《78》 ガン○ム

 黄の銃弾を回避し、白の槍を突き出す。

 白の槍を回避し、赤の刀を振り上げる。

 赤の刀を硬化で受け、黒の鎌を引き寄せる。

 黒の鎌を青の盾で受け、未来予知を使用し銃弾を放つ。

 3色のアクセサリーを使う瑠花と、2色のアクセサリーを使う龍華。変身後の身体能力変化は瑠花の方が上だが、元々身体能力が高い龍華は力の差を補える。

 戦闘能力だけをみれば、2人の力量は互角。


「はぁああ気持ちいい……これだから戦いは止められない!」


 瑠花は顔を紅潮させ、狂気の笑みで攻撃を繰り出す。その目はさながら、性の悦びを知ってしまった多淫な痴女。

 対する龍華は快感を押し殺し、攻撃の回避、瑠花への攻撃に神経を集中している。

 戦闘能力は互角だが、瑠花には赤と青のアクセサリーがある。能力は使用していないが、もしも2つのどちらかを使えば戦況は大きく傾く。

 ただ、瑠花は戦いを楽しんでいる。もしも赤か青を発動すれば、龍華は劣勢になる。そうなれば、戦いの決着が近づく。瑠花は戦いをできる限り長引かせ、楽しめるだけ楽しもうとしているため、敢えて能力は使用していなかった。

 しかし龍華はそれに気付いている。正確には、瑠花の性格から能力を発動しないことを予想していた。そして、この戦いは決着がつかず終わることも予想している。なぜなら、瑠花はアクセサリーを3つ使っている分、龍華よりも消耗が激しい。

 長期戦を望む瑠花だが、体力にも限界があるためそれは不可能。確実に途中で勝負を中断し、次回に持ち越す。そう予想した。


(最悪、勝負を中断した直後に……って、それはさすがに汚いよね。倒すのはまだ先……私がもう少し強くなってから!)


 戦えない状態の相手には攻撃しない。一瞬、龍華は不意討ちを考えたが、自らの中にある信念によりその考えは消えた。


「ぐっ!!」


 龍華の防御は厚く、瑠花の飛び蹴りは鎌の刃に跳ね返された。後方に飛ばされる瑠花だったが、身体能力強化、及び未来予知を使用し、地面への激突と衝撃を回避した。


「「はああああ!!」」


 2人は武器を持ったまま、互いに距離を縮める。しかし、


「そこまで!!」


 龍華と瑠花の間に、突如として変身した雪希が現れた。雪希は左手に日本刀を、右手に七支刀を持ち、威嚇するように龍華と瑠花へ刃を向ける。


「雪希……」


 思わぬ仲介により、龍華と瑠花は武器を下げた。2人の戦意が失せたことを確認した雪希は、ゆっくりと両手の武器を下げた。


「プロキシーはまだいるし、ガイがまだ生きてる……今はプレイヤー同士で争ってる場合じゃない!」


 メラーフは2人の戦いを傍観し、雪希には告げ口していない。しかし危機感知能力が無意識に働いたのか、雪希は散歩としてこの周辺を歩いていた。その結果、雪希は2人の戦いを目撃し、2人の間に割って入った。


「龍華、気持ちは分かるけど……今はプロキシーの全滅が先。全部終わってから決着をつけよ?」

「……ごめん雪希、先走った」


 雪希の仲介により、龍華はこれ以上の戦闘は不要と判断。変身を解除した。

 龍華が変身を解除したことで、高まっていた瑠花の熱は急激に下がった。


「……あーあ、つまんないの。せっかくいい感じだったのに」


 瑠花は変身を解除し、アクセサリーをカバンへ入れようとした。


「全く……このまま争ってくれればよかったのに」

「「「っ!?」」」


 完全に油断していた。この場この瞬間に現れるとは思っていなかった。


「ガイ……!!」

「ま、これはこれでいいかな」


 突如現れたガイは、雪希達の目の前で光の翼を発動した。


(翼を持った人間は自我を失うと思ってたけど……この人間達で試して、偽証を確証にする!)


 心葵だけでなく舞那まで翼を手に入れたが、両者共に自我を保っている。

 ガイの目の前で、撫子は確かに自我を失った。ガイは自らの目でみたことを信じ、プロキシーと化した人間が暴走することを確認しようとしている。そしてメラーフは以前から抱いていた目的のため、光の翼の能力である促進を発動した。


 ◇◇◇


 同時刻、舞那は寄り道することもなく、プロキシーやメラーフに遭遇することもなく、炎天下の中帰宅した。


「ただいまー」


 玄関のドアを開け、舞那は靴を脱ぐ。2階から階段を伝い下りてくる風で、玄関は少し涼しかった。


「おかえりー」


 中から父、誠一の声が聞こえた。舞那は1度自室に入り、鞄を置いた後リビングへ移動した。リビングのソファに座り、誠一は死んだような目でテレビを見ている。

 誠一が見ているのは90年代のロボットアニメ。誠一はこのアニメのシリーズのファンであるが、舞那は一切興味を示していない。

 時折誠一は「まだ終わらんよ」や「いきまーす!」などシリーズの名言を口走り、舞那が帰る直前には「シャイニングゥゥゥフィンガーァァァァ!!」と叫んでいた。しかし舞那にはそれが誰のセリフなのか、ましてやどんな状況で発したセリフなのか分からないため、名言をなどを口走っても基本的に無視している。

 死んだ目になる程疲れている誠一だが、子持ちの成人男性がアニメを見ながら必殺技の名を叫んでいるのはなかなか異常は光景である。


「お父さん仕事は?」

「暫く編集に拘束されたから今日は休み。久しぶりに外食でもしようかとガ○ダム見ながら待ってました。何か食べたいものある?」

「んー……お寿司……とか?」


 寿司は好きだが暫く食べていない。それを思い出した舞那は、誠一の財布の中身を確認することなく寿司を選んだ。


(まだ味覚が残っているうちに、好きなものを食べておこう)


 心葵とは違い、舞那の味覚は消失していない。

 しかし舞那は、自らの味覚はいずれ消失すると考えている。そして味覚のあるうちに、美味しく食べられるものを食べておこうと考えた。


「じゃあ着替えてくるから、ちょっと待ってて」


 舞那は再び自室に戻り、外出用の服に着替えた。念のためにアクセサリーをバッグに入れたが、結局この日、舞那がアクセサリーを使うことはなかった。


(今更気づいたけど、食べ物の味を感じられるってすごく幸せなんだな……)


 大切なものは失ってから気付くとはよく聞くが、舞那は失う前に味覚のありがたみを理解した。


(今日は苦しくなるまで食べて、帰りにコンビニで甘いものでも買ってもらお)


 舞那が着替えている間に、別の場所で雪希達はガイと遭遇している。しかし舞那はその事に気付くはずもなく、久しぶりの親子2人の外食に胸踊らせていた。

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