《59》 強奪

「「変身!」」


 舞那と心葵は同時に変身し、目の前で群れをなすプロキシーへと立ち向かう。

 出現反応は受け取っていない。しかしメラーフが出現に気付き、最も近い場所にいた2人にテレパシーを送ったのだ。

 出現したプロキシーは計10体。全員ガイにより生成された個体である。


「強盗ミッションの最中に呼び出しとか、ほんと勘弁して欲しいんだけど!」


 舞那と2人でテレビゲームに興じていたところの出撃命令に、心葵は少々苛立っていた。

 普通にプレイしていただけならまだしも、ゲーム内において重要な高難度ミッションの最中の呼び出しであったため、そのストレスは尋常ではない。


「はっ!」


 舞那は青と橙の能力を駆使しながら、プロキシーの群れに優勢を維持する。


(プロキシーが弱く感じる……いや、実際1回目よりも弱い)


 1回目の戦いでは、オルマとエレイスの力が混ざった状態のプロキシーが生まれた。しかし現在戦っているのはガイ1人の力のプロキシーであるため、当時戦っていた個体よりも多少ステータスは劣る。

 しかしそれ以上に、舞那が強くなっている。

 殺気、動きの機敏さ、一撃の重さ……全てにおいて前日のそれとは明らかに違う。

 舞那の戦う姿は、1回目の戦いにおける舞那と同一。

 舞うように敵を討ち、瞬く間に群れを駆除する舞那に、心葵は一瞬で魅了された。


(すごい……これが、舞那の本当の力……)


