《79》 謎の記憶
「はあああ!!」
唯一変身を維持していた雪希が、光の翼を発動したガイに攻撃をした。しかしガイの翼の持つもう1つの能力、時間停止により、雪希の攻撃は回避される。
(そっか、止まった時間の中じゃ促進は効かないのか)
メラーフやガイが時間を止めれば、その間止められた人間は一切の干渉を受け付けない。ガイの促進やプレイヤーの能力は勿論、例えそれが人間を1秒で死滅させる能力であったとしても、止まっている人間には効果が及ばない。言わば、止まっている間のみ、人間は無敵。
ガイは雪希の背後に移動し、時間停止を解除した。
「やっぱり!」
「っ!?」
雪希のプレイヤーとしての戦闘経験は、全プレイヤー中最多。故に戦闘における相手の行動の予測なども、相手によるがある程度は可能。
もしもその相手が複数回戦っている相手であれば、相手の行動予測は比較的容易。特に時間停止を使えるガイや、瞬間移動を使える橙のプレイヤーであり、尚且つ能力を誇示するタイプであれば、これまでの経験から"背後に移動する"と読める。
(急場にしては条件は最高……これなら!)
雪希は属性操作"闇"を発動した。そしてその直後、ガイ達の目の前から雪希が姿を消した。
ガイは危険を察知し、再度時間を停止させ周囲を見回した。しかしどこにも雪希の姿は見当たらず、ガイは龍華と瑠花から離れ時間を動かした。
「~っ!!」
直後、4本あるガイの翼のうち右側の2本が切り落とされた。
「どこに……いた……!!」
激痛に耐えながら、ガイは背後にいた雪希から距離をとった。
「私はずっとガイの傍にいた。気づかなかっただろうけどね」
属性操作の1つである"闇"は、影と融合し、影から影への移動も可能。しかし闇の発動には条件があるため、雪希はあまり使用しない。
融合できる影には制限があり、自分から伸びている影との融合は不可能。加えて、影から影への移動が可能だが、融合時には、必ず融合する影を1度踏まなければならない。
戦闘中に"相手の影を踏む"という行為に集中するのはほぼ不可能な上、時間帯によれば確実に踏めないような狭い影しか現れない。以上の点から、闇は使えば凄いが使うまでが面倒だということが分かる。
しかし、今は闇を発動するには絶好のタイミングであった。
日は傾き、影も斜めになった状態で、雪希は日に背を向けていた。その後、ガイは雪希に対面する形で現れた。この時点では、雪希はガイの影にも、龍華達の影にも触れていない。
雪希は日に背を向けたままガイに攻撃したが、事前に雪希はガイが背後に回ることを予期し、闇の発動を準備していた。
そしてガイが雪希の背後に移った時、ガイは日に背を向け、影は雪希の方へ伸びた。
その結果雪希はガイの影を踏み、闇の発動でガイの影と融合した。
その後、ガイは別の場所に移動し、自信が日に対面する形で時間を動かしてしまった。ガイの背後に伸びる影から雪希は出現し、赤の刀でガイの翼を切り落とした。
ガイが銀のアクセサリーの能力を全て知っていれば、翼を切り落とされることもなかっただろう。
「っ!? 翼が!!」
片方が切り落とされたことで、光の翼は解除。能力が使用できなくなった。
「2人はさっきまで戦ってたから消耗してるでしょ。これ以上の戦いはやめた方がいい……ガイは、私が殺す」
雪希は龍華と瑠花の消耗も考え、自分1人でガイの相手をすることに決めた。龍華と瑠花は無駄に争ったことを悔い、雪希の考えを飲んだ。
「……翼は落され、時間も止められなくなった……だけど!」
血が流れるまで唇を噛み、爪が食い込むまで拳を握る。痛みと屈辱を振り払うかのように、ガイは光を集約させた右腕を強く振った。
「私は代行者の中でも最も神に近付いた存在! 人間ごときに敗れるなんて許されない!!」
光を集約させた腕から、ガイの肌全体が灰色に変色してゆく。その様子はさながら、人間がプロキシーへと変化する様に酷似している。
元々翼が生えている時点で人間の姿ではなかったが、皮膚が変色したことでさらに人間から遠ざかってしまった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
鼓膜が破れるかと思う程の高音の叫び。声の波は聴く者全ての脳内に流れ込み、誰も予想をしなかった効果を及ぼした。
「え?」
「何……?」
「うっ!」
「~っ!?」
「……!!」
「あ……」
「これは……」
「えっ!?」
「あれ?」
「っ! いや……いやあああああああ!!」
障壁すら貫通するガイの声を聞いた人々の脳内に、「自分の知らない自分の記憶」が突如現れた。
ある者は、兵士として人を殺した記憶。またある者は、病に伏し血反吐を吐く記憶。そしてまたある者は、犬として飼い主に懐く記憶。各々別々の時代、別々の人物、別々の生物の記憶を持ち、混乱しつつもなぜか懐かしんだ。
ガイの声は、ガイの視野にいた雪希達は勿論、上空から見ていたメラーフにも影響を及ぼした。
「何……この記憶……」
雪希の脳内に現れた記憶では、雪希はどこかの国で演劇をしている。一人称視点であるため自らの姿は確認できないが、その時点での記憶は保持しているため性別も名前も分かっている。
名前はセシリア・スノウ。時代は1600年代のイギリス。さすがにどんな演劇かは分からないが、時代的には恐らくシェイクスピアだろう。
雪希同様に龍華と瑠花の脳内にも記憶が現れ、2人は雪希以上に驚き、受け入れられない記憶だったのか頭痛が起こり頭を抱えた。
「メラーフ! これは一体……メラーフ?」
メラーフに声をかけた雪希。しかしメラーフからの応答はなく、驚愕と衝撃を表したような表情で空を見つめる。
「あや……の……?」
メラーフはその記憶の中で、舞那や雪希達の様に何かと戦っていた。そしてその戦いの中で、目の前で少女が死んだ。
一人称の名前は
「なぜ……なんなんだ、この記憶は……」
メラーフの能力に現れた記憶は、2018年の記憶だった。
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