《70》 奇抜な服の行き着いた果て

 理央と杏樹残りの生徒会メンバーを買い物に行かせ、室内には理央と杏樹、舞那と雪希だけが残った。さらに生徒会室は防音仕様になっているため、ここでどんな会話をしても外へ漏れることはない。


「そっか……連絡が取れなかったからもしかしてとは思ってたけど……」


 杏樹は驚いていたが、理央はそこまで驚いていなかった。昨日夜に撫子にメッセージを送ったのだが、いまだに返事が来ていないためある程度覚悟はしていた。


「……ごめん。撫子ちゃんを助けられなかった」

「舞那が謝る必要は無いよ。誰も謝る必要なんてない。私達はプレイヤー……誰かの死と共に生きていく運命さだめ。撫子だって謝罪は求めてないはずだよ」


 撫子がプロキシーになった以上、撫子のために舞那達ができること。それはただ一つ、撫子を殺すこと。それは理央も理解している。


「ただ……お願い、聞いてもらえる?」

「……私にできる範囲ならなんだってやるよ」

「……ガイを……私の腕を奪い、撫子をプロキシーにさせた……あの女を殺して!」


 怒りと悲しみを殺意でコーティングし、理央は声を荒げた。防音仕様でなければ、外を歩いていた生徒達は何事かと様子を伺っていただろう。


「……約束する。ガイを殺して、プロキシーを全滅させて、平和な日常を……私達の日常を取り戻す」

「ありがとう……そうだ、杏樹」


 理央に名を呼ばれた杏樹が、ポケットから理央と自らのアクセサリーを取り出し、舞那達の前に差し出した。


「理央と話し合ったの。もう私達はプレイヤーじゃない、普通の高校生として生きようって。木場さん達には悪いけど……私は戦いから逃げる」


 杏樹は自らの戦闘力の限界を理解していた。つまり、自分ではガイどころか普通のプロキシー相手にも苦戦すると思った。その末、杏樹は力の放棄を選んだ。


「……分かった。理央と杏樹ちゃんのアクセサリー、私が預かる」

「……舞那、そろそろ帰ろう」

「うん……じゃあ2人とも、またね」


 舞那と雪希は出入り口へ向かい、それ以上言葉を交わすことなく外へ出た。生徒会室から出た時、舞那達と理央達の間に隔壁が生まれた感覚がした。

 4人は理解した。プレイヤーとしての責務を放棄した理央達は、恐らくもう舞那達とは馴れ合わないと。

 責務を放棄する罪悪感と、尚も戦う舞那達に対する引け目。それだけで、隔壁が生まれるには十分だった。


 ◇◇◇


 雲ひとつない夜空に、黄色い満月が浮かぶ。


(綺麗な空……でも、今の世界は光が多い。これじゃあ夜空の質が下がる……やっぱり人間を滅ぼして、発達した文明をリセットさせないと。そのためには……)


 夜空を見つめるガイは、翼に光を集約し、光の翼を発動。発動したのは、促進の能力。


(あの女の子が作ったプロキシーに頼るのが手っ取り早いかな)


 ◇◇◇


「……! ……きろ! 木場舞那!」

「んん……メラーフ?」


 深夜1時過ぎ。舞那の眠りはメラーフにより妨げられた。


「まずい事が起こった……君が死んだあの日と同じ……いや、それ以上だ」

「っ!?」


 メラーフの発言に、舞那の眠気は一瞬にして消え去った。

 舞那の死んだ日に起こった事。それは、プロキシーの各所同時出現である。それを覚えていた舞那は、どれだけまずい状況なのかを理解した。


「出現個体数は?」

「……百は確実に超えている。それも……結界の外に!」

「なんで……とにかく案内して! 数が多いなら、時間を止めてる間に殺す!」


 舞那はスカートを履き、薄めのシャツを着てからアクセサリーを握った。


 ◇◇◇


 舞那の担当場所は結界内。最も出現個体数が多い場所。


「……あの日と同じ……けど、リミットにはまだ早い。明らかにガイの仕業だよね」

「だろう……が、どうやって結界の外にまでプロキシーを出現させたのか……僕には分からない。次にガイに会った時に聞こう」


 舞那もメラーフも、撫子の翼の能力である"感染"の概要は知らない。

 撫子の翼で感染した人間から、プロキシーの力は別の人間に伝染うつる。そして別の人間へと伝染うつり続けるうちに、どこかで感染した人間が結界の外へと出てしまった。

 結果、結界の外にもプロキシーの力が伝染うつり始めた。そして先程ガイが発動した"促進"により、結界内外の感染者が一斉にプロキシーへと化した。無論、感染するよりも前にプロキシー化が決まっていた人間も変化している。


「この数ではあるが、全て普通の個体だ。消耗を避け、できる限り金の使用は抑えた方がいいだろう」

「分かった。理央、行くよ……変身!」


 舞那は自らが所有していた青と、理央から受け取った黄のアクセサリーを使い変身した。

 その直後、暗闇の中から1人の少女が現れた。街灯がなかったため誰かは理解できなかったが、メラーフの発言で瑠花だということが分かった。この場所は出現個体数が多いため、舞那と瑠花の2人で担当することとなった。


「この数……出し惜しみしてる場合じゃない、か……」


 瑠花は赤と黄、さらに青のアクセサリーを取り出し、それぞれを武器へと変化させた。


「変身!」


 3色の光が瑠花を包み、その姿を変化させた。右手には赤の刀、左手には黄の銃、左腕には青の盾を装備している。

 舞那よりも濃い青のロングヘア。右の瞳は黄色、左の瞳は赤。一応3色の要素は現れている。

 舞那、龍華、心葵の3人は、2つのアクセサリーを同時に使用し変身する。舞那と瑠花が初めて顔合わせをした時、瑠花も舞那達同様に赤と黄、2つのアクセサリーで変身していた。

 しかし今、瑠花は誰も成し遂げていない"3つのアクセサリーの同時使用"を披露した。


(アクセサリーが3つ……というか! 何あの服!?)


 ただ、舞那にとっては3つ同時使用よりも、変身後の瑠花の姿に驚いていた。何せその姿は、俗に言うビキニアーマーそのものである。

 青いビキニ風の衣装と、肩、腕、脚に装着された紺色の鎧。スカートも装着されているが、その形状は何とも奇妙。スカートは臀部から両鼠径部までしか覆っておらず、ビキニに隠された股間と白い内腿が露出している。

 あくまでも戦闘服であり、加えて着用しているのは下着ではない。しかし見方によっては卑猥と感じられるような、なんともマニアックな服装である。


「ちゃんと挨拶してなかったっけ……私は羽黒瑠花。見ての通り、3つのアクセサリーを使って戦ってる」

「……私は木場舞那。その……恥ずかしくないの?」

「仕方ないでしょ。私の意思でこんな服になったわけじゃないし。それとこの格好で街中練り歩くわけでもないし、別に恥ずかしくはない」


 無駄に露出度の高い服を着て、深夜の路上に立っていることに何の抵抗も持たない瑠花を見て、舞那は「あ、この人強いわ」と確信した。


「そんな話はどうでもいい。とりあえず、この群れをどうにかしないと」

「……だね。じゃあさっさと片付けて、帰って寝よ!」


 舞那と瑠花は武器を構え、メラーフは舞那達のブロックのプロキシーを動かし始めた。

 続いて別ブロックに向かったメラーフだが、その最中、瑠花の服装について考えていた。


(あの服どこかで……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る