《58》 疑惑

「いいねいいねぇ……このまま人類の半分を……ん?」


 明け方、人間をプロキシーへと変えていたガイが、あることに気付いた。

 自らが蘇ったこの色絵町は、結界に覆われている。

 動物や人間は結界をすり抜けるが、プロキシーであるガイは結界を超えることができない。

 触れれば手は痺れ、触れ続ければ痛みとなる。

 結界に攻撃をするが、結界は破れない。恐らくはガイがいくら攻撃しても、永遠に破れることはない。


(厄介なことを……まあいい。まずはこの結界内の人間をプロキシーへと変化させよう。結界を破る方法はその後考えればいい)


 ガイは結界から離れ、翼を羽ばたかせて上空へと舞った。


 ◇◇◇


 ベッドの上で目を覚ました舞那は、自らの胸の間に何かが挟まっていることに気付いた。

 それは、心葵の手だった。


(心葵……寝てる時までエッチなことしたいの?)


 舞那は胸から心葵の手を引き抜き、ベッドから下りた。

 服を着ていなかったことを思い出した舞那は、床に脱ぎ捨てていた下着と服を着用し、心葵の隣に立つ。


「心葵、もうお昼前だよ。起きて」


 舞那は心葵の身体を揺さぶる。しかし心葵は目を覚まさない。


(仕方ない……)


 舞那は心葵の耳元に顔を近付け、息を吹きかける。

 ビクンと心葵が震えたのを確認し、追い打ちをかけるように舞那は心葵の耳を甘噛みする。


「んっ……んあ?」

「おはよ、心葵」


 ◇◇◇


 朝食(昼食?)を済ませた舞那と心葵は、心葵の部屋でゲームをしている。

 上半身はシャツ下半身はショーツの女子高生2人が、レーティングZのクライムアクションゲームを交代でプレイしている光景はなかなかシュールである。

 しかしゲームはしているものの、会話の内容はゲームに対するものでななかった。


「じゃあつまり……舞那は前の戦いで死んだってこと……」

「そう。でも今はこうして生きてるし、結果オーライかなって」


 昨日、舞那はメラーフの力で1回目の記憶を取り戻した。

 しかしベースとなっているのは2回目の舞那であるため、性格などに変化は見受けられない。


「そういや、舞那に好きな人とかはいたの?」

「人として好きだった人はいたけど、性的な意味ではいなかった。仮にいたとしても、今の私の好きな人は心葵。それは変わらない」

「……っ! ちょっと恥ずかしい……けど、嬉しい」


 舞那に好きな人だと言われ、心葵は顔を赤らめて口元を緩ませる。

 今までは心葵が一方的に好きだと言い、性交中に舞那も何度か好きだと言ってきたが、こうして通常時に改めて好きだと言ったのは初。心葵が照れるのも仕方がない。


「あ、死んじゃった……交代」


 プレイミスによりゲームキャラが死亡、ミッションが失敗した。

 舞那はコントローラーを心葵に渡し、プレイを交代した。


「いいよね、ゲームは。1度死んでもこうしてコンティニューできるんだもん……」

「……いっそ、ゲームの中に生まれたかったな、私」

「それはダメ。心葵がこの世界にいなかったら、私……千夏だって、今みたいに笑顔でいられなかったかもしれない」

「……私にも、この世界に生まれた理由あったんだ……あ、ミスった」

「……交代しよ」


 再度プレイヤーは交代し、その後も2人はゲームを続けた。


 ◇◇◇


「メラーフ、来て」


 自らが作成したプレイヤーリストに加筆していた龍華が、思い出したようにメラーフを呼んだ。

 呼んですぐにメラーフは現れ、龍華に要件を尋ねた。


「昨日、赤と黄のアクセサリーを使ってた……羽黒瑠花だっけ? 何驚いてたの?」

「……相変わらず、君の洞察力は恐ろしいな」


 メラーフは表情に出していないつもりだった。

 しかし龍華はメラーフの反応を見逃さず、気になったため本人に直接その理由を尋ねた。


「羽黒瑠花は、木場舞那がアクセサリーを拾った日にプレイヤーになった。その時、彼女が持っていたアクセサリーは青だった」


 舞那がアクセサリーを拾い、初めてプロキシーと遭遇した際、メラーフは別の場所にいた。

 同時刻、別の場所にプロキシーが出現し、そこには瑠花がいた。メラーフは瑠花に諸々の説明をしていたため、舞那のところへは行けなかった。


「しかし昨日見た時、彼女は赤と黄を持っていた。僕の知らないうちにだ。覚えているか? 消息不明のプレイヤーが2人いる、と」

「うん。名前までは覚えてないけど」


 消息不明になったのは水澤夏海、高雄玲奈の2名。

 両者がプレイヤーになったのは舞那よりも後。メラーフの暴露話まではその存在は確認していた。

 メラーフは世界を見ているが、感じているわけではない。そのため、見ていないところで誰かが死んでも、メラーフはそれを確認できない。

 故に両者が戦闘で命を落としていたとしても、メラーフがその瞬間を見ていなければ知れるはずがない。

 しかしメラーフは、両者の消息不明と瑠花の使用していたアクセサリーを見て、瑠花に対してある疑惑を抱いた。


「消息不明のプレイヤーの所持していたアクセサリーは、赤と黄だった」

「っ! まさか……」

「いや、羽黒瑠花と消息不明の2人のプレイヤーは、学校の友人だったみたいだ。譲渡した可能性も十分にある」


 話を聞いた龍華は、瑠花のアクセサリーが変化した理由を予想した。

 しかしメラーフはそれを察し、龍華が口に出す前に阻止した。


「しかし、もしも羽黒瑠花が2人のプレイヤーを殺め、アクセサリーを奪ったのだとすれば……」


 メラーフと龍華は黙った。

 瑠花が2人のプレイヤーを殺めていたとすれば、瑠花は継続して他のプレイヤーへ攻撃するかもしれない。

 もしもそうなれば、龍華達も瑠花に対抗すべく武器を握らなければならない。

 再び、人間同士が武器を交えなければならない。


「今後、羽黒瑠花には気をつけてくれ。僕も可能な限り彼女を監視する」

「……お願い」

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