《77》 相対す
「じゃあね
「うん、また明日」
心葵は駅前で友人と分かれ、イヤホンで音楽を聴きながら帰路につく。
舞那の腕を食べた日から、心葵の食人衝動は抑えられている。本能に身を任せ、愛する人間を喰うという愚行が抑止力となったのだろう。
(あれ?)
道路を挟んだ向かい側の歩道を、龍華は1人で歩いていた。龍華に気付いた心葵だったが、車や人の通りもあったため声はかけず、そのまま家に向かった。
(ま、いっか)
龍華は心葵に気付くこともなく、目的の場所を見据え歩く。
向かう先は
◇◇◇
叡成高校の正門近くで、瑠花はスマートフォンのオンラインゲームをプレイしていた。イベントのクエストを終え、瑠花はスコアランキングを確認する。
上位ランカーが名を連ねる中で「Ruka」という名のプレイヤーがランキング2位に存在している。その名の通り、正体は瑠花。
微課金で下位のプレイヤーを踏みつけ上位に名を残したことで、瑠花は優越感に浸っている。
毎度のことだがイベント中、瑠花は決してランキング1位を取らない。1位になれば、その時点で「超えるべき目標」である存在が消えるためである。故に瑠花は2位3位を維持し、イベント終了直前に1位の座をもぎ取る。
その度に瑠花は頂点に立った優越感と達成感に浸り、オーガズムにも似た感覚に陥る。
「羽黒さん」
「……思ってたより早かったね。そんなに私に会いたかったの?」
前日、龍華はクラスメイト経由で瑠花を呼び出し、叡成高校正門近くで待ち合わせていた。
龍華は事前に瑠花の情報を収集していた。瑠花の性格、交友関係、住所はもちろん、その性格を踏まえた「発言や行動のシミュレーション」も完了している。
「場所を変えよう。できるだけ、人が少ないところに」
「……いいよ」
◇◇◇
龍華と瑠花は場所を変え、人通りの少ない場所として川沿いの土手へやってきた。昼間や午前であれば人通りの多い土手だが、この時間になれば人通りは少ない。
「こんなところに連れてきてどうするの? まさか私の身体が目当て、とか?」
「……つまんない冗談吐くのはやめたら? 友達減るよ。というか、実際減ったもんね」
瑠花の顔から笑みが消え、一瞬にして戦闘時と同じ表情へと変わった。
「あんた、仲間殺したの?」
水澤夏海と高雄玲奈は死んだ。先日、瑠花はメラーフにそう言った。メラーフはその情報をそのまま龍華に伝え、龍華は瑠花が2人を殺した(あくまでも仮定)理由を探ろうとした。
瑠花と死んだ2人は仲が良く、3人1緒に見かけることが殆ど、とクラスメイトは語っている。別の生徒からの情報によると、瑠花が喧嘩をしているところは見た事がなく、件の2人を含め、友人をとても大事にしている。
そんな瑠花が、親友とも言える2人を殺せるのか。或いは殺していなくとも、なぜ2人の死を悲しむ素振りもなく軽々と「死んだ」と発言したのか。
メラーフも瑠花の真相が気になっているのか、ここ数日常に瑠花を見ている。無論、今も2人のやり取りを見ている。
「人聞き悪いなぁ……夏海と玲奈は私に力を与えるために、自ら命を投げ出した。だから私は2人を殺し、自らの力とした。言わば、2人は私のために死んでくれた」
「……自殺した、ってこと?」
「違うよ。2人は命を捧げたけど、自殺じゃない」
「つまりあんたが殺したってことね。自分が強くなるために2人を殺して、2人のアクセサリーを奪った。違う?」
瑠花は口を閉じ、左手で後頭部を掻いた。
龍華の集めた情報によれば、瑠花には図星を突かれた際、及び嘘をつく際に頭を掻く癖がある。
動作を見逃さなかった龍華は、瑠花が2人を殺したということを確信した。
「私は最初、できればプレイヤーを誰1人死なせずに事を収めたいと思ってた。けど、プレイヤー達は戦いの中で死んでいった。プロキシーと殺し合いしてるんだからそれは仕方ないことだって分かってる。でもプレイヤーがプレイヤーを殺すなんてやっぱり良くない。私はそう思ってる」
龍華はこれまで、プレイヤー数人のアクセサリーを破壊し、そのプレイヤーを戦線から離脱させてきた。それでも、龍華はプレイヤーの命は1度も奪っていない。
スクールカーストの頂点に立つ龍華は、スクールカースト底辺の人間から"悪魔"だと恐れられている。それほど学校では荒れていた。
しかしその悪魔の実態は、スクールカーストの頂点に立つことで生徒を統率し、誰も悲しまない、誰も苦しまない学校を作ろうとする、誰よりも優しい人間である。
誰よりも優しいからこそ、プレイヤーのアクセサリーを破壊し、戦いから遠ざけさせていた。そんな龍華が、プレイヤー同士の殺し合いなどを好むはずがなかった。
「……あのさぁ、何か勘違いしてんじゃない?」
「……何が間違ってるの?」
「プレイヤーを殺さず、誰の死も越えずに生きる? プレイヤーである私達に、そんな甘い考えは通用しない」
瑠花の脳裏に、かつての友人である水澤夏海と高雄玲奈の顔が過ぎる。プレイヤーになってしまったがため、瑠花は2人の友人を失い、2人の死を背負い生きることとなった。
それを自覚しているからこそ、瑠花はプレイヤーとプレイヤーは共存できないと考え、龍華の考えを否定した。
「あんただって、プレイヤーを殺したんじゃないの?」
「生憎、プロキシー以外は誰も殺してない。私はあんたとは違う」
「ふぅん。まあでも、殺してなくてもあんたはプレイヤー……私達は同類よ。戦うために人外の力を身体に宿した薄汚い
「……かもね。それでも、私はあんたとは違う……私は、力を得るために友達を殺したりなんてしない!」
かつてアクセサリーを失った龍華は、力を持つ舞那達に劣等感を抱いていた。しかし舞那達を殺してまで、自らが力を得ようとは思えなかった。
今の龍華は金のアクセサリーや銀のアクセサリーといった強力なアクセサリーも、心葵や舞那のような翼も持たない。それでも、強くなるための犠牲は望んでいない。
「神に等しい力になんて興味はない……けど、あんたにだけは絶対に渡さない!」
「……いいねぇ。なら私とあんた、どっちが生き残るか、今から決める?」
瑠花は3色のアクセサリーを取り出し、誘うように龍華へ見せる。
対する龍華はその誘いに乗り、白と黒のアクセサリーを取り出す。
2人はそれ以上の言葉を交わすことなく、同時にアクセサリーを武器へと変えた。
「「変身!」」
赤青黄3色の光に包まれる瑠花と、白黒2色の光に包まれる龍華。
光が弾け、互いに変身した姿を見せあった直後、2人は互いの武器を交えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます