《82》 飛べない翼
瑠花の敵は、プロキシーとプレイヤー。
翼を生やした雪希を見て、瑠花は雪希をプロキシーであると、倒すべき敵であると確信した。元よりプレイヤーである時点で、雪希は瑠花の敵ではあったのだが。
しかし、ガイの発動した促進の影響もあるが、瑠花は自らの意思で翼を生やした。
「あの日ガイの叫びを聞いた時、私の脳内に知らない記憶が現れた。あの後私は断片的な知らない記憶を何度も繰り返した……そしたらさぁ、私の前に現れたの……」
「現れた?」
「そう……エプラルが現れた」
エプラル。その名を聞いた時、傍聴していたメラーフは驚愕した。
かつて神の1人として生き、力を剥奪され堕落したエプラル。その後のエプラルはどこでどのような行動をしたのか、どこでどのように死んだのか。メラーフでさえも知らない。
「エプラルは教えてくれた……私はエプラルが転生した姿だって。あの記憶は前世の私の記憶だって。私の翼は紛い物のプロキシーの翼なんかじゃない……本物の! 神の翼だって!!」
「神の生まれ変わり……!?」
◇◇◇
2日前。瑠花の夢の中に現れたのは、青い翼を生やし、変身後の瑠花と同じ服を着た女性。女性はエプラルと名乗り、瑠花に質問をした。
「あなた……なぜ仲間のはずの彼女達と敵対するの?」
瑠花はそれが夢の中の出来事であると気付いていた。しかし夢の中の虚像からの質問に、少し沈黙を挟んだ後に回答した。
「……この世界を終わらせる。愚劣で無能で短慮で蒙昧で無神経で野蛮で悪徳で理不尽で最低で最悪な人間を全員残らず殺して、私だけが満足に生きられる理想郷を作る! もううんざりなのよ……こんな腐敗しまくった世界で生きるのは!!」
瑠花がアクセサリーを拾った直後、瑠花の両親はプロキシーに関わり死んだ。父親がプロキシーになり、母親を捕食した。
メラーフの説明を受け、生き残れば神に等しい力を得られると理解した瑠花は、躊躇うことなくプレイヤーになることに決めた。
他のプレイヤーがプロキシーに初めて遭遇した際は、基本的に変身できなかったため戦わない。出会ったプロキシーはメラーフの能力で別の場所へ移され、他のプレイヤーに殺させる予定だった。
しかし瑠花はその場で変身して見せ、メラーフを驚愕させた直後に父親を殺した。母親を食った父親を、自らの理想の糧とした。それ以降、瑠花は常に自らの理想を掲げ、神に等しい力を得るためにプロキシーと戦い続けている。
「プレイヤーを殺して、一般人もみんな殺して、私は新しい世界で生きる。人間もいない兵器もない文明もない新たらしい世界で……神として一人静かに生きる! その夢を叶えるために、私はプレイヤーになった……そのために夏海と玲奈を殺した」
「……いい……! さすがは"私"だね」
この時、エプラルは瑠花に告げた。「君は私の生まれ変わり」と。
無論、瑠花は驚いた。神になろうとする瑠花自身が、元は神であったということに。
「私は私自身の欲求を満たし、同時に瑠花の夢を応援する。そのために、私は瑠花に力を与える」
「これは……!」
エプラルの背中から生える翼は光の粒子となり、瑠花の背中へ移る。光の粒子は徐々に翼の形を模し、最終的にエプラルの翼と同じ翼を生やした。
「瑠花の夢は私の夢……頑張って叶えてね」
◇◇◇
(羽黒瑠花がエプラルの生まれ変わり……だとすれば、身体に変色が起きなかったのも、翼を完全にコントロールしているのにも納得できる。廣瀬雪希と風見心葵はコントロールしていたが変色していた、つまり彼女達は神の生まれ変わりではない? では変色しなかった木場舞那は……)
瑠花の話を信じたメラーフは、「瑠花が神である」ということよりも「舞那が神であるか」ということが気になっている。しかしメラーフでも人間の前世など知れるはずもなく、また仮説を証明する術もない。
「神の生まれ変わりである私が生き残って、私はまた神になる……神になって、この世界を終わらせる!」
「させないっての。それより、私も気付いたことあるんだけど」
龍華はアクセサリーを取り出した。
「私、前にプロキシーと戦ってる時、知らない人の声が聞こえたの。その声は、ガイが死んだ日に見た知らない記憶の中の声と一緒だった」
プロキシーが大量発生した日、龍華の脳内に知らない女性の声が流れ込んできた。その声の主は龍華に「近いうちに神の力を得る」と言い残し、そのまま消えていった。
龍華はその日以降、声の正体と神の力の正体をずっと考えていた。
「あの記憶が前世の記憶なら、私は……多分、神だった」
そして瑠花曰く、ガイが死んだ日に見た記憶は前世の記憶。記憶の中で、瑠花の視点にいた人物は幾人もの神を従えていた。
