《60》 翼
「グライグが復活した!?」
「ああ。現在、木場舞那と風見心葵が交戦中だ」
止められた時間の中で、メラーフは雪希にグライグ復活を報告した。
相変わらず雪希は副作用を受けており、眠ることで疲弊した身体を可能な限り癒していた。しかしグライグ復活により、その眠りは妨げられられてしまった。
「……私も行く。私が舞那を守らないと……」
「……案内しよう」
◇◇◇
雪希とメラーフが舞那達のところへ到着した時、グライグとの戦闘はまだ続いていた。
互いに大きなダメージは負っておらず、生きている舞那と心葵を見て雪希は安心した。
「変身!」
走りながら変身した雪希は、変身直後に高速移動を発動。
雪希の気配に気付いていたグライグは、動きを予測し雪希の攻撃を防御。七支刀はグライグの翼にダメージを与えられず、受け止められた挙句弾き飛ばされた。
バランスを崩す雪希だったが、属性操作で自らの足下から上昇気流を発生させ転倒を避けた。
「その姿、エレイスに似ているが……力は及ばないな」
「くっ!!」
銀のアクセサリーで変身した雪希と、封印前のエレイスとでは、総合ステータスに差が出ている。
連日の戦いにおける疲弊も原因だが、それ以前に雪希は完全に同調しきれていない。雪希は言わば無理矢理アクセサリーと同調し、無理矢理力を使っているようなもの。そのため、雪希は力を引き出しきれていない。
現時点、雪希が引き出せているのは約70%程度の力。ギラウスは殺せたが、ガイの力が混ざったグライグ相手には、70%の力ではまだ足りない。
「貴様等に時間を割くのは無駄だと悟った」
グライグは翼を広げ、オレンジ色と灰色の光を集約させた。
今からグライグが行うことは、メラーフですら知らない。
「可能な限り、短時間で終わらせる」
グライグの翼は眩い光を発し、爆風を巻き起こす。
生物的だった2色の翼は、ガラス細工のような美しく透き通った翼へとその姿を変える。
翼の生えた少女。その姿はまるで天使だった。しかし翼が透けた今、グライグは誰かに描かれた神のような、神々しく美しい姿へと変えた。
(……ガイと言いグライグといい、軽々しく僕の想像を超えてくれる……まったく腹立たしい限りだ)
「見せてやろう。これが代行者の……神の力だ!」
グライグを中心に、翼と同じ色の光が広範囲に広がる。
数秒後、広がった光は溶けるかのように消えた。見たところ何も起こっていない。舞那達の身にも変化は無い。
「メラーフ、今までに思ったことはないか? なぜ私達は生まれながらに翼を持っているのか」
メラーフが生まれるより前、翼を持った神は存在していた。だが全ての神が翼を持っている訳では無かった。現にメラーフも持っていない。
それに対し、メラーフが生み出した代行者は、全ての個体に翼が生えている。
メラーフも過去何度か疑問に思ったが、特にその理由を追求することは無かった。
「この翼の正体は、私達のベースとなった神の力……つまりメラーフの力の塊。言わばこの翼は、無限に進化し続ける神の力が翼を模したもの」
「……君達を作った時、翼にはなんの力も与えなかった。しかし、翼の中にある神の力が、進化を促した……そういうことか?」
「神の力の一端を受け継いだ我々が、進化できないはずがない」
舞那も、雪希も、心葵も、メラーフとグライグの会話についていけなかった。
2人の会話は文字通り神の領域。神や代行者の構造などを理解していない人間は、到底理解できるはずがない。
「……その翼の力、ギラウスやガイも使えるのかい?」
「ああ。ただギラウスに関しては、私やガイのような戦闘向けの能力ではない」
「……その言い方だと、君達は各々で能力が異なる。そうだな?」
「そうだ。ちなみに私の持った力は"共鳴"。そろそろ来る頃だろう……」
「来る頃……っ!」
突如、メラーフは驚愕した。
驚愕する要因がわからなかった舞那達は、頭の中にクエスチョンマークが浮かんだ。
「メラーフ? どうしたの?」
「……この近辺の人間の反応が消えた」
メラーフには生体反応を感知する力がある。地上を歩く人間や猫、犬などは勿論、空を飛ぶ鳥、地中を進むミミズの命すら感じ取る。
生体反応感知は範囲が限られているため、ある程度離れた場所の生体反応は感じ取れない。それでも半径500m程度であれば感知は可能。
しかし、現在地から半径約300m。感知していたはずの人間の反応が消えた。
「集まれ……傀儡よ……!」
グライグが手のひらを空にかざす。
それに呼応したかのように、建造物を壊す音と、複数の人間が走る音が聞こえてくる。
「まさか……!」
メラーフの生体反応感知だが、生命であっても唯一感知できない存在がある。
神が作り出した、この世に存在しないはずの存在、プロキシーである。
「60……いや、70くらいか。殺すことは目的としていない。ただ、お前達を消耗させるには十分だ」
消えた生体反応。その全てが人間。
そして舞那達へ近付く存在に、メラーフは生体反応を感じられない。
「プロキシーの大群が来るぞ!」
「っ!!」
老若男女問わず、一定範囲内の人間はプロキシーへと変化した。
グライグの使用した力は共鳴。無差別に人間をプロキシーへと変化させ、傀儡として自らに従わせる。一応プロキシーは各々意識を持っているため、命令をしなければ他のプロキシーと同じ行動をとる。
舞那達はアクセサリーにプロキシーの力が宿っているため、プロキシーにはならなかった。
「……っ! メラーフ!!」
迫り来るプロキシーの群れを見て、舞那は思わずメラーフの名を叫んだ。
名を呼ばれるとは思わなかったメラーフは、一先ず舞那達プレイヤー達を除き、全ての時間を停止させた。
グライグもプロキシーも止まり、舞那達はため息を吐いた。
「金のアクセサリー……使わせて」
「「「っ!?」」」
金のアクセサリー。
舞那がその言葉を放った瞬間、雪希と心葵は驚いた表情を見せた。
しかしそれ以上に驚いていたのは、メラーフだった。
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