 灰と紫のアクセサリーを使う心葵も、プレイヤーの中では上位の強さを誇っている。

 しかしこの瞬間、舞那には決して及ばないと心葵は理解した。そして同時に、抱いていた好意がさらに高まった。

 心葵が3体目のプロキシーを駆除したと同時に、舞那は6体目のプロキシーを駆除した。


「あと1体!」


 舞那が最後のプロキシーへナイフを向け、確実に殺せるであろう軌道に乗った直後、事態は起こった。


「君もそれなりに強いみたいだね」

「っ! ガイ!!」


 突如現れたガイが舞那のナイフを防ぎ、プロキシーを守った。

 攻撃を警戒した舞那は瞬間移動を発動し


「はい残念」


 瞬間移動を発動する直前、ガイは舞那の手からナイフを奪っていた。

 ナイフを奪われたことで舞那は橙の力を失い、その姿は青のみで変身したものへと変わった。


「っ! アクセサリーが!」

「これは私が貰う」


 ガイが舞那の攻撃を防いだ時点で、ナイフは確かに握られていた。尚且つ、手からナイフが引き抜かれる感覚は無かった。

 ただ、気付けばナイフは奪われていた。

 しかし心葵は、動体視力向上を発動していたため、ガイが舞那の手からナイフを抜く瞬間を見えていた。


「あのスピード……廣瀬さんと同じ……!?」


 引き抜かれた感覚すら与えない程の高速。ガイのスピードは舞那や心葵の想像を超えていた。

 そのスピードは銀のアクセサリーと比肩しているであろうと心葵は予測した。ただ速いだけだ、そう思っていた。


「この中に私達の力が封印されていることは分かってる。つまり……」


 ガイは橙のアクセサリーを強く握り、小さなヒビを入れた。通常時のアクセサリーでも硬度は高いため、普通の人間ではヒビすら入れることはできない。

 その後ガイは1体だけ残されたプロキシーの首を掴み、アクセサリーを持ったままプロキシーの身体に自らの腕を刺した。

 プロキシーの内臓を抉り、肺に穴を開け、肺の中にアクセサリーを入れる。そしてガイは腕を引き抜き、プロキシーを掴む手を離した。


「こうすれば、グライグは蘇る」

「ヤバい……心葵!」


 舞那が名を呼ぶよりも前に、心葵はハルバードでの攻撃を開始していた。

 しかし心葵のアクセサリーは灰と紫。瞬間移動の橙でもなく、身体能力強化の赤でもない。動けるスピードにも限界があった。


「もう手遅れだよ」


 ハルバードがプロキシーを貫くよりも前に、プロキシーの身体はオレンジ色の光を発した。

 プレイヤーが変身する際の光よりも鮮やかで、目を背けたくなる程に眩いものだった。


「ぐっ……うおおおお!!」


 視界を奪われたが、心葵は攻撃をやめない。

 最後に自分が立っていた場所から、最後にプロキシーを見た場所までを思い出し、さらに自分が進んだ歩数から進行距離を予想。

 ハルバードが当たるであろう場所まで進んだ心葵は、光を集約したハルバードを扇状に振る。だが、


(外した……!)


 予想したプロキシーと実際のプロキシーの位置に誤差が生じ、心葵の攻撃は寸前のところで外れた。

 直後、プロキシーから放たれていた光は消え、光の中からオレンジ色の翼を生やした少女が現れた。


「紹介しよう。彼女の名はグライグ、我々代行者の一角だ」

「……ガイ……オメザ、ゴグズムゴルゾグバ?」


 グライグは復活当初のギラウス同様、地球上に存在しない言語で話す。

 舞那と心葵はその発言を理解できるはずもなく、ただただグライグの復活に歯噛みした。


「ザザキゾゴジガ。"エル"ゾゲグゼズカゼム」

「"エル"ゾゲグゼズ……ビジゴザ?」

「ビジ。ゾデボ、ドゴジザビゴガデザ」

「……ガザダ……手、を、貸そ、う」


 ガイとの会話の中で、グライグは体のベースとなった人間の記憶を読み取り、人間の言語を理解した。

 1分もしないうちに自分の知らない言語を理解する。人間には到底不可能な芸当である。


「じゃあとりあえず、ここにいる人間を殺してくれる?」

「ガイ! 悪いけど、さっきまで寝てたような奴に、私達は負けない。昨日だってあんたが生み出したプロキシーは全員殺した」

「知ってるよ。昨日生み出したのは所詮紛い物。だが復活したグライグは弱くない」

「……あんたの仲間のギラウス、私の友達に殺されてるんだよ。そいつも殺せないはずない」

「確かに、普通に復活させただけでは勝てないだろうね。ただ……」


 ガイはグライグに突き刺した自らの腕を見せた。


「同種であり別個体である僕の細胞が混じっていれば、それだけで強さは格段に上がる」


 ガイの腕には小指がなかった。

 グライグに自らの腕を刺した際、自ら指をちぎり体内に残留させた。

 今のグライグの状態をプレイヤーで例えるならば、橙のプレイヤーが灰のアクセサリーを拾い、同時に使用しているようなもの。心葵や龍華のようにステータスが高い。


「それじゃあ任せたよ、グライグ」


 ガイは姿を消し、グライグは翼を広げた。

 オレンジ色の翼には、毛細血管のように灰色の線が伸びている。ガイの指が体内に入った影響である。


「世界を救うため、お前達人間には滅んでもらう」

「……拒否する」

「神が決めたことは絶対だ。お前達には拒否権はない」

「あんた神じゃないでしょ。所詮はメラーフに作られた……ただの紛い物」


 神を自称するグライグに対し、心葵はそれを否定する。

 メラーフ曰く、プロキシーは神の代役。神の責務を果たしていたとはいえ、神に似せて作られた代役が神になることはない。

 グライグ達代行者は、それを理解した上で自らを神と言い張る。しかしグライグは神ではない。事実を突きつけられたグライグは眉を寄せ、怒りを露わにした。


「人間風情が……この私を侮辱するのか!」

「お望みとあらば、もっと言ってあげる」

「……殺す!!」


 グライグは翼を羽ばたかせ、2m程宙へと浮く。


「まずはお前からだ!」


 翼を強く動かし、グライグは心葵に向けて自身を加速させた。

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