑠花には当たらない。

 舞那は戦闘中にも関わらず、自らに戦力外通告を言い渡す。誰かの意見も聞くことなく。


 ―――向こうが神の力を使うなら、こちらも神の力を見せてやろう。


 デウスの声に従った訳では無いが、龍華はデウスとの同調により得た能力を発動しようと、アクセサリーに光を集約させた。

 しかし直後、龍華の翼は形状の変化を開始。

 翼の3色に分かれた境目が開き、中から紫の光が漏れる。光は紫のガラスの様に透き通っており、光の翼のように光り輝いている。


(もしかしてこれ……光の翼? それにしては見た目あんまり変わってないけど)


 "それ"は他の翼のような変化ではなく、明らかな変形。他のプレイヤーのような光の翼ではないように見える。ただ生物的ではない翼であるため、ビジュアル的には悪くない。


 ―――この翼は変形できるのか……まあそれは後だ、とにかく今は彼女を倒すことだけを考えろ。


 翼の変形は、元の持ち主であるデウスすらも把握していない。

 しかしデウスは、翼の変形により龍華の身体能力が向上したことに気付いた。そして龍華は、今まで使えなかった新たなる能力を完全に会得したことを理解した。


「これが私の新しい力……!」


 龍華が能力を発動する直前、翼の光が若干強くなった。


「止まれ!!」


 龍華が使用した能力は、瑠花やメラーフ同様に"時間への干渉"。龍華の場合は瑠花とは違い、自身及び指定した人物以外の全ての時間を停止させる。しかし龍華の発動した時間停止は、メラーフの時間停止とも違っている。


「狭いから場所変えるよ!!」


 時間停止を受けなかった舞那と心葵と千夏に呼びかけ、龍華は飛行を発動。停止しているはずの瑠花を持ち上げ、店内から飛び去った。

 本来、時間停止中は停止している物体への干渉は不可能。仮にアクセサリーで攻撃したとしても、一切ダメージは与えられず、位置の変更等も不可能。

 しかし龍華の発動した時間停止は、停止している物体への干渉がある程度可能であり、停止中の物体の位置変更が可能。ただダメージは与えられないようではあるが、物体の位置や向きを変えられるのは十分な武器となりうる。


「ちょ、待って犬飼さん!!」

「千夏! また後で呼ぶから一旦戻って!」


 舞那と心葵は翼を羽ばたかせ飛躍。翼を持たない千夏は一度消え、次の心葵からの呼び出しを待つこととなった。

 龍華の翼とは違い、舞那と心葵の翼は空を飛べる。しかし龍華の飛行能力と舞那達の飛行スピードでは速度に圧倒的な差があるため、追うものの一向に距離が縮まらない。

 舞那の場合は飛行をローディングできるが、心葵と共に移動したいがために通常飛行を続けた。


(っ! ここならいいかも)


 広すぎない、ある程度暴れても問題ない広さを確保し、尚且つ人が普段立ち入らない。加えて、瑠花が恐らく知らないであろう場所。龍華の求めた条件に合った場所は、案外簡単に見つかった。

 龍華はその場に降り立ち、瑠花を地面に寝かせた。

 遅れて舞那と心葵がその場所の上空に到着し、龍華を確認した後に降り立とうとした時、2人は上空から見たその場所を見て降下を止めた。


「ここって……」

「……千夏が、死んだ場所」


 そこは、かつてプロキシーと化した千夏が心葵と対立し、心葵のハルバードに命を奪われた廃材置き場だった。廃材は以前よりも増えており、一向に片付く気配がない。


「……行こう舞那、止まってても仕方ない」


 舞那と心葵は再度降下し、廃材置き場に着地した。


「私、そんなに速く飛んでた?」

「追いかけるのが嫌になる程ね。それより、さっきの羽黒さんの力なんだけど……」

「……多分、能力の無効化。仮説だけど、無効化の条件は一定距離に近付くこと。状況から察するに、適応範囲はそこまで広くない」

「私達は能力を無効化されて、羽黒さんは能力を使える、か……私達勝てるかな?」


 心葵の弱気な発言に、舞那と龍華は口を閉ざした。

 瑠花は身体能力強化、疲労、未来予知に加え、舞那達が把握していないであろう未知の能力を秘めている。

 仮に能力に頼らず戦おうとしても、瑠花が能力を使える以上舞那達は劣勢。いくら舞那達3人は翼を持っているとは言えど、このまま瑠花に挑むのは得策とは言えない。


「……そうだ……もしかしたら、木場さんがアイリスと完全に同調すれば、私達みたいに新しい力を得られるかも」

「っ!? なんでアイリスのこと知ってるの!?」


 龍華達は、舞那に翼が生えたことをメラーフ経由で知った。しかし舞那が夢の中でアイリスと合い、アイリスの力を使っていることは聞いていない。即ち、龍華からアイリスという名が出ることはありえない。


「今の私には、神として生きた前世の記憶がある。木場さんの背中から生えてるそれは、かつて私が見てたアイリスの翼と全く同じ。それに、他のアクセサリーの力を使えるってとこも、なんだかアイリスらしいと思って……」

「……確かに、私はアイリスの力を借りてる。けど、これ以上の同調なんてできるの?」

「できる。だって……木場さんはアイリスの生まれ変わりだもん」


 予想もしていなかった龍華の一言に、舞那は驚愕した。


「アイリスはいつも仮面を被ってたから、殆どの神は彼女の素顔を見たことがない。けど、私はアイリスの素顔を1度だけみたことがある」


 夢の中で出会ったアイリスは、横を向いていたためそもそも顔が見えなかった。それ故に仮面を付けていたのか、それとも付けていなかったのかも分からない。


「優しい目と柔らかそうな頬が特徴的で、一目見ただけで脳裏に焼き付くほど可愛かった。そんなアイリスに……木場さんはよく似てる」

「私が……」

「アイリスの力があれば、羽黒さんを止められるかもしれない」



「残念でした」

「「「っ!!」」」


 停止していたはずの瑠花は動き、舞那に刃を向けた。


「舞那!!」


 舞那の名を呼ぶ心葵の声が聞こえた時、舞那の視界は鮮血で赤く染った。


「~っ!! 心葵ぁぁぁぁぁ!!」


 舞那を庇った瑠花の血で。

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