声は幼く、手足も細い。幼児体型というよりもただの幼女。しかし幼女の身体の数箇所からは、機械のようなものが露出している。恐らくその幼女の身体は機械仕掛け。本当に神を従えていたのであれば、幼女は機械であり神だと考えられる。
「その声の主は、私が近いうちに神の力を得るって言ってた。近いうちにってのが、多分今日のこと……変身」
龍華はアクセサリーを武器に変化させ、身体に白と黒の光を集約させた。
―――ようやく話せる時が来た。
龍華の脳内に、またしても幼女の声が流れ込む。そしてあの日同様、メラーフを含めた龍華以外の全ての時間が止まった。
―――君はこれから、私の力……神の力をその身体に宿すことになるが、恐らく耐え難い激痛が走るだろう。
「大丈夫……痛いのには慣れてる」
―――そうか……っと、名乗り遅れた。私は"デウス"。前世の君だ。
「……相手が神で自分も神、か……なら、勝てるよね」
―――ああ。共に戦おう。
「羽黒瑠花を……」
―――エプラルを……
「「倒す!!」」
龍華の服は光の粒子へと変化し、粒子は再度龍華の身体を纏う。
光が弾け、龍華の服は白黒紫の3色のドレスへと変わった。
ドレスは背中開き。スカートの前部分は膝丈、後部分は地面スレスレ。この服は黄のプレイヤー同様、戦いには向いていないようにも見える。
服が変わったと同時に髪色も変わった。黒髪をベースとし、白と紫のメッシュが目立つ。
「まるで着てないみたいに軽い……これが神の服なの?」
―――我々の服は君達とは違い、布を使わず光で作られている。君達が変身した時に纏う服も光で作られているが、光の純度が低い分人間の衣服に近くなっている。君同様、
「光ってことは実質全裸なんじゃ……まあいいや。ところで、なんで私の翼はこんななの?」
龍華は服が変わってからずっと気になっていたことがあった。それは、自らの背中から生えた翼。その翼は生物的ではなく、さながら翼を模した鋼。羽毛も無ければ骨もない。筋肉も無いため空も飛べない。完全な無機質。
小雨覆から小翼角羽にかけては紅桔梗。
大雨覆から初列雨覆にかけては黒。
三列風切から初列風切にかけては白。
他のプレイヤーの翼よりも硬く、尚且つ羽の先端は刃の様に尖っているため、おそらくは翼だけでも十分な武器になりうる。
―――私の翼は"創世神"が直々に作ってくれた特別製で、朽ちず壊れずの翼なんだ。これが機械仕掛けの神と呼ばれる所以だ。創世神の趣味丸出しだけど、私自身この翼は気に入ってる。
「創世神の趣味ねぇ……今度、その創世神について教えて。そんじゃ、やろう!」
龍華の意志に呼応し、止まっていた時間が動き始めた。
「「「っ!?」」」
時間が止まっていた間のことは、龍華以外の誰も認識していない。故に、龍華の変化は一瞬の出来事。舞那も瑠花も心葵もメラーフも、一瞬で変化した龍華の姿に驚愕した。
―――感じているだろう、私の力を。この力はもう君のもの……と言うか、私の生まれ変わりなんだよね……とにかく、君が感じている力は全て使える。好きなだけ力を使い、好きなだけ戦ってくれ。
(あれは……デウスの翼!?)
傍観していたメラーフは龍華の一瞬の変化よりも、龍華が背中から伸ばした3色の翼に衝撃を受けた。
その翼はかつて最高神として神々を統べ、エプラルから神の力を剥奪した神、デウス・エクス・マキナの持っていた翼と全く同じ見た目をしている。
「その翼……まさか!!」
「そう。神の生まれ変わりはあんただけじゃない。あんたの中にいる神なら、この翼……見覚えがあるんじゃない?」
デウスの力と同調し、デウスの記憶を共有した龍華は、エプラルの力を剥奪したことを思い出した。
対する瑠花もエプラルの力と同調したため、エプラルとしての記憶を保持している。そして、デウスに力を剥奪されたことも、龍華の翼が憎きデウスのものであることも、龍華の纏った服がデウスのものであることも覚えている。
「……エプラルから力と尊厳を奪ったデウス・エクス・マキナ……! 私が殺すべき神の翼!!」
湧き上がる怒りが頂点に達し、瑠花は光の翼を発動した……かに見えた。
生物的だった瑠花の翼は、石化するかのように徐々に青黒く硬化していく。そして翼全体が硬化した直後、翼の表面は一斉に砕け散り、青い宝石のような光の翼が姿を現した。
その翼は、さながらベニトアイトで作られた芸術品。ガラスのように透き通る他の光の翼とは違い、鉱物のように翼の中で光が反射している。
それはまるで、瑠花とエプラルの狂気を結晶化したかのような、禍々しく美しい翼だった。
「決めた……今から私は人間を辞める……人間を辞めて、お前を殺し! 世界を終わらせる!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます