《47》 性欲

 午前9時。


「お世話になりました」


 看護師に頭を下げ、病室から去る。

 病院を出て、新鮮な空気を吸う。

 病院内に漂う独特な空気から解放されたことを実感し、満足げに息を吐く。

 風見心葵17歳。傷を完治させ、待ちに待った退院の日を迎えた。


「退院おめでとう、心葵」

「舞那……!」


 退院した心葵を待ち受けていたのは、眼鏡を外した状態の舞那。

 つい昨日までは眼鏡をかけていた舞那だが、諸事情により本日から眼鏡無しに変更された。


「ようやくコンタクトにしたの?」

「残念。何か視力が良くなってるみたいで、もう眼鏡無くても生活できるようになったの」


 以前舞那は、視力が良くなったことでレンズの度が合わなくなり、新たな眼鏡へ変更した。

 しかしそれ以降も視力は回復を続け、遂には眼鏡を必要としない状態へと進化(?)した。

 眼鏡をかけていないだけで多少雰囲気が変わり、心葵は何となく新鮮味を感じた。


「前の舞那も可愛かったけど、眼鏡無くなったら尚可愛くなった気がする」

「ありがと。さて、退院祝いに……約束の続き、する?」

「……私が言い出したのに、なんだかドキドキしちゃう……」


 舞那と心葵は目を逸らし、僅かに顔を赤らめた。


「……ば、場所どうする? うちは今お父さんがいるから絶対無理なんだけど、心葵ん家は?」

「大丈夫。今お母さんは県外にいるから、暫く帰って来ないんだ」

「そ、そう……」

「……行こっか」


 2人は心葵の家へ向かうため、病院から離れた。

 心葵の家までは約1km。

 その間、2人は手を繋いで歩いた。


 ◇◇◇


「やあ、あれから調子はどうだい?」


 自室でスマホゲームに耽っていた雪希の前に、いつも通りの表情のメラーフが現れた。


「別に……問題は無い」


 雪希はゲームを続けながら、メラーフの質問に答えた。

 雪希の身を案じての質問だったのだが、思いのほか淡白な返答だったためほんの少し傷付いた。


「それならいいんだが……もし、身体の一部が変色したり、五感に何かしらの変化が起きれば、すぐに銀のアクセサリーの使用を中断してくれ」


 銀のアクセサリーは他のアクセサリーと比べ強力。しかしそれ故に、使用者への負担も大きい。

 千夏のようにプロキシーへと変化してしまう可能性も踏まえ、メラーフは銀のアクセサリーの譲渡を躊躇っていた。

 だが今のところ雪希に異常は見られず、正直メラーフは安心している。


「もし異常を感じても変身を続ければ、君も木場舞那のように……」

「……大丈夫。副作用の成れの果てを知ってる私なら、危険を感じれば踏みとどまれる」


 メラーフと雪希の脳内に、1回目の2018年における舞那の姿が蘇る。

 銀のアクセサリーを使い、プロキシーの大群相手にたった1人で立ち向かい、苦戦することなく殲滅。

 その戦う姿は、誰よりも美しく、見るもの全てを魅了する。今後何十年経とうと忘れることができない程、見た者の脳へ鮮明に焼き付ける。

 無論、かつての戦いを見ていた雪希とメラーフも、死ぬまで忘れられないだろう。


「そうか……ではこれからも、気を付けて戦ってくれ」


 メラーフは消えた。

 かつての舞那を思い出してしまった雪希は、ゲームを中断してベッドに横たわった。


(舞那……)


 1回目の2018年で、雪希と舞那は今以上に仲が良かった。

 クラスは違っていたが、休み時間は殆ど2人で過ごした。


「まい、な……」


 舞那の声。

 舞那の匂い。

 舞那の肌。

 舞那の瞳。

 舞那の頬。

 舞那の脚。

 舞那の胸。

 舞那の手。

 舞那の唇。

 舞那と過ごした時間は、雪希の中でも特別な時間だった。

 それ以前に、雪希にとって舞那は特別な存在だった。


「ん……舞那ぁ……」


 ショーツの上から、指で股を弄る。

 舞那のことを思うだけで、雪希は下着を濡らす。


「んぁ……んっ」


 ショーツの中に右手を入れ、雪希は絶頂の時を待つ。

 ビクビクと身体を震わせながら、快感に悶える声を漏らす。

 1階には妹の秋希。メラーフとの会話はともかく、この声を聞かれるのはまずい。

 雪希は声を抑えるように、左手で口元を覆う。

 秋希に聞かれるかもしれない緊張と、快感のための餌とされる舞那に対する罪悪感で、雪希の興奮はさらに高まる。


(舞那にこんな姿見られたら……どう思われるんだろう……)

「~っ!」


 痙攣。

 雪希は舞那への罪悪感を抱き、絶頂を迎えた。

 自覚はしている。変態だと。

 しかし舞那のことを考えてしまえば、雪希は自らの欲を抑えられなくなる。

 一方的とは言え、それは純粋な愛ゆえの行為。やめられるはずがない。


(舞那……今、何してるのかな)


 ◇◇◇


「はぁ……んむ」


 下着姿の舞那と心葵は、ベッドの上で互いの舌を絡ませる。

 舞那にとっては初の、心葵にとっては久々のディープキスである。

 唾液と舌が絡み合い、甘い吐息が互いの顔に当たる。加えて互いの柔肌が触れ合い、2人の興奮はかなり高まっている。

 手を繋ぎ、胸に胸を押し付け、心葵は舞那の股に自らの脚を当てる。

 何度も千夏と同じようなことをして慣れているため、主導権は心葵にある。舞那はただ、心葵に任せている。


「舞那可愛い……キスしてるだけなのに、こんなに濡らしてる」

「言わないで……恥ずかしい……」


 舞那の反応に、心葵の興奮はさらに高まる。


「千夏並にエロい身体してるとは思ってたけど、感度は千夏以上かも……」

「仕方ないじゃん、だって……初めてだもん」


 いつもと違う舞那の声と表情は、心葵でなくとも心を持っていかれる。心葵はそう思った。

 そして心葵も勿論心を奪われ、徐々にブレーキが効かなくなってきている。

 心葵は舞那のブラを外し、その豊満な胸を露わにした。


「ほんといい身体……ちょっと嫉妬しちゃう……」


 舞那の胸を触る心葵。

 揉み、突き、挟み……ある程度舞那の胸を堪能した後、心葵は体勢を変えて顔の位置を下にずらした。


「んっ!」


 舞那の乳頭を口に含む心葵。

 初めての経験に、舞那は思わず声を漏らす。

 その声を聞いた心葵のブレーキはさらに緩んだ。


「ちょっ、心葵……」


 舌で乳輪をなぞり、ちゅぱちゅぱと厭らしい音を立てながら乳頭をしゃぶる。

 舞那の身体はビクビクと震え始め、恥ずかしながらも快感を得ていることが伝わってくる。

 さらに舞那は、自ら左手を股へ伸ばし、さらなる快感を求めた。


「あれぇ……自分でしちゃうの?」

「ち、違っ! これは……」

「……いいよ、続けて。私も続けるから……」


 心葵は舞那の上半身を、舞那は自らの下半身を責め、淫らな声と性欲を室内に充満させる。

 そして責めること約1分。


「んんっ!!」


 舞那は絶頂を迎えた。

 脚を震わせ、噴出した液でベッドを濡らす。


「はぁ……はぁ……ごめ、濡らしちゃった……」

「いいのいいの。さて、次は舞那が私を気持ちよくして」

「えぇ……ちょっと休憩、させて……」

「だぁめ」


 心葵は舞那に拒否権を与えず、自らのブラを外した